ミッチェル撮影機:映画史を彩った名機の軌跡
ミッチェル撮影機は、かつて存在したアメリカの撮影機メーカー、ミッチェル・カメラ・コーポレーションが製造した撮影機のラインです。1919年、ヘンリー・ボガーとジョージ・アルフレッド・ミッチェルの二人によって設立されました。その製品は、映画製作の現場で長年にわたり愛用され、映画史に大きな足跡を残しました。
黎明期から全盛期へ
ミッチェル社の最初の撮影機は、1917年にジョン・E・レナードが設計・特許を取得したものでした。1920年、この撮影機は「ミッチェルスタンダード撮影機」として世に知られるようになります。遊星連動式の可変開角度シャッターと、独自のラック・オーバー設計が特徴でした。その後、ミッチェル社は
テクニカラー方式の三色法カメラの機械部分を供給し、65mmフィルム(
70mmフィルム)や
ビスタビジョン改造機を提供しました。さらに、通常速度撮影だけでなく、高速撮影にも対応可能な65mmフィルム用撮影機や
ビスタビジョン用撮影機も開発しました。
特に、三頭付の背景板式映写機は、
テクニカラーの三色法処理の発展に大きく貢献しました。ミッチェルピン登録処理映写機(MPRPP)の初期のモデルの一つは、映画『風と共に去りぬ』(1939年)で使用されています。このシステムは、1990年代にブルーバックやグリーンバック撮影が主流になるまで、広く活用されました。
1953年3月、ジョージ・アルフレッド・ミッチェルは、ミッチェル撮影機の設計・開発、そして映画撮影分野における貢献が認められ、
第25回アカデミー賞で
アカデミー名誉賞を受賞しました。
世界中で愛されたミッチェル撮影機
ミッチェル撮影機は、その優れた性能から、アメリカだけでなく日本でも広く愛用されました。日本では、
松竹蒲田撮影所が1928年にミッチェル撮影機を導入しました。
フランスの映画監督
ジャン=リュック・ゴダールも、ミッチェル撮影機を愛用した一人です。『
はなればなれに』や『
男性・女性』ではアリフレックスと併用し、『
アルファヴィル』ではカメフレックスと併用しましたが、『
万事快調』や『
女は女である』では、ロケ撮影でカメフレックスを、スタジオ撮影でミッチェルを使用しました。さらに、『
女と男のいる舗道』ではミッチェルだけで撮影を行いました。ゴダールが監督した『
ベトナムから遠く離れて』(1967年)の一篇『
カメラ・アイ』では、ゴダールとともにミッチェル撮影機が登場します。
また、日本の映画監督、
小津安二郎もミッチェルNC型撮影機を愛用していました。2003年に発行された
小津安二郎生誕100年の記念切手には、ミッチェル撮影機とともに写る小津の写真がデザインされています。
1969年3月、ミッチェル社は、トッドAOとともに
第41回アカデミー賞で
アカデミー科学技術賞を受賞しました。
その後と主なモデル
1985年、ミッチェル社はリー・インターナショナルに買収され、その歴史に幕を閉じました。
ミッチェル撮影機の主なモデルには、以下のようなものがあります。
ミッチェルスタンダード撮影機: 最初の「ミッチェル撮影機」(1920年)
ミッチェルGC型撮影機: 高速度撮影用、秒間128コマまで可変
ミッチェルNC型撮影機、ミッチェルBNC型撮影機: トーキー撮影用に改良されたモデル。NCは「ニュースリール・カメラ」、BNCは「ブリンプト・ニュースリール・カメラ」の略で、後者には防音装置が付属しています。20世紀のハリウッド映画製作における
デファクトスタンダードとなりました。
ミッチェルSS型撮影機: シングルシステムカメラ。第二次世界大戦中に主にアメリカ陸軍通信隊で使用されました。
ミッチェルビスタビジョン型撮影機: パラマウント映画の
ビスタビジョン方式に対応した撮影機。『十戒』(1956年)などで使用されました。
ミッチェルFC型撮影機、ミッチェルBFC型撮影機: 65mmフィルム(
70mmフィルム)版のモデル。FCは「フォックス・カメラ」、BFCは「ブリンプト・フォックス・カメラ」の略。
ミッチェルNCR型撮影機、ミッチェルBNCR型撮影機: 「ミッチェルNC」と「ミッチェルBNC」のレフレックス(鏡反射)版。
ミッチェル16型撮影機: 登録ピン16mmフィルム用撮影機
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ミッチェルR16型撮影機: 「ミッチェルR16」のレフレックス(鏡反射)版。テレビニュース取材や
ニュース映画製作に多く使用されました。
まとめ
ミッチェル撮影機は、その高い性能と信頼性により、多くの映画監督や撮影技師に愛され、映画史に残る数々の名作を支えました。その技術と革新性は、現代の映画製作にも大きな影響を与えています。ミッチェル撮影機は、単なる撮影機ではなく、映画史を彩る重要な存在として、これからも語り継がれるでしょう。