フォード・サンダーバードV8 (ミディアムブロック)

サンダーバードV8：アメリカ車史を彩った名機

1950年代後半から1970年代半ばにかけて、フォード・モーターは乗用車とトラック向けにサンダーバードV8エンジンを製造しました。フォードやマーキュリーの中型車、大型車に広く搭載され、その高い性能はモータースポーツでも証明されています。

誕生の背景と概要

1950年代、アメリカ車のフルサイズカーは大型化、重量増が進みました。当時、フォードはスモールブロックとビッグブロックの2種類のV8エンジンを生産していましたが、フルサイズカーの進化に対応するため、ミディアムブロックという中間クラスのエンジン開発が急務となりました。こうして1957年9月、サンダーバードV8は誕生しました。

当初はフォードと新ブランドのエドセル向けに開発され、「FE」(FordとEdselの頭文字) と呼ばれていました。しかし、エドセルは短期間で生産中止となり、サンダーバードV8はフォードとマーキュリーに供給されることになります。1971年以降はトラック向けに「FT」(Ford Truck) と呼ばれ、1976年まで生産が続けられました。

サンダーバードV8は、ボアピッチが当時のビッグブロックであるリンカーンV8と同一でした。これは、エンジンクラスの再編によって、リンカーンV8のボアピッチがミディアムブロックに引き下げられたためです。その後、リンカーンV8の後継としてマローダーV8(MEL)が開発され、これが新たなビッグブロックの基準となりました。

サンダーバードV8は、以前の小型V8エンジンである「Yブロック」をベースに設計されました。Yブロックの特徴であるディープスカートのシリンダーブロックとショートストロークを継承し、プッシュロッド式のOHV機構を採用（一部特殊型を除く）しています。

排気量は当初5リットル台3種類から始まり、最終的には7リットルまで8種類に拡大しました。大量生産されたのは6種類で、残りの2種類はモータースポーツ専用に製造されました。

構造と機構

サンダーバードV8は、ガソリンを燃料とするオットーサイクルエンジンで、水冷式を採用しています。排気量は最小5.44リットルから最大6.99リットルまであり、排気量によってシリンダーの肉厚が異なりました。

V型8気筒エンジンは、2組の直列4気筒が1本のクランクシャフトを共有する構成で、各気筒列は45度ずつ傾斜しています。クランクシャフトは5個のメインベアリングで支えられています。シリンダーブロックは、ウォータージャケットとクランクケースと共にダクタイル鋳鉄で一体鋳造され、Yブロックを思わせる形状をしています。この構造は高い捩れ剛性を確保しています。

シリンダーヘッドもダクタイル鋳鉄製で、吸気と排気にはそれぞれ1本のポペットバルブを使用。バルブの開閉は、カムシャフト、バルブリフター、プッシュロッド、ロッカーアームによって制御されます。シリンダーヘッドは幅が狭いため、プッシュロッドの支持は吸気マニホールドに依存していました。吸気ポートはターンフロー式で、排気ポートはヘッド内を反転して排気マニホールドへ向かう構造です。初期の燃焼室は機械加工で形成されていましたが、後に鋳造に変更されました。

燃料供給はダウンドラフト式の2バレルまたは4バレルキャブレターで行われ、吸気マニホールドは鋳鉄製です。ピストンはアルミニウム合金製、コネクティングロッドは鋼鉄鍛造、クランクシャフトは鋳鉄製です。点火方式はブレーカー式ディストリビューターで、真空進角装置を備えています。

乗用車用バリエーション

サンダーバードV8は、フォード、マーキュリーのフルサイズカー、サンダーバード、中型車の高性能モデル、マスタングなど、多くのフォード車に搭載されました。主なバリエーションを以下に示します。

E-400/スーパーエクスプレスV8 (5.91L): 当初はエドセル専用でしたが、フォードのパトロールカーにも使用されました。
サンダーバード332V8 (5.44L): フォード車の初期型として、パトロールカー用(インターセプター332V8)としても使用されました。
サンダーバード352V8 (5.77L): 2バレルと4バレルキャブレター、そして高性能な「Go!」パッケージ搭載モデルが生産されました。
サンダーバード390V8 (6.38L): 352の排気量アップ版。基本型と高性能型、パトロールカー用が用意されました。
サンダーバード406ハイパフォーマンスV8 (6.64L): 競技用として開発され、高性能パーツを多数採用しています。
サンダーバード427ハイパフォーマンスV8 (6.96L): グランドナショナルレース参戦のために開発された高性能エンジン。ハイライザーヘッド、ミディアムライザーヘッドなど、複数のヘッドが使用されました。
427SOHC「キャマー」: クライスラーのヘミエンジンに対抗するために開発されたSOHCエンジン。グランドナショナルへの投入は叶いませんでしたが、ウィンターナショナルズなどで活躍しました。
427GT: 427ハイパフォーマンスをロードレース用に軽量化したモデル。ACコブラやフォードGTに搭載され、ル・マン24時間レースで優勝を収めました。
マローダー410V8 (6.72L): マーキュリー専用モデル。
サンダーバード428V8 (6.99L): 427の後継として開発された量産型。コブラジェット428として高性能モデルも存在します。

トラック用バリエーション

サンダーバードV8は、様々な排気量のトラック用エンジン（330、352、360、390、391など）としても広く使用されました。

結び

サンダーバードV8は、アメリカ車の黄金期を支えた名機であり、その高い性能と多様なバリエーションは、自動車史に大きな足跡を残しました。数々のレースで優勝を飾ったことからも、その実力が証明されています。

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