ホスホリパーゼA2(PLA2)は、グリセロリン脂質のsn-2位のエステル結合を
加水分解する
酵素の総称です。この反応により、
脂肪酸とリゾリン脂質が遊離します。特に、
アラキドン酸を遊離することで、
プロスタグランジンやロイコトリエンといった炎症性メディエーターの合成を促進し、生体内の様々な生理機能や病態に関与しています。
PLA2の分類
PLA2は、アミノ酸配列に基づいて、GI(グループ1)からGXVI(グループ16)までの16のグループに分類されます。これらのグループは、さらに類似性に基づいて6つの主要なカテゴリーに大別されます。
1. 分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)
sPLA2は、約13kDaの比較的小さな分子量のPLA2であり、グループ1〜3、5、9〜13に分類されます。活性には、ヒスチジン残基と
アスパラギン酸残基が重要で、カルシウムイオンを必要とします(mMレベル)。
ヘビ毒やハチ毒に含まれるものが知られています。
2. 細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)
cPLA2は、
哺乳類に存在するPLA2で、グループ4に分類されます。6つの分子種(α, β, γ, δ, ε, ζ)が報告されており、セリン残基と
アスパラギン酸残基が活性に重要です。cPLA2γ以外の5つの分子は、カルシウムイオンとの結合に必要なC2ドメインを持っています。特にcPLA2αは、μMレベルのカルシウムイオン濃度上昇によって、
細胞質基質から
小胞体や
ゴルジ体へ移動し、活性を発揮します。
3. カルシウムイオン非依存型ホスホリパーゼA2(iPLA2)
iPLA2は、カルシウムイオンを必要としないPLA2で、グループ6に分類されます。このグループに属する
酵素は、セリン残基と
アスパラギン酸残基が活性に重要です。iPLA2には、6つの分子種(β, γ, δ, ε, ζ, η)が知られており、特にε, ζ, ηの3つの分子種は、
ホスホリパーゼ活性に加えて、トリアシルグリセリドリパーゼ活性も持つことが報告されています。
4. 血小板活性化因子アセチルヒドラーゼ(PAF-AH)
PAF-AHは、
血小板活性化因子のsn-2位に結合している
アセチル基を
加水分解する
酵素です。グループ7とグループ8に分類され、いずれもカルシウムイオンを必要としません。活性にはセリン残基、ヒスチジン残基、
アスパラギン酸残基が重要です。
グループ7: 2つの酵素が報告されており、1つは分泌型で、血漿に存在し、リポタンパク質と相互作用するため、血漿型PAF-AH(またはLp-PLA2)と呼ばれます。もう1つは細胞内に存在し、PAF-AH IIと呼ばれます。
グループ8: 2つのαサブユニットと1つのβサブユニットからなるヘテロ三量体タンパク質です。
5. リソソーム型ホスホリパーゼA2(LPLA2)
LPLA2は、グループ15に分類される
哺乳類のPLA2です。レシチンコレステロールアシル基転移
酵素様リゾ
ホスホリパーゼ(LLPL)に類似しており、カルシウムイオン非依存性の
ホスホリパーゼA2活性、アシル基転移活性、1-O-アシルセラミド合成
酵素活性を持っています。
アディポサイト型
ホスホリパーゼA2は、脂肪細胞に存在するPLA2の一種です。詳細な機能については、さらなる研究が必要です。
PLA2の機能と疾患
PLA2は、細胞膜のリン脂質代謝や炎症反応において重要な役割を果たしています。特に、
アラキドン酸の遊離は、
プロスタグランジンやロイコトリエンの合成を介して炎症反応を引き起こし、様々な疾患に関与します。これらの
酵素の活性制御は、炎症性疾患の治療において重要なターゲットとなります。
まとめ
ホスホリパーゼA2(PLA2)は、多様な種類と機能を持つ
酵素群であり、細胞の生理機能や病態に深く関わっています。さらなる研究を通じて、PLA2の理解が深まり、関連疾患の治療法開発に繋がることが期待されます。
脚注
脳科学辞典 - ホスホリパーゼA2
関連項目
ホスホリパーゼ