ムラトリ正典目録

ムラトリ正典目録について

ムラトリ正典目録（Muratorian Canon）は、新約聖書に含めるべき文書のリストを記した文書であり、2世紀後半に成立したと考えられています。この文書は著者が不明であり、また「ムラトリ正典表」としても知られています。ムラトリ正典目録は、18世紀にイタリアのミラノで発見されたラテン語の写本によって広く知られるようになりましたが、その写本は完全な形ではなかったため、「ムラトリ断片」または「ムラトリ断章」とも呼ばれています。

発見の経緯

この重要な文書は、その内容を記述した古代の書物が一切確認されていない状態で、1740年に文献学者のルドヴィーゴ・アントーニオ・ムラトーリによって発見されました。ムラトーリは、アンブロジアーナ図書館の司書であり、そこで見つけた不完全な写本を元に研究を進め、初めて文書を公表しました。発見された写本は、76葉からなる皮紙のコデックスで、各葉は約27センチの縦と17センチの横を持っています。

この写本は、ラテン語で書かれていますが、言語の質があまり良くないため、その内容を理解することには困難が伴いました。しかし、後に11世紀と12世紀に作られた他の四つの写本と比較することで、多くの誤りが修正可能になりました。この文書が成立したのは7世紀から8世紀にかけてだと推測されています。

さらに、ムラトリ正典目録の中に記載されている内容、特に「ヘルマスの牧者」に関する言及は、ピウス1世がローマで司教だった時期を反映しているとされます。この記述から記載の成立は155年頃から210年の間だと推測され、新約聖書の正典形成過程において極めて貴重な資料となっています。

内容概要

ムラトリ正典目録は、単なる文書名の列挙ではなく、各文書に対する解説や評価も含んでいます。文中には「新約」や「正典」といった明確な用語は使用されておらず、「教会」や「公同の教会」といった表現が用いられ、それぞれの文書が「聖化されている」や「受け入れられている」と記されています。

以下に、ムラトリ正典目録が示す文書名を、評価に基づいて分類します。

正典とすべき文書

1. マタイによる福音書
2. マルコによる福音書
3. ルカによる福音書
4. ヨハネによる福音書
5. 使徒言行録
6. パウロ書簡（以下の手紙を含む）
- コリントの信徒への手紙一
- コリントの信徒への手紙二
- ガラテヤの信徒への手紙
- ローマの信徒への手紙
- エフェソの信徒への手紙
- フィリピの信徒への手紙
- コロサイの信徒への手紙
- テサロニケの信徒への手紙一
- テサロニケの信徒への手紙二
- フィレモンへの手紙
- テトスへの手紙
- テモテへの手紙一
- テモテへの手紙二
7. ユダの手紙
8. ヨハネの手紙（2通）
9. ソロモンの知恵（旧約聖書の外典）
10. ヨハネの黙示録

異論がある文書

1. ペトロの黙示録
2. ヘルマスの牧者

除外すべき文書

• - パウロの書簡として知られるもの（ラオデケア人への手紙、アレクサンドリア人への手紙等）
• - アルシノウス、ヴァレンティノス、ミルティアデスらの著作
• - フリュギア派の創設者パシリデスの著作
• - マルキオンのための詩篇

このように、ムラトリ正典目録は新約聖書の正典情勢を示す重要な資料であることが分かります。正典として認められるべき文書の他に評価が分かれる文書や除外すべき文書が詳細に記載されているため、この文書は当時のキリスト教の教義や信仰の形成過程を理解する上で欠かせない資料といえるでしょう。

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