ドイッチュラント (装甲艦)

ドイッチュラント級装甲艦「ドイッチュラント」

ドイッチュラント（Deutschland）は、ヴァイマル共和国時代に建造され、ナチス・ドイツ海軍が第二次世界大戦で使用した1万トン級の軍艦です。一部資料では「ドイッチュランド」と表記されることもあります。

概要

ドイッチュラントは、第一次世界大戦後、ドイツ海軍が初めて建造した大型軍艦であり、艦名はドイツ語で「ドイツ」を意味します。ヴェルサイユ条約の軍備制限下で建造されたドイッチュラント級装甲艦の1番艦であり、イギリスや日本では「ポケット戦艦」や「豆戦艦」として知られました。

第二次世界大戦の勃発後、アドルフ・ヒトラーは、艦名がドイツを意味するドイッチュラントが失われた場合に国民へ与える心理的影響を懸念し、本艦をプロイセンの将軍にちなんで「リュッツォウ (Lützow)」と改名しました。1939年11月15日、ドイッチュラント級の3隻は装甲艦から重巡洋艦へと艦種変更されました。

艦歴

建造

ドイッチュラントは、ヴァイマル共和政下で旧式戦艦の代艦として建造が承認され、1929年2月5日にキールのドイチェ・ヴェルケ造船所で起工されました。1931年5月19日には、5万6千人の観衆が見守る中、パウル・フォン・ヒンデンブルク大統領によって進水しました。進水時には命名に先駆けて進水してしまうというハプニングが発生しています。艤装は同年後半に完了し、1932年5月に処女航海を行い、1934年11月12日に就役してヴィルヘルムスハーフェンに配備されました。

スペイン内戦

スペイン内戦中、ドイッチュラントはスペイン沖に派遣され、フランシスコ・フランコ将軍率いる反政府軍を支援しました。1936年から1939年の間に7回にわたりスペイン沖に派遣されています。ある時、ロルフ・カールス少将の旗艦であったドイッチュラントは、イギリス海軍の軽巡洋艦ガラティア、イタリア海軍の駆逐艦マルチェッロと共に地中海のマヨルカ島パルマ港に停泊していました。共和国軍がパルマ港を空襲すると宣言したため、最先任のジェームズ・サマヴィル少将（旗艦ガラテア）がドイッチュラントとマルチェッロを指揮して港外へ脱出、3隻からなる国際混成戦隊を指揮しました。パルマ港への帰投時、サマヴィル少将は各艦の行動と練度を賞賛し、カールス提督も「三国（イギリス、ドイツ、イタリア）海軍がこのように協力できる日が来れば良い結果となるだろう」と返信しています。

1937年5月29日、4回目のスペイン派遣作戦中にドイッチュラントは共和国政府軍の爆撃機による攻撃を受け、31名が死亡、101名が負傷しました（ドイッチュラント号事件）。報復として、姉妹艦アドミラル・シェーア率いる艦隊はアルメリア市を砲撃し、民間人19名を殺害、35戸の建物を破壊しました。ドイッチュラント号乗組員の遺体はジブラルタルに運ばれ埋葬されましたが、ヒトラーの命令でドイツ本国へ移送され、大規模な葬儀の後に再埋葬されました。当時、日本の重巡洋艦「足柄」は、イギリス国王ジョージ6世戴冠記念観艦式に参加後、帰国途中にジブラルタルでドイッチュラントと遭遇しており、小林宗之助少将はドイッチュラントの外観上の損傷が少ないにもかかわらず死傷者が多数出た原因を火災であると推測しています。

第二次世界大戦

第二次世界大戦開戦直前、ドイツは装甲艦2隻（ドイッチュラント、アドミラル・グラーフ・シュペー）を通商破壊のため大西洋に派遣しました。ドイッチュラントは1939年8月24日にヴィルヘルムスハーフェンを出航し、デンマーク海峡を通過して大西洋に進出しました。開戦後しばらくは攻撃が許可されずグリーンランド南東沖に待機していましたが、許可が下りると作戦を開始し、10月5日にはバミューダ東方沖でイギリス船ストーンゲート (Stonegate) を沈めました。その後北上し、10月9日にニューファンドランド島沖でイギリス船シティ・オブ・フリント (City of Flint) を拿捕、10月14日にはノルウェー船ローレンツ・W・ハンセン (Lorentz W. Hansen) を沈めました。10月15日には、日本の貨客船「箱根丸」と遭遇しています。その後は戦果を挙げることなく、デンマーク海峡を通過して11月15日にキールへ帰還しました。

1940年4月、リュッツォウ（旧ドイッチュラント）はヴェーザー演習作戦（ノルウェー侵攻）に参加しました。当初リュッツォウは南大西洋で捕鯨船団を攻撃する予定でしたが、ヒトラーの命令により同作戦への参加が決定しました。しかし、4月6日にエンジンの台座に亀裂が発見されたため、大西洋への出撃は延期されました。リュッツォウは当初トロンハイム攻略部隊に配属されましたが、後にオスロ攻略部隊に編入され、オスカー・クメッツ少将の指揮下、重巡洋艦ブリュッヒャーや軽巡洋艦エムデンなどと共に4月8日にキールを出撃、オスロ・フィヨルドへ進入しました。4月9日朝、ドレーバク水道を通過しようとした際、ノルウェー軍のオスカーボルク要塞からの砲撃を受け、先頭のブリュッヒャーが沈没。リュッツォウも15cm砲弾3発を受け損傷し、残りの艦艇を率いて一旦後退しました。翌日要塞が降伏すると、リュッツォウはオスロへ向かいましたが、帰路のスカゲラク海峡北でイギリス潜水艦スピアフィッシュ (HMS Spearfish) から雷撃され艦尾を損傷、修理は1941年春までかかりました。同年6月12日には、ノルウェー沖でイギリス空軍の雷撃機から攻撃を受け、魚雷1本が左舷後部に命中、6月14日にキールへ帰還し、1942年1月まで修理が行われました。

修理完了後、リュッツォウはノルウェー海や北極海でソ連向け援助船団の迎撃任務に従事しました。1942年12月31日には、レーゲンボーデン作戦の一環としてバレンツ海海戦に参加。クメッツ中将率いる重巡洋艦2隻（アドミラル・ヒッパー、リュッツォウ）と駆逐艦部隊は、連合国軍のJW51B船団と護衛部隊（軽巡ジャマイカ、シェフィールド）などと交戦し撃退され、エーリヒ・レーダー元帥の辞任につながりました。その後、1944年9月にはバルト海で退却するドイツ軍を支援するため艦砲射撃を行い、数ヶ月にわたって砲撃を続けました。1945年4月にはイギリス空軍による5トン爆弾の攻撃で至近弾を受け、艦底を損傷しスヴィネミュンデで着底。応急修理後も陸上支援の砲撃を続けましたが、同年5月4日に乗員によって放棄されました。

戦後

1946年春に浮揚され、リュッツォフ (Лютцов) の名でソ連海軍に編入されましたが、モスボール処理されました。1947年7月20日には修復不可能と判断され、実験用標的艦として利用されることになり、同年7月22日にバルト海で沈没しました。

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