フトゥッワ

フトゥッワ：中世イスラームの任侠結社

フトゥッワ（فتوة, Futuwwa）は、中世イスラーム世界に存在した若者による任侠結社です。トルコではアヒー（akhī）と呼ばれていました。都市部の若い男性を中心に構成され、単なる集団ではなく、倫理的・道徳的な規範を共有し、社会的な役割も担っていました。

フトゥッワの特徴

フトゥッワは、単なる戦闘集団ではありません。勇敢さ、寛容さ、客人を手厚くもてなすことなど、高潔な倫理観を重視していました。これらの道徳規範は、フトゥッワのメンバーが社会の中で尊敬され、信頼を得るための基盤となっていました。

歴史

フトゥッワの起源は、イスラム以前のジャーヒリーヤ時代（5世紀～7世紀）の伝統に遡ると考えられています。その後のイスラム世界の拡大とともに、各地で様々な形態のフトゥッワが出現しました。

アイヤール（9世紀～11世紀）

9世紀のアッバース朝時代には、イラン東部でアイヤール（'ayyār）と呼ばれる任侠集団が登場し、サッファール朝の建国にも関与しました。アイヤールの他にも、フィトヤーン、シュッタール、アフダースといった名称の集団が存在していました。これらの集団は、スーフィズムやタリーカ（道）教団の影響を受けながら、独自の発展を遂げました。

13世紀

13世紀には、アッバース朝カリフのナースィル・リ・ディーニッラー自身がフトゥッワ集団の長を務めました。旅行家イブン・バットゥータの記録によれば、当時のトルコやイランの都市にはフトゥッワが存在し、トルコではアヒーと呼ばれました。アヒーは市場の商人や職人といった若者を中心に構成され、治安維持を行う自警団としての役割も担っていました。仕事が終わると、修道施設ザーウィヤに集まり、ズィクル（唱名）などの修行に励んでいました。ルーム・セルジューク朝の首都コンヤでは、アヒー集団はメヴレヴィー教団のスーフィーと関係を持ち、イスラーム法官カーディーの指示に従っていました。

シーア派との関係：アリー崇拝

フトゥッワは、シーア派の初代イマームであるアリー・イブン・アビー・ターリブを崇拝していました。アリー崇拝は、異教徒との聖戦における勇敢さと潔さを象徴し、フトゥッワの重要な徳目となりました。また、タリーカ教団におけるアリー崇拝は、シーア派の土壌を形成する一因となりました。

フトゥッワト・ナーメ

フトゥッワの信条や儀礼は、フトゥッワト・ナーメという冊子に記録されました。アブドゥル・アズィーム・ハーン・カリーブのフトゥッワト・ナーメでは、フトゥッワの起源がコーランに登場する若者（ファター）に求められ、公的なイスラームとの関連性が示唆されています。また、アリーがフトゥッワの指導者であり、ハディースに基づいて謙虚さ、赦し、寛容性、奉仕、助言といった美徳が重要であると説かれています。

現在

現代においても、バーザールや古式闘技道ズール・ハーネ、シーア派コミュニティなどで、フトゥッワの精神が生き続けていると言われています。

日本の武士道との類似性

フトゥッワは、日本の任侠道との類似性が指摘されています。また、スーフィズムとフトゥッワの関係は、日本の禅と武士道の関係に似ているという指摘もあります。イスラム世界と日本の文化における共通点は興味深い比較研究の対象となっています。

参考文献

世界大百科事典第2版「フトゥッワ」
佐野東生「シーア派イスラームとの対話-神秘主義をめぐる日本との共通性を探って-」国際文化研究 17、25-34、2013、龍谷大学
Rachel Goshgarian,Futuwwa in 13th-century Rum and Armenia: Reform Movements and the Managing of Multiple Allegiances on the Seljuk Periphery,in The Seljuks of Anatolia : court and society in the medieval Middle East,edited by A.C.S. Peacock and Sara Nur Yildiz,I.B.Tauris,2013.

関連項目

スーフィズム
シャリーア
騎士道
武士道
フルーシーヤ

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