マテオス・カンダクジノス
マテオス・カンタクジノス（Ματθαίος Ασάνης Καντακουζηνός, Matthaios Kantakouzenos, 1325年 - 1383年6月）は、東ローマ帝国共同皇帝（在位：1353年4月 - 1357年12月）であり、モレアス専制公領の統治者（1380年 - 1383年6月）でもありました。父はヨハネス6世カンタクゼノス、母はイリニ・アサニナ・カンダクジニで、ブルガリア帝国アセン家の血を引く、ミカエル8世パレオロゴスの孫娘です。古典式慣例表記ではマタイオス・カンタクゼノスとされます。
1341年初頭、マテオスはアンドロニコス2世パレオロゴスの孫娘イリニ・パレオロギナと結婚しました。同年後半に内乱が勃発すると、父ヨアニス6世の軍に弟マヌイルと共に従軍。弟がマケドニア地方西部に派遣されたのに対し、マテオスはトラキア地方で作戦に参加し、1343年にはクムツィニ（現コモティニ）の行政官に任命されました。
1347年、父ヨアニスが内乱に勝利し、コンスタンティノポリスの正皇帝となると、弟マヌイルや義兄弟ニキフォロス2世は専制公に、母方の叔父マヌイルとヨアニスの兄弟は尊厳公に叙せられました。しかし、マテオスは称号を与えられず、「皇帝に次ぐ、専制公よりも高い」という曖昧な地位に置かれました。これは後の皇帝擁立への伏線となります。同年、アドリアノープルとその周辺地域の行政権を委任されましたが、1350年にはテッサロニキに派遣された義兄弟ヨハネス5世パレオロゴス(ヨアニス5世)と共に、父ヨアニス6世から遠ざけられる形となりました。
アドリアノープルで不安定な立場に甘んじるマテオスと、正統なパレオロゴス家の皇帝でありながら遠隔のテッサロニキに留め置かれたヨアニス5世は、それぞれ不満を募らせ、1352年にはヨアニス5世が父ヨハネス6世に対して反旗を翻す形で内乱が再開されました。マテオスは父を支援し、両派はトラキア地方を中心に激戦を繰り広げました。オスマン朝の君主オルハンの支援を受けたカンダクジノス派が勝利し、ヨアニス5世は一時的に国外へ亡命しました。このオルハンは、マテオスにとっては義兄弟の関係でした。
パレオロゴス家を排除したヨハネス6世の手によって、マテオスは1353年4月に共同皇帝・後継者として正式に擁立され、総主教フィロテオス1世コキノスによって戴冠されました。しかし、過度にトルコ人の力を借りたカンダクジノス家の勝利は民衆の不安を招き、首都市民は正統なパレオロゴス家の排除に不満を抱きました。その結果、カンダクジノス家の支配は動揺し、1354年にはヨアニス5世がコンスタンティノポリスに帰還し、同年12月9日にはヨハネス6世を廃位に追い込むことに成功しました。
マテオスはアドリアノープルで勢力を維持し、1355年には再びトラキアで戦いましたが、決着がつかず、マテオス陣営からは離脱者が続出し、後退を余儀なくされました。その後、東マケドニアのセルビア人領主との小競り合いで捕虜となり（1356年）、ヨアニス5世が身代金を支払い、丁重にコンスタンティノポリスに連れ帰りました。1357年12月、彼は退位を宣言し、皇帝の位と衣装を正式に放棄しました。この時、ヨアニス5世はマテオスの長子ヨアニスに専制公の、次子ディミトリオス・カンダクジノスに尊厳公の称号を授けました。カンダクジノス家による皇帝権獲得の試みは、マテオスの退位をもって終了しました。ただし、退位後もマテオスは一般的に「皇帝」と呼ばれ続けたことが、同時代の書簡から明らかになっています。
1361年頃、マテオスは弟マヌイルが統治するペロポニソス半島・モレアス専制公領に移住しました。1380年4月10日に弟が死去すると、その職務を引き継ぎましたが、長く統治することなく、コンスタンティノポリスに新たな専制公の派遣を要請しました。ヨアニス5世は末子セオドロス1世パレオロゴスを派遣しましたが、その到着を待たず、マテオスは1383年6月にミストラで亡くなりました。その時、次男ディミトリオスは自らが専制公領の支配権を相続すると主張してセオドロスの着任を阻止しようとしていました。
マテオスは父と同様に文化人であり、神学関連の著作を残しています。また、彼に宛てた文化人の書簡も現存しています。
マテオスとイリニ・パレオロギナの間には、息子2人と娘3人がいました。
長男：ヨアニス（Johannes Kantakouzenos, Ιωάννης Καντακουζηνός, 1342年 - 1380年頃） - 専制公
次男：ディミトリオス - モレアス専制公（1383年 - 1384年）
長女：セオドラ（Theodora, Θεοδώρα） - 祖母イリニ＝エフゲニア・アサニナの許で修道女として生涯を送った（没年不詳）。
次女：エレニ（Helene, Ελένη） - カタルーニャ出身の中央ギリシア・サロナ伯ルイス・ファドリークの妻。
* 三女：マリア（Maria, Μαρία） - キプロス王国に移住した文人ヨアニス・ラスカリス・カロフェロスの妻。
生涯
1341年初頭、マテオスはアンドロニコス2世パレオロゴスの孫娘イリニ・パレオロギナと結婚しました。同年後半に内乱が勃発すると、父ヨアニス6世の軍に弟マヌイルと共に従軍。弟がマケドニア地方西部に派遣されたのに対し、マテオスはトラキア地方で作戦に参加し、1343年にはクムツィニ（現コモティニ）の行政官に任命されました。
1347年、父ヨアニスが内乱に勝利し、コンスタンティノポリスの正皇帝となると、弟マヌイルや義兄弟ニキフォロス2世は専制公に、母方の叔父マヌイルとヨアニスの兄弟は尊厳公に叙せられました。しかし、マテオスは称号を与えられず、「皇帝に次ぐ、専制公よりも高い」という曖昧な地位に置かれました。これは後の皇帝擁立への伏線となります。同年、アドリアノープルとその周辺地域の行政権を委任されましたが、1350年にはテッサロニキに派遣された義兄弟ヨハネス5世パレオロゴス(ヨアニス5世)と共に、父ヨアニス6世から遠ざけられる形となりました。
アドリアノープルで不安定な立場に甘んじるマテオスと、正統なパレオロゴス家の皇帝でありながら遠隔のテッサロニキに留め置かれたヨアニス5世は、それぞれ不満を募らせ、1352年にはヨアニス5世が父ヨハネス6世に対して反旗を翻す形で内乱が再開されました。マテオスは父を支援し、両派はトラキア地方を中心に激戦を繰り広げました。オスマン朝の君主オルハンの支援を受けたカンダクジノス派が勝利し、ヨアニス5世は一時的に国外へ亡命しました。このオルハンは、マテオスにとっては義兄弟の関係でした。
パレオロゴス家を排除したヨハネス6世の手によって、マテオスは1353年4月に共同皇帝・後継者として正式に擁立され、総主教フィロテオス1世コキノスによって戴冠されました。しかし、過度にトルコ人の力を借りたカンダクジノス家の勝利は民衆の不安を招き、首都市民は正統なパレオロゴス家の排除に不満を抱きました。その結果、カンダクジノス家の支配は動揺し、1354年にはヨアニス5世がコンスタンティノポリスに帰還し、同年12月9日にはヨハネス6世を廃位に追い込むことに成功しました。
マテオスはアドリアノープルで勢力を維持し、1355年には再びトラキアで戦いましたが、決着がつかず、マテオス陣営からは離脱者が続出し、後退を余儀なくされました。その後、東マケドニアのセルビア人領主との小競り合いで捕虜となり（1356年）、ヨアニス5世が身代金を支払い、丁重にコンスタンティノポリスに連れ帰りました。1357年12月、彼は退位を宣言し、皇帝の位と衣装を正式に放棄しました。この時、ヨアニス5世はマテオスの長子ヨアニスに専制公の、次子ディミトリオス・カンダクジノスに尊厳公の称号を授けました。カンダクジノス家による皇帝権獲得の試みは、マテオスの退位をもって終了しました。ただし、退位後もマテオスは一般的に「皇帝」と呼ばれ続けたことが、同時代の書簡から明らかになっています。
1361年頃、マテオスは弟マヌイルが統治するペロポニソス半島・モレアス専制公領に移住しました。1380年4月10日に弟が死去すると、その職務を引き継ぎましたが、長く統治することなく、コンスタンティノポリスに新たな専制公の派遣を要請しました。ヨアニス5世は末子セオドロス1世パレオロゴスを派遣しましたが、その到着を待たず、マテオスは1383年6月にミストラで亡くなりました。その時、次男ディミトリオスは自らが専制公領の支配権を相続すると主張してセオドロスの着任を阻止しようとしていました。
マテオスは父と同様に文化人であり、神学関連の著作を残しています。また、彼に宛てた文化人の書簡も現存しています。
子女
マテオスとイリニ・パレオロギナの間には、息子2人と娘3人がいました。
長男：ヨアニス（Johannes Kantakouzenos, Ιωάννης Καντακουζηνός, 1342年 - 1380年頃） - 専制公
次男：ディミトリオス - モレアス専制公（1383年 - 1384年）
長女：セオドラ（Theodora, Θεοδώρα） - 祖母イリニ＝エフゲニア・アサニナの許で修道女として生涯を送った（没年不詳）。
次女：エレニ（Helene, Ελένη） - カタルーニャ出身の中央ギリシア・サロナ伯ルイス・ファドリークの妻。
* 三女：マリア（Maria, Μαρία） - キプロス王国に移住した文人ヨアニス・ラスカリス・カロフェロスの妻。
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