ボーンスレー家 (ナーグプル)

ナーグプル藩王国：ボーンスレー家の興亡

ナーグプルのボーンスレー家は、18世紀に東中央インドを支配したマラーター同盟の有力な諸侯（サルダール）でした。その起源は、ゴンド族が築いたナーグプルを拠点とするデーオガル王国に遡ります。

前史と成立

ナーグプルは元々ゴンド族によって建設された都市であり、1702年にデーオガル王国のバフト・ブランド・シャーが周辺の12の集落を統合してナーグプルを首都としました。その後、ラージャ・チャーンド・スルターンが都市をさらに発展させましたが、彼の死後、王位を巡る内紛が発生しました。この内乱に乗じて、マラーター王国のボーンスレー家当主ラグージーが介入し、摂政として実権を握りました。1743年には、ラグージーはデーオガル王国の最後の王を廃し、ナーグプルの支配権を確立しました。

版図拡大と対外遠征

ラグージーは、近隣のゴンド王国を次々と征服し、その領土はゴンドワナ全域から中央インドにまで広がりました。彼は、マラーター王シャーフーの要請に応じ、タンジャーヴール・[[マラーター王国]]の救援のために遠征を行い、カルナータカ太守を殺害しました。また、ベンガル太守の支配するベンガル地方への遠征も行い、マラーター王国の宰相との間で争いが生じましたが、最終的にはベンガルを活動範囲とすることに成功しました。1751年には、ベンガル地方とオリッサ地方からのチャウタ（貢納金）の支払いを認めさせました。

ラグージーの死と分裂

1755年にラグージーが亡くなると、息子のジャーノージーが当主となりました。しかし、宰相バーラージー・バージー・ラーオは、他の兄弟たちを支持し、ナーグプルの領土は事実上分裂しました。その後、マラーター同盟軍がアフガン勢力に敗北し、宰相が死亡したことで、ボーンスレー家は宰相府の影響から離れていきました。ジャーノージーはマラーター王を公然と称しましたが、宰相マーダヴ・ラーオによって征伐されました。

ラグージー・ボーンスレー2世の治世

1782年にマードージーが亡くなり、その息子のラグージー・ボーンスレー2世が当主となりました。ラグージー2世の治世は、ボーンスレー家の最盛期であり、カルダーの戦いで勝利し、フーシャンガーバードなどを割譲させ、多額の貢納金を得ました。ボーンスレー家の領土は、マラーター王国よりも広大になり、年間1110万ルピーの収入がありました。

第二次マラーター戦争と領土の割譲

しかし、ラグージー2世の治世は、同時に衰退の始まりでもありました。マラーター王国の宰相と諸侯との争いに巻き込まれ、イギリスとの間で第二次マラーター戦争が勃発しました。ボーンスレー家はシンディア家と共同戦線を張りましたが、各地で連敗し、イギリスと講和条約を締結せざるを得なくなりました。その結果、オリッサのカタック、南ベラールなど、領土の約3分の1を割譲させられることになりました。領土の喪失は財政を圧迫し、農民に新たな税を課すばかりか、略奪行為も行わざるを得なくなりました。

第三次マラーター戦争とイギリス従属化

1816年にラグージー2世が亡くなると、重度の障害を抱える息子のパラソージーが当主となりました。その後、弟のマードージーが摂政となり実権を握りました。1817年に第三次マラーター戦争が勃発すると、マードージーは王国宰相に味方し、ナーグプルの駐在官邸を襲撃しました。しかし、イギリス軍に敗北し、降伏しました。1818年、ボーンスレー家はイギリスと軍事保護条約を結び、藩王国となり、イギリスの従属下に入りました。

藩王国化と領土併合

マードージーは逮捕され、イギリスはパラソージーの甥であるラグージー・ボーンスレー3世を新たな藩王に擁立しました。しかし、1853年にラグージー3世が後継者を残さずに亡くなると、イギリスは「失権の原理」を適用し、ナーグプル藩王国を併合しました。当時、ナーグプル藩王国はニザーム藩王国やジャンムー・カシミール藩王国に匹敵する大藩王国であり、その領土は8万平方メートル、年間400万ポンドの税収が見込まれていました。イギリスによる併合は、住民の不満を高め、1857年のインド大反乱の要因の一つとなりました。

参考文献

小谷汪之『世界歴史大系　南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。
辛島昇『世界歴史大系　南アジア史3―南インド―』山川出版社、2007年。
* ブライアン・ガードナー 著、浜本正夫 訳『イギリス東インド会社』リブロポート、1989年。

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