ラシュカ (歴史的地域)

ラシュカ：中世セルビアの中心地

ラシュカ（セルビア語: Рашка, ラテン語: Rascia）は、現在のセルビア南西部を中心とする歴史的な地域です。かつてはモンテネグロ北東部やボスニア・ヘルツェゴビナ東部の一部も含まれていました。中世セルビアにおいて、ラシュカはセルビア王国とその前身であるラシュカ国家の中心地であり、首都の一つであるラス（スタリ・ラス）が位置していました。

名称の由来

ラシュカという地名は、この地域で最も重要な拠点であったラスの城に由来します。ラスの城は、6世紀に東ローマ帝国の歴史家プロコピオスが『建築について』の中で「アルサ」と呼んだのが文献上の初出です。10世紀までにはラスという名が一般的になり、コンスタンティノス7世ポルフュロゲネトスの『帝国統治論』や、東ローマ帝国領ラスのカテパノ（司令官、総督）を務めたヨハネスの印章にも使われています。

ラスには聖使徒ペトル・パヴェル教会を中心とするラシュカ総主教代理座が置かれました。この総主教代理の管轄下に置かれた地域が次第にラシュカと呼ばれるようになり、後に一般的な地域名となりました。

12世紀、ステファン・ネマニャの時代 (1166年-1196年) に、ラス城は彼の国家、後のセルビア王国の首都として再開発され、国家全体を指すエポニムとなりました。1186年にコトルで発行された特許状には、ステファン・ネマニャが「ラスキアの支配者」と呼ばれている記述があり、セルビア国家をラシュカあるいはラスキアと呼んだ最初の文献となっています。

歴史

中世

10世紀に東ローマ皇帝コンスタンティノス7世が著した『帝国統治論』には、9世紀末のブルガリアとセルビアの国境地帯にラサ（Rasa、スタリ・ラス）という地名があったことが記されています。9世紀後半には第一次ブルガリア帝国の勢力下に入り、971年には東ローマ帝国がラスを中心とする行政区画を設置しました。しかし976年にブルガリアに奪回され、1016年から1018年の間に東ローマ帝国が再占領しました。

1080年代になると、ラシュカは徐々にドゥクリャを治めるヴォイスラヴリェヴィチ朝の支配下に入り、その後ヴカノヴィチ朝の国家（ラスキア/ラシュカ）の一部となりました。一部は東ローマ帝国が保持していましたが、ヨハネス2世コムネノスの時代にハンガリーとの戦争で失われました。1112年までにラスはラシュカの大ジュパンであったヴカンに征服された可能性があります。考古学研究によれば、ラスはアレクシオス1世コムネノスの時代には東ローマ帝国支配下にあり、北方防衛線を守る要塞が置かれていました。1122年ごろに要塞が焼かれ、ヨハネス2世によるセルビア懲罰遠征のきっかけとなり、ラシュカに住んでいた多くのセルビア人が小アジアへ強制移住させられました。ヴカンはハンガリー王との同盟を保ち、1127年から1129年の間に再びラスを焼き払いました。ラスを中心とする行政区画と主教区は、セルビア勢力が東ローマ帝国から奪った最初の重要な行政区画でした。セルビア国家はラスを首都としたため、ラテン語文献では支配者がラスキアニ、国家名がラスキアと記述されるようになりました。ハンガリー語やドイツ語では、この名称がセルビア国家を指すものとして19、20世紀まで使われ続けました。

1149年、マヌエル1世コムネノスがラス要塞を奪回しましたが、その後セルビアの支配下に戻りました。1160年代にラスは再建され、宮殿群が建設されました。ステファン・ネマニャはラスを君主の在所としましたが、彼や後継者たちは領内各地の宮殿を転々としました。1190年に東ローマ皇帝イサキオス2世アンゲロスとステファン・ネマニャの戦争が引き分けに終わって初めて、ラシュカは東ローマ帝国から完全な独立を認められました。

ステファン・ネマニャの子ステファン・ネマニッチが1217年にローマ教皇からセルビア王の称号を認められ、ネマニッチ朝セルビア王国が対外的にも認められました。その後、地域としてのラシュカはセルビア国家（セルビア王国、セルビア帝国、セルビア専制侯国）の中心地であり続けましたが、1455年ごろにオスマン帝国に併合されました。

近代

1833年、歴史的ラシュカの北部がセルビア公国に編入され、ミロシュ・オブレノヴィチ1世がラシュカ川とイバル川の合流点に新しい都市「ラシュカ」を建設しました。1878年、歴史的ラシュカの南西部がモンテネグロ公国に編入され、ニコラ1世が新たに獲得した領土にザフムリェ＝ラシュカ教区を新設しました。1912年、歴史的ラシュカの中央部がセルビア王国とモンテネグロ王国へ編入され、スタリ・ラスの要塞はセルビアに属することとなりました。

1918年から1922年の間、ノヴィ・パザルを首府とするラシュカ郡がセルブ・クロアート・スロヴェーン王国によって設置されました。1922年にチャチャクを首府とするラシュカ州（オブラスト）へ再編され、1929年にはラシュカ州も廃止され、3つの州（バノヴィナ）に分割されました。この地域は、より広い範囲を指す歴史的地域スタラ・セルビアの一部でもあります。

現在のセルビア内では、歴史的ラシュカはおおよそラシュカ郡、ズラティボル郡、モラヴィツァ郡にまたがっています。

文化

ラシュカの支配者たちが建設したセルビア西部やボスニア東部の教会は、ラシュカ派と呼ばれる特徴的な建築様式に属しています。主なものとしては、スタリ・ラスの聖使徒ペタル・パヴレ教会、グラダツ修道院、スタラ・パヴリツァ修道院が挙げられます。

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