ヘンドリック・フルウールト

ヘンドリック・フルウールト：アパルトヘイトの設計者

ヘンドリック・フレンシュ・フルウールト（Hendrik Frensch Verwoerd、1901年 9月8日 - 1966年 9月6日）は、南アフリカ連邦および南アフリカ共和国の政治家であり、国民党に所属するアフリカーナーでした。1958年から1966年まで南アフリカの首相を務め、その時代にアパルトヘイト政策が法制化され、強化されたため、「アパルトヘイトの建設者」として知られています。

前半生

フルウールトは1901年、オランダのアムステルダムで宣教師の家庭に生まれました。1903年に一家は南アフリカに移住し、その後1913年には南ローデシア（現在のジンバブエ）のブラワヨへ移住しましたが、数年後にはオレンジ自由州へと戻りました。彼はステレンボッシュ大学で心理学と哲学を学び、その後オックスフォード大学やドイツへ留学しました。1928年に帰国後、ステレンボッシュ大学の社会学教授となり、1937年にはトランスヴァールで国民党に入党しました。

アパルトヘイト政策の推進

1948年に国民党が政権を握ると、ダニエル・フランソワ・マラン政権下で原住民担当大臣に就任し、アパルトヘイト政策を推し進めました。1953年にはバントゥー教育法を施行し、南アフリカ中の学校で人種別の教育を実施し、黒人や有色人種の教育を阻害しました。

首相としてのアパルトヘイト強化

1954年にマランが引退し、ヨハネス・ストレイダムが後を継いで死去すると、1958年にフルウールトは南アフリカの首相に就任しました。彼は白人労働者の権利を守り、黒人の権利を剥奪する法案を次々と制定しました。1959年にはバントゥー自治促進法を制定し、国土を白人地域（87%）と黒人地域（13%）に分け、黒人を民族ごとのバントゥースタンに所属させることとしました。人口の大多数を占める黒人には、非常に小さくやせた僻地しか与えられず、国土の重要な部分は白人が独占しました。

アパルトヘイトは1960年以降、「分離発展」と呼ばれるようになり、白人と黒人が分離してそれぞれの発展を目指すとされましたが、実際には白人が黒人やカラードを差別し、搾取するものでした。1952年に施行されたパス法もさらに強化され、黒人の移動や居住が厳しく制限されました。これに対し、黒人の合法政党であるアフリカ民族会議（ANC）とパンアフリカニスト会議（PAC）は批判を強めました。

1960年 3月21日、ANCとPACが主導したパス法抗議集会が暴動化し、シャープビル虐殺事件が発生しました。フルウールトは政府軍を派遣してこれを鎮圧し、暴動の責任をANCとPACに帰して両党を非合法化しました。

警察国家化と国際的な孤立

アパルトヘイトを強行する上で社会不安が増大したため、フルウールト政権は警察国家的な様相を強めました。1963年には、政府は裁判なしに連続90日間の拘留を可能とする法律を制定し、1965年には出所した者を治安上の理由で拘留できる政府の権限が更新されました。

アパルトヘイトに対する強い反対は世界中から巻き起こりました。国際連合は1955年にアパルトヘイトを議題に取り上げ、南アフリカ共和国の国連参加は名ばかりとなりました。1960年からはオリンピックへの参加も拒否されるようになりました。シャープビル虐殺事件をきっかけに、旧宗主国であるイギリスからも強い批判を浴びると、フルウールトは国民投票を実施して南アフリカ共和国を英国女王の治める立憲君主制から大統領を元首とする共和制に移行させました。これに対し、イギリス連邦加盟国から連邦参加に疑義が呈されると、南アフリカ共和国は1961年にイギリス連邦を脱退しました。

冷戦下の南アフリカ

フルウールトは強い反共主義者であり、南アフリカを反共の砦と位置づけていました。そのため、冷戦下の西側諸国は南アフリカとの経済関係を断つことができず、この時期に南アフリカ経済は西側からの投資によって発展しました。白人労働者の生活は向上し、議会も自由なままでした。そのため、白人有権者から強い支持を受けた国民党は議会選挙で勝利し続け、フルウールトは1961年と1966年に首相に再選されました。

暗殺

1966年 9月6日、ケープタウンでの下院議会に参加した際、フルウールトは白人の反アパルトヘイト主義者であるギリシア生まれの守衛ディミトリオス・ツァフェンダスに刺殺されました。