ビザンティン哲学

ビザンティン哲学は、8世紀から15世紀にかけての東ローマ帝国（ビザンティン帝国）において発展した独特の哲学的思想です。キリスト教的世界観が支配的な特徴ですが、プラトン、アリストテレス、そして新プラトン主義といった古代ギリシア哲学からの影響も色濃く残っています。

歴史

古代ギリシアの科学・文化は、ビザンティン帝国において中世を通じて存続しました。ビザンティン哲学は、キリスト教を基盤としながらも、プラトン、アリストテレス、新プラトン主義に依拠して展開されました。

7世紀には、ダマスクスのヨハネスがキリスト教神学を体系的に説明した百科全書を作成しました。9世紀には、コンスタンティノープル総主教フォティオス1世が古代の著述家の作品を収集し、アリストテレスの論理学を研究しました。その弟子のカエサレアのアレタスは、プラトンやアリストテレスの著書に注釈を加えました。

11世紀・12世紀には、哲学教育への関心が高まり、ミカエル・プセルロス、ニカイアのエウストラティオス、エフェソスのミカエルらがアリストテレスの注釈書を著しました。13世紀・14世紀には、ニケフォロス・ブレンミュデスやテオドロス・メトキテスといった重要な哲学者が現れました。また、グレゴリオス・パラマスは、ヘシュカズムとして知られる神秘主義運動を発展させました。ヘシュカズムは、神の像の幻視ともいわれるタボルの光の像を達成するための瞑想的なイイススの祈りを伴います。

ヘシュカズム運動は、東方キリスト教圏において哲学的な教養を備えた人々を西方へ移動させるきっかけとなり、ルネサンスの出現に重要な役割を果たしました。ヘシュカズムに反対したカラブリアのバルラアムは、西方のローマカトリック神学の形成に寄与しました。また、皇帝ヨハネス6世カンタクゼノスの周辺では、ラテン語文献が体系的にギリシア語に翻訳されました。デメトリオス・キュドネスは、トマス・アクィナスの著作をギリシア語に翻訳し、トマス主義を広めました。

ビザンティン帝国最後の偉大な哲学者であるゲオルギオス・ゲミストス・プレトンは、プラトニズムを復興することで帝国の立て直しを図りました。彼は古代哲学が西方に伝播する上で重要な役割を果たしました。

コンスタンティノープル大学

東ローマ社会は、当時の世界平均と比べて教育水準が高く、識字率も高かったと言われています。古典古代のアカデメイアに連なる安定した教育システムが存在し、初等教育は村レベルまで普及していました。東ローマ帝国では、教育はある程度公共的なものであり、主要都市では同様の制度が施行されていました。

コンスタンティノープル大学は、425年にテオドシウス2世によって創立され、法、哲学、医学、算術、幾何学、天文学、音楽、修辞学など、様々な分野の講座が設置されました。この大学は15世紀まで存続し、多くの学生が修辞学、哲学、法などを学び、国や教会の官僚を目指しました。

大学は、プラトン主義やアリストテレス主義の伝統に基づいた生きた哲学の伝統を維持し続けました。1204年の第4回十字軍によって国家としては衰退期を迎えますが、大学はオスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落まで、教会の援助を受けながら存続しました。

主要な哲学者

10世紀以前

フォティオス (858 - 867)

11世紀

ミカエル・プセルロス（1018-1078）：東ローマ時代中世において最も博識な人物の一人とされ、哲学のあらゆる分野を教えました。アリストテレスのオルガノンを注釈し、プラトンと新プラトン主義を重視しました。
イオアンネス・イタロス（1025-1082後）：プセルロスの弟子であり、アリストテレスの解釈に優れていましたが、教会によって異端とされました。

12世紀

スミルナのテオドロス（11世紀中～1112後）
ニカイアのエウストラティオス：イオアンネス・イタロスの弟子であり、神学と哲学の両方に精通していました。アリストテレスの演繹的推論を重視し、異端として非難されました。
エフェソスのミカエル（12世紀）：コンスタンティノープル大学で教鞭をとり、アンナ・コムネナにも哲学を教えました。アリストテレス注釈者として知られ、アレクサンドロスのアフロディシアスと比較されました。
テオドロス・プロドロモス（1100-1170）：エウストラティオスの影響を受け、アリストテレスの注釈を行いました。

13世紀

ニケフォロス・ブレンミュデス（1197-1269）：パライオロゴス朝ルネサンス期において重要な哲学教師・学者でした。
ゲオルギオス・パキュメレス（1242-1310）：歴史家であり、アリストテレスの哲学分野に関する注釈や教科書を著しました。
ソフォニアス（13-14世紀）：パキュメレスと同時代人で、アリストテレスの著作のパラフレーズを著しました。

14世紀

ニケフォロス・クムノス（1250/55–1327）
テオドロス・メトキテス（1270-1332）

15世紀

プレトン（1360–1452）：東ローマ帝国末期の哲学者で、プラトニズムの復興を目指しました。
ゲンナディオス2世（1405–1472後）：プレトンに対抗し、アリストテレスを擁護しました。トマス・アクィナスの影響を受け、アリストテレス注釈者として知られています。

議題と思想

ビザンティン哲学の主な特徴は以下の通りです。

存在の原理としての神の位格
神による世界の創造と時間的に始まりと終わりのある宇宙
世界創造の継続とその意味
感覚的な世界が無時間的な基盤を神的な知性（ヌース）のうちに持つこと
世界と人間は神の摂理の対象であるが、自由意志と自己決定も重視されること
神と人間の関係は愛に基づいていること

ネオプラトニズム

ビザンティン哲学では、神の神秘的・宗教的理解と哲学的理解の関係が重視されました。人間の全体的な構成単位としての魂、理性的・思索的存在としての心が重要視され、キリスト教とギリシア哲学の融合が見られました。オリゲネスのヌースに関する教えは、その初期の例と言えるでしょう。

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