ナチス・ドイツの機構

ナチス・ドイツの政治機構

ナチス・ドイツ時代、ドイツは複雑で重層的な政治機構を有していました。国家社会主義ドイツ労働者党（NSDAP）の機関と政府機関が密接に連携し、時に権限が重複するなど、その構造は非常に不透明でした。本稿では、ヒトラー政権下の主要な政治機関、その役割、関係者について解説します。

政府機関

指導部:

総統（ドイツ国首相）: アドルフ・ヒトラー。絶対的な権力を掌握していました。
首相官房長官: ハンス・ハインリヒ・ラマース。ヒトラーを補佐する要職でした。
大統領官房長官: オットー・マイスナー。形式上は大統領府の長官でしたが、実質的な影響力は限定的でした。

内閣:

ヒトラー内閣は様々な省庁から構成され、その中には、国家組織としての役割が曖昧で、権限が重複するケースもありました。
外務省: コンスタンティン・フォン・ノイラート、ヨアヒム・フォン・リッベントロップ。ドイツの外交政策を担いました。
内務省: ヴィルヘルム・フリック、ハインリヒ・ヒムラー。国内治安や行政を統括しました。ヒムラーの台頭により、警察組織との連携を強めていきました。
国防省（後に国防軍最高司令部OKWに改組）: ヴェルナー・フォン・ブロンベルク。軍事を統括していました。
宣伝省: ヨーゼフ・ゲッベルス。国民世論の操作と宣伝活動を行いました。
航空省: ヘルマン・ゲーリング。航空開発と空軍を統括しました。
財務省: ルートヴィヒ・シュヴェリン・フォン・クロージク。国家財政を管理しました。
経済省: ヒャルマル・シャハト、ヴァルター・フンク。国家経済政策を策定・実行しました。
司法省: オットー・ゲオルク・ティーラック。司法制度を管轄しました。人民法廷は、国家反逆罪などを裁く特別な裁判所でした。
食糧農業省: リヒャルト・ヴァルター・ダレ、ヘルベルト・バッケ。食糧供給と農業政策を担当しました。
労働省: フランツ・ゼルテ。労働政策を管轄しました。
文部省: ベルンハルト・ルスト。教育政策と文化政策を監督しました。
宗教省: ハンス・ケルル、ヘルマン・ムース。教会との関係を取り持つ役割を担っていました。
運輸省: ユリウス・ドルプミュラー。交通政策を担いました。
郵政省: ヴィルヘルム・オーネゾルゲ。郵便・通信事業を監督しました。
軍需省: フリッツ・トート、アルベルト・シュペーア。戦争遂行に必要な物資の生産を管理しました。
東部占領地域省: アルフレート・ローゼンベルク。ソ連占領地域の統治を担当しました。

その他:

四カ年計画遂行部: ヘルマン・ゲーリングが率いる経済計画機関。
高速道路監査局: アウトバーン建設を監督しました。
帝国銀行総裁室: 国家の金融政策を担いました。
国家青少年事務局: 青少年教育を管轄しました。
国家林野庁長官事務室: 林業を管轄。

軍事組織

国防軍最高司令部（OKW）: 1938年設置。国防軍全体の最高司令部。ヴィルヘルム・カイテルが総長を務めました。
陸軍総司令部（OKH）: 陸軍を指揮しました。
海軍総司令部（OKM）: 海軍を指揮しました。
空軍総司令部（OKL）: 空軍を指揮しました。
国防軍情報部（Abwehr）: ドイツ軍の諜報機関。
武装親衛隊（Waffen-SS）: 親衛隊の戦闘部隊。

治安機関

国家保安本部（RSHA）: 1939年設置。ゲシュタポ、クリポ、SDを統合した組織。
ゲシュタポ: 秘密警察。
SD: 親衛隊情報部。
秩序警察（Orpo）: 一般警察。
保安警察（SiPo）: 政治警察。
アインザッツグルッペン: 移動殺戮部隊。ユダヤ人大量虐殺に関与しました。

NSDAP（国家社会主義ドイツ労働者党）

NSDAPは、ナチス政権の中枢を担う政党でした。党組織は階層的で、中央から地方まで厳格な組織構造を持っていました。
全国指導部: 党の最高意思決定機関。
親衛隊（SS）: 党のエリート組織。ヒムラーが全国指導者でした。
突撃隊（SA）: 党の準軍事組織。
ヒトラーユーゲント: 青少年組織。
ドイツ少国民団: ヒトラーユーゲントの少年部。
その他多数の党組織: 国家社会主義自動車軍団（NSKK）、国家社会主義航空軍団（NSFK）、国家社会主義婦人団（NSF）など。

社会政策

国家労働奉仕団: 失業対策として設立されましたが、後に軍事的訓練にも利用されました。
ドイツ労働戦線: 国家統制下の労働組合。
国家社会主義全国体育連盟: スポーツ活動を統制しました。
ドイツ女子同盟: 女性組織。

ナチス・ドイツの政治機構は、ヒトラーを頂点とするピラミッド型構造でしたが、様々な機関の権限の重複や複雑な権力闘争も存在しました。これは、権力の集中と独裁体制維持というナチス政権の特性を反映していると言えるでしょう。本稿は簡潔に主要機関を解説したものであり、各機関の活動内容や詳細については、さらに詳しい資料を参照する必要があります。

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