トゴン・テムル

トゴン・テムル：元朝最後の皇帝、激動の生涯

トゴン・テムル（在位：1333年 - 1370年）は、モンゴル帝国の第15代カアンであり、元朝の第11代皇帝として知られています。廟号は恵宗ですが、明朝から贈られた諡号である順帝の名で呼ばれることが多いです。モンゴル名はウカアト・カアン。

生涯

即位までの道のり

父のコシラが暗殺を逃れてチャガタイ・ハン国に滞在中、カルルク部族長の娘マイラダクとの間に生まれました。1328年に泰定帝が崩御し内乱が起こると、父と共に元に戻りますが、父の急死により、弟のトク・テムルが即位（文宗）。トゴン・テムルは皇位継承から遠ざけられ、高麗の大青島や広西の静江府へ流される不遇の時代を過ごしました。

1332年に文宗が崩御すると、皇后ブダシリは明宗の遺児であるトゴン・テムルの弟リンチンバルを擁立しますが、リンチンバルはわずか2ヶ月で崩御。実権を握っていたエル・テムルは文宗の次男エル・テグスを擁立しようとしますが、ブダシリがトゴン・テムルを推挙したため、広西から召還されることとなりました。しかし、エル・テムルはトゴン・テムルの即位を恐れ妨害。半年後、エル・テムルの死によってようやく即位が実現しました。

治世：政争と反乱の時代

即位後、トゴン・テムルはエル・テグスを立太子しますが、実権は太皇太后となったブダシリや、エル・テムルの死後に台頭したバヤンらが握っていました。バヤンの専横に対し、トゴン・テムルは甥のトクトと協力してバヤンを追放。しかし、その後はトクトとその父マジャルタイによる政治が始まり、トゴン・テムルは彼らを寧州に追放するなど、重臣間の政争に積極的に関与しました。

中央での政争が続く一方、地方では天災や疫病が相次ぎ、民心が元から離反。1348年には塩の専売制に反対する密売商人を中心に蜂起が起こり、各地で反乱が続発しました。1351年には紅巾の乱が発生し、中国全土に拡大する大反乱へと発展しました。

治世後期：混乱と北走

1354年、トクトが紅巾の乱鎮圧に出撃する際、トクトの軍事力掌握を恐れたトゴン・テムルは彼を解任し追放。これにより、カアンとしての権力を回復するものの、軍事力は地方軍閥に依存する状態となり、江南を鎮圧する大軍の編成が困難になりました。これが後の明の勃興を許す一因となります。

朝政への興味を失ったトゴン・テムルは、チベット仏教の秘儀に耽溺。皇太子アユルシリダラが成人すると、皇太子は政権奪取を計画し、側近たちと対立。朝廷は内紛状態に陥り、政治力と軍事力は壊滅的な状況となりました。

1368年、元軍は江南で勢力を拡大した朱元璋率いる明軍に敗北。ココ・テムルも徐達に破られ、明軍が河北に迫ると、トゴン・テムルは大都を放棄し上都へ逃れました。翌年には上都も陥落し、モンゴル高原南部の応昌府へ移動。1370年、応昌府で崩御し、皇太子アユルシリダラが即位しました。

死後

トゴン・テムルの死後も、元はモンゴル高原を中心に勢力を維持しましたが、明はトゴン・テムルが大都を放棄した時点で元は滅亡したと見做し、彼に順皇帝と諡号を贈りました。以降の元は、明の史観を反映して北元と称されます。

トゴン・テムルの治世は、元朝衰退の象徴として語られることが多いですが、その生涯は激動の時代を生き抜いた君主の姿を今に伝えています。

もう一度検索