ハッラーンの戦い

ハッラーンの戦いとは

1104年5月7日、現在のトルコ南部で繰り広げられたハッラーンの戦いは、十字軍とセルジューク朝軍の間で発生した重要な戦闘です。この戦いで十字軍は手痛い敗北を喫し、その後の十字軍国家の勢力図に大きな影響を与えました。この戦いは、第1回十字軍によって誕生した十字軍国家にとって、初の大規模な会戦であり、フランク人による領土拡大の流れを大きく転換させる出来事となりました。セルジューク朝は、十字軍遠征で失われた領土をアンティオキア公国から奪還することに成功しました。

戦いの背景

1104年、エデッサ伯ボードゥアン2世はハッラーンを攻撃し、包囲戦を開始しました。ボードゥアン伯は援軍を要請し、アンティオキア公ボエモン1世、ガリラヤ公タンクレードがこれに応じ、アンティオキアからハッラーンに向けて北進しました。包囲軍には、ボードゥアン伯の他に、ジョスラン・ド・クルトネー、ラテン・アンティオキア総大司教ベルナール・ド・バランス、ラテン・エルサレム総大司教ダゴベルト・ダ・ピサなどが参加していました。

一方、セルジューク朝の諸侯は、モースル領主ジェケルミシュとアルトゥク系マルディン領主スクマーンが軍勢を率いてカーブル川流域地域（現在のラース・アル＝アイン付近）に集結しました。セルジューク軍は1104年5月にエデッサを攻撃し、十字軍の注意をハッラーンからそらす、または十字軍が不在の隙にエデッサを奪い取ることを目指しました。

戦闘の経過

12世紀のアラブ人歴史家イブン・アル＝カラニシによると、タンクレード公とボエモン公は包囲戦中にエデッサに到着しました。また、1234年の年代記では、彼らはハッラーンの城門に最初に到着したとされています。いずれにせよ、セルジューク軍は十字軍を誘い出すために偽装退却を行い、十字軍はこれを追撃しました。

セルジューク軍は小競り合いの中で偽装退却を開始し、十字軍は南方に向けて追跡しました。歴史家マシュー・ド・エデッサは、十字軍の追跡は2日間続いたと述べていますが、別の歴史家ラウール・ド・カーンは3日間続いたと述べています。イスラム側の歴史家イブン・アスィールによれば、本戦はハッラーンから約12キロメートル離れた場所で行われたとされています。

現代の歴史家の多くは、当時の歴史家アルベール・ド・アーヘンやフルチャー・ド・シャルトルの記述を支持しており、戦闘はラッカ市街に面した平原で行われたとされています。ラッカはハッラーンから2日の距離に位置しています。

戦闘では、ボードゥアン伯とジョスランが左翼のエデッサ軍を指揮し、ボエモン公とタンクレード公が右翼のアンティオキア軍を指揮しました。ラウール・ド・カーンによれば、セルジューク軍が退却から反転して攻撃してきた際、十字軍は準備が整っておらず、ボードゥアン伯やボエモン公は鎧を身に着ける暇もなく戦わざるを得ませんでした。

戦闘はセルジューク軍が優勢に進み、ボードゥアン伯の軍は完全に打ち破られ、ボードゥアン伯とジョスランはセルジューク軍の捕虜となりました。ボエモン公率いるアンティオキア軍は戦場から脱出し、エデッサに逃れることができました。セルジューク軍は勝利を収めましたが、指揮官ジェキルミシュは戦利品を十分に得られず、もう一人の指揮官スクマーンの陣営から捕虜であるボードゥアン伯を誘拐したとされています。ジョスランとボードゥアン伯は身代金を支払われましたが、それぞれ1108年と1109年まで解放されませんでした。

戦闘の意義

ハッラーンの戦いの敗北は、アンティオキア公国に大きな影響を与えました。東ローマ帝国は、アンティオキアの敗北を帝国によるアンティオキア統治の正当性を主張する根拠として利用し、ラタキア地方やキリキア地方の一部を占領しました。さらに、アンティオキア公国が統治していた多くの都市が公国に対して反乱を起こし、アレッポを拠点とするイスラム勢力によって再征服されました。キリキア・アルメニア王国の支配下にあった地域も、ビザンツ派またはアルメニア派としてアンティオキアに反旗を翻しました。

各地で反乱が頻発しただけでなく、この敗戦によってボエモン公は兵力不足に陥り、イタリアに募兵に向かう必要に迫られました。ボエモン公はタンクレードを摂政としてアンティオキアに残し、イタリアへと出発しました。

ギヨーム・ド・ティールは、この敗戦を「比類なき惨事」と表現しています。アンティオキアは翌年までに状況を立て直しましたが、東ローマ皇帝アレクシオス1世コムネノスによってデヴォル条約の締結を余儀なくされ、アンティオキアは東ローマ帝国の属国となり、摂政タンクレードもこれを承認せざるを得ませんでした。アンティオキアはその後、1119年にも再び手痛い敗北を喫することになります。一方、エデッサは1144年まで存続しましたが、それはイスラム勢力が分裂していたためであり、エデッサ伯国が再び勢力を回復することはなかったのです。

参照文献

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