マツヨイグサ属

マツヨイグサ属 (Oenothera)

マツヨイグサ属は、アカバナ科に属する植物の一群で、学名を Oenothera といいます。北アメリカ大陸と南アメリカ大陸が原産地で、一年草または多年草です。その美しい花は観賞用として世界中で栽培されており、日本にも園芸用として導入されました。しかし、現在では14種が野生化し、帰化[[植物]]として各地に分布しています。

「マツヨイグサ」という名前は、本来は Oenothera stricta という特定の種を指しますが、一般的にはオオマツヨイグサやメマツヨイグサなど、黄色い花を咲かせる複数の種をまとめて呼ぶことが多いです。

分布と生育環境

マツヨイグサ属はおよそ125種を含み、14の節に分類されます。これらの種はすべて南北アメリカ大陸原産で、他の地域には自然分布していません。日本に自生しているものは、帰化[[植物]]か、園芸植物が野生化したものです。

原産地では、海辺から高山まで様々な環境に適応して生育しています。パイオニア植物としての性質を持ち、自然状態では河原、砂浜、砂漠、ガレ場、山火事跡地などの荒れた土地に生えます。人為的に攪乱された場所、例えば鉄道沿線、路肩、耕作放棄地などにもよく見られます。肥沃な土地では他の植物との競争に負けて姿を消すことが多いです。日本では、造成中の土地や未舗装の駐車場などでよく見かけることができます。

マツヨイグサ属は、メキシコ北東部からアメリカ合衆国テキサス州にかけての地域が発祥の地と考えられています。氷期にこの地域が結氷を免れたため、マツヨイグサ属の植物が生き残り、間氷期に再び大陸全土に分布を広げました。更新世には、このような分布の縮小と拡大が4度繰り返され、それが現在の多様な種分化を促したと考えられています。また、マツヨイグサ属は野生下でも種間で容易に交雑するため、雑種や人為的に交配された品種が固定され、新種として分化することがあります。

生態

日本に帰化しているマツヨイグサ属の植物は、秋に発芽し、ロゼット状で冬を越し、初夏から晩秋にかけて長期間にわたって花を咲かせます。秋に種子を散布した後、冬には枯れる一年生[[植物]]（越年草）がほとんどです。しかし、原産地には根茎を持つ多年生の種も存在します。

草丈は種によって異なり、チャボツキミソウのような高山植物では10cm程度ですが、低地産の O. stubbei では3mにまで成長するものもあります。

葉は開花軸に対して螺旋状につき、鋸歯があるか、深く裂けています（羽状中裂）。

多くの種は黄色い四弁花を咲かせ、雌しべの先端が4つに割れるのが特徴です。一日花であり、多くの種は夕方に開花し、夜間に咲き続け、翌朝には萎みます。この性質が「月見草」や「待宵草」という名前の由来となっています。

花の種類

マツヨイグサ属には、黄色以外にも白、紫、ピンク、赤といった花を咲かせる種があります。一般的に、黄色の花を咲かせる系統は「マツヨイグサ」（待宵草）、白い花を咲かせる系統は「ツキミソウ」（月見草）、赤い花を咲かせる系統は「ユウゲショウ」（夕化粧）などと呼ばれます。しかし、これらの区別は必ずしも一般に浸透しておらず、黄色の花を咲かせる種もツキミソウと呼ばれることがあります。ただし、黄色以外の花を咲かせる種がマツヨイグサと呼ばれることはほとんどありません。黄色以外の種は、園芸植物として栽培されていることが多いです。また、ヒルザキツキミソウのように、昼間に咲く種も存在します。英語では、夜咲きの種を evening primrose、昼咲きの種を sundrops と呼び分けています。

受粉様式は様々で、虫媒花のほかに、自家受粉を行う種や閉鎖花を咲かせる種も存在します。

黄花系統種のうち、マツヨイグサ O. stricta やコマツヨイグサは、花が萎むと赤く変色しますが、オオマツヨイグサやメマツヨイグサはそれほど赤くはなりません。この特徴も種を区別するポイントとなります。

昆虫との関係

マツヨイグサ属の花は、花筒が非常に細長く、その奥に蜜が分泌されます。また、花粉は粘着糸によって緩く結合されています。これらの特徴は、花粉の運搬を夕刻に活動するスズメガ類に依存していることと深く関係しています。スズメガは長い口吻を持ち、ホバリングしながら蜜を吸うため、花粉が付着しにくい性質があります。しかし、長い花筒の奥に蜜があることで、スズメガは体を雄しべや雌しべに近づけざるを得なくなり、粘着性のある花粉が体表に付着しやすくなります。

また、アメリカではマツヨイグサ属の植物がチョウ目幼虫の食草となっており、特にヤガの仲間である Schinia felicitata と Schinia florida は O. deltoides を好んで食べます。日本では、スズメガ科のベニスズメがこの仲間を広く食草としています。

人間との関係

若い根茎は、コショウのような風味があり、根菜として食用にされます。新芽はサラダとして、花は天ぷらとして食べられることもあります。ただし、摂取後に胃腸の不快感や吐き気が起こる可能性が報告されています。

全草を煎じて収斂剤や鎮静剤として使用します。喘息に対する鎮咳効果や、胃腸障害に対する鎮静効果があるとされています。メマツヨイグサ O. biennis を材料にした湿布薬が外傷治療に用いられ、治癒までの日数を短縮させたという報告もあります。かつては「万能薬の王様」とも呼ばれていましたが、臨床試験で有効性が示されなかった点には注意が必要です。漢方でも同様の薬効があるとされ、「山芝麻」という名で生薬として用いられます。

完熟種子にはガンマリノレン酸と必須脂肪酸が豊富に含まれています。メマツヨイグサの種子から抽出されるオイルは、一般に「プリムローズオイル」として知られ、月経前症候群 (PMS) による生理痛を緩和するために使用されます。また、γリノレン酸は乳癌治療にも有効であると考えられていますが、ヒトに対する有効性を示す十分なデータはまだありません。

多くの種が観賞用に栽培され、人気があります。種子は晩春から初夏にかけて自然にこぼれ落ちるので、適宜間引きを行い、肥料を与えれば容易に育てることができます。マツヨイグサ属の植物は耐乾性があり、日当たりと水はけの良い場所であればどこでもよく育ちます。

日本では、種を特定しない場合に「月見草」や「宵待草」と呼ばれることがありますが、標準和名でいうツキミソウはメキシコ原産の白い花を咲かせる O. tetraptera を指します。「宵待草」という呼び名は、竹久夢二の作詞による流行歌の題名が誤って広まったものです。

「ヤライコウ」（夜来香）と呼ばれることもありますが、これは本来、キョウチクトウ科のつる性植物 Telosma cordata やナス科のヤコウボク Cestrum nocturnum の別名です。

ゴデチアという園芸名で知られるイロマツヨイグサ Clarkia amoena は、同じアカバナ科ではありますが、マツヨイグサ属とは異なる属の植物です。

マツヨイグサをモチーフにした作品

宵待草 - 竹久夢二の詩。大正ロマンを代表する流行歌となりました。
富嶽百景 - 太宰治の小説。「富士には月見草が…」で始まる有名な一文に出てくる月見草は、オオマツヨイグサのことではないかと言われています。
* わたしの宵待草 - 浅田美代子のシングル曲。

もう一度検索