パラメーデース

パラメーデースとは

ギリシア神話において、トロイア戦争に参戦したアカイア人（ギリシア側）の主要な将軍の一人です。彼は単なる戦士としてだけでなく、卓越した知性と弁論の才能で知られる英雄でした。その賢さは多方面に及び、ギリシアにおける文明の発展に寄与した文化英雄とも位置づけられています。多くの伝承で、文字の一部、数、度量衡、さらには将棋のような盤上遊戯や賽子（さいころ）といった娯楽の発明者とされています。

系譜

パラメーデースは、アルゴリス地方の都市ナウプリアの王ナウプリオスの子として生まれました。父ナウプリオスは、アルゴス王ダナオスの娘アミューモーネーと海神ポセイドーンの息子、同名の先祖ナウプリオスの子孫にあたるとされ、優れた航海術の持ち主でした。母はクレーテー島の王カトレウスの娘クリュメネーとされるのが一般的です。クリュメネーはミュケーナイ王アガメムノーンとスパルタ王メネラーオスの母アーエロペーの姉妹にあたるため、パラメーデースは父方ではアルゴス王家の、母方ではクレーテー王家の血を引くことになります。この血縁関係から、後代の文学作品ではアガメムノーンやメネラーオスと親しい関係にあったように描かれることもあります。母親については、他にもピリュラーやヘーシオネーという説もあります。兄弟にはオイアクスやナウシメドーンがおり、またリビュエーという名の娘がヘルメース神との間にリビュスをもうけたという伝承も伝えられています。

トロイア遠征への貢献とオデュッセウスの憎悪

トロイア戦争が勃発し、アカイア勢はオデュッセウスを遠征軍に加えるため、彼の治めるイタケー島へ使者を送りました。しかし、オデュッセウスは国を離れることを厭い、狂気を装って参加を避けようとします。アポロドーロスによれば、パラメーデースはその偽りを見破り、オデュッセウスの幼い息子テーレマコスを剣の前に突き出すという芝居を打つことで、オデュッセウスに狂気が偽りであることを認めさせ、遠征への参加を承諾させました。ヒュギーヌスによると、オデュッセウスが鋤を使って畑を耕し狂人を装う中、パラメーデースがテーレマコスを鋤の前に置いたとされます。この一件により、パラメーデースはオデュッセウスの深い恨みを買うことになります。

悲劇的な最期：オデュッセウスの謀殺

トロイア戦争中に、パラメーデースはオデュッセウスの策略によって、ギリシア陣営への裏切り者として処刑されるという悲劇的な最期を迎えます。伝承によって詳細は異なりますが、共通するのはオデュッセウスが偽りの証拠を用いて彼を陥れたという点です。

アポロドーロスの記述では、オデュッセウスは捕虜にしたプリュギア人に偽の内通の手紙を書かせ、さらにパラメーデースのテントに黄金を隠しました。そして、偽の手紙がアガメムノーンの手に渡るように仕向けた結果、テントから黄金が見つかり、手紙の内容が事実と見なされ、パラメーデースは石打ちの刑に処されました。

ヒュギーヌスのより詳細な物語では、オデュッセウスはまず夢のお告げと称してアガメムノーンに陣営を一時的に移させ、その間にパラメーデースのテントがあった場所に大量の黄金を埋めました。次に、自ら偽の内通手紙を作成し、プリュギア人捕虜にプリアモスへ届けるよう命じて解放した後に、部下にその捕虜を殺させます。翌日、陣営が戻されると、兵士によって発見された手紙がアガメムノーンに届けられました。手紙にはプリアモスからパラメーデースへの謝礼として黄金が約束されていましたが、テントから黄金が見つかったことで、アガメムノーンは内通を確信し、パラメーデースを処刑しました。

ピロストラトスの説では、オデュッセウスはアガメムノーンに、パラメーデースがアキレウスと組んで指揮権を奪おうとしていると讒言し、パラメーデースを排除するよう仕向けます。処刑の際、パラメーデースは一切嘆願せず、「真実よ、我はお前を不憫に思う。お前は我よりも先に死に絶えたのだからな」と述べ、自ら石打ちの刑を受けたと伝えられています。

処刑後、パラメーデースの遺体はアキレウスと大アイアースによって、アガメムノーンの命令に反して埋葬されました。特に大アイアースはパラメーデースの死を深く悼み、遺体を運び埋葬した後、しばらく戦闘から遠ざかったとされます。アキレウスも彼の死を悼み、竪琴で歌ったり、霊が現れるように祈ったりしたといわれます。

他の伝承では、パラメーデースは釣りの最中にオデュッセウスとディオメーデースに溺死させられた（叙事詩『キュプリア』）とか、騙されて井戸に降りたところを石を投げ込まれて殺された（クレーテーのディクテュス）といった異説も存在します。

死後の影響と父ナウプリオスの報復

パラメーデースの不正な処刑は、トロイア戦争後、多くのギリシア人英雄に降りかかる悲劇の一因となったとされます。弟オイアクスが帰国途中の船の櫂に兄の死を書き記して父ナウプリオスに送ったことで、ナウプリオスは息子を失ったことを知ります。彼はギリシア陣営に賠償を求めましたが無視されたため、復讐を決意します。ナウプリオスはギリシア各地を巡り、留守中の英雄たちの妻たちに不貞を唆しました。さらに、トロイア戦争終結後に帰国するアカイア人の船団を待ち受け、夜間にカペーレウス山で偽の狼煙を上げました。これを港の灯と誤認した多くの船が岩礁に乗り上げ難破し、助かった者もナウプリオス自身によって殺害されました。しかし、パラメーデース自身は死後、ギリシア人の欺瞞を許していたため、彼らの破滅を望んでいなかったという話も伝えられています。

文化英雄として

パラメーデースは非常に賢く、ケンタウロスの賢者ケイローンに学んだとも、あるいは独学でケイローン以上の知識を得たとも言われます。様々な文明的な発明が彼に帰されており、人々に恩恵をもたらした人物と考えられていました。アイスキュロスの悲劇『パラメーデース』（断片のみ現存）によると、彼はかつて野獣同然だったギリシアに秩序をもたらし、最初に数を考案しました。また、軍隊組織を整備したり、一日三食の習慣を定めたり、星々の運行を教えたりしたとされます。ピロストラトスも、彼以前には季節や月の巡り、法律、度量衡、数の概念さえも定まっていなかったと述べています。

特に文字の発明者としても有名です。エウリーピデースは、彼が子音と母音を結びつけて文字を生み出したと語り、ヒュギーヌスはギリシア文字のうち11文字を、大プリニウスはΖ・Ψ・Φ・Χの4文字を発明したとしています。

また、娯楽の発明も彼に帰されています。ソポクレースの作品によれば、飢餓に苦しむ兵士たちの気を紛らわせるために、将棋のような盤上遊戯の駒や賽子を発明したとされます。この伝承は彼の故郷アルゴスで広く信じられており、テュケー女神の神殿にはパラメーデースが奉納したとされる賽子があったと言われています。アルゴスでは将棋の駒を「パラメーデースの駒」と呼ぶ習慣もあったそうです。

英雄崇拝

ピロストラトスによると、アイオリス地方では古くからパラメーデースに対する崇拝が行われていました。レスボス島のメーテュムナー市とその近くの山には、彼の神殿が建てられ、武装した姿の像が置かれました。海沿いの住民たちは集まって彼に供犠を捧げたといいます。彼はトロイアや埋葬された地で、しばしば霊として人々の前に姿を現すと信じられていました。

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