ランチャーワン

ランチャーワン（LauncherOne）は、英国の多国籍企業ヴァージン・グループの一部門であったヴァージン・オービット社が開発・運用を行っていた人工衛星打ち上げ用の二段式ロケットです。航空機からロケットを空中発射する方式を採用しており、小型衛星を主に太陽同期軌道（SSO）へ投入する能力を有していました。

開発と歴史

ランチャーワンの開発は、ヴァージン・グループの宇宙旅行会社であるヴァージン・ギャラクティック社によって、2007年に開始されました。当初の計画では、より小型な構成で低軌道（LEO）に200kgのペイロードを投入する能力を持ち、ヴァージン・ギャラクティックが開発していた宇宙船スペースシップツーの母機「ホワイトナイトツー」を流用することが検討されていました。

しかし、CubeSatをはじめとする小型衛星市場の拡大に対応するため、2015年には計画が変更され、高度500kmのSSOに300kgのペイロードを投入できるよう能力が向上されました。これに伴い、母機も大型のボーイング747-400を改造した専用機「コズミックガール」に変更されました。2017年には、衛星打ち上げ事業に特化したヴァージン・オービット社が設立され、ランチャーワンの開発・運用はこの新会社へと引き継がれました。

機体とエンジン

ランチャーワンは二段式の液体燃料ロケットとして設計されました。機体の直径は、一段目が1.6m、二段目とペイロードフェアリング部分は1.3mです。母機となるボーイング747-400「コズミックガール」の左主翼下に搭載されて運ばれ、所定の場所で切り離されてから打ち上げが行われます。

エンジンには、ケロシン（RP-1）と液体酸素（LOX）を推進剤とする液体燃料エンジンの「ニュートンエンジン」が使用されました。一段目には大気圏内で高い推力を発揮する「NewtonThree」エンジンが1基、二段目には真空中での性能を最適化された「NewtonFour」エンジンが1基搭載されていました。

2019年10月には、月や惑星（金星、火星）へのペイロード投入を可能にするための三段式派生型の開発計画も発表されていましたが、これは実現に至りませんでした。

運用と射場

ランチャーワンの運用における特徴は、空中発射方式であることです。ペイロード（衛星）の組み込み作業は、ヴァージン・オービット社の本社があったアメリカのカリフォルニア州ロングビーチで行われました。

打ち上げ自体は、母機「コズミックガール」がロケットを搭載したまま飛行し、海洋上など目的の軌道傾斜角に合わせた地点でロケットを放出することによって行われます。この方式の利点は、地上射場に比べて天候や上空の風といった制約を受けにくく、柔軟な打ち上げスケジュールを設定できる点にあります。ヴァージン・オービットは、現地の法規が許せば、ボーイング747が離着陸できる世界のあらゆる空港から打ち上げが可能であるとしていました。

実際に運用拠点として使用されたのは、カリフォルニア州のモハーヴェ空港と、英国のコーンウォール宇宙港（ニューキー空港）です。また、フロリダ州のケネディ宇宙センターやブラジルのアルカンタラ射場など、将来的な運用候補地として多数の空港が検討されていました。

打ち上げ実績とその終焉

ランチャーワンは、開発期間を含め計6回の打ち上げが行われました。最初のテスト飛行は2020年5月に行われましたが、一段目エンジンの点火直後に異常が発生し失敗に終わりました。続く2021年1月には、2号機で初めて打ち上げに成功し、10基のCubeSatを低軌道に投入しました。その後、3号機から5号機にかけては連続で打ち上げを成功させ、商業飛行を軌道に乗せたかに見えました。

しかし、英国からの初打ち上げとなった2023年1月の6号機は、打ち上げ途中に再び失敗しました。この度重なる打ち上げ失敗は、ヴァージン・オービット社の経営に大きな打撃を与え、同社は2023年4月に経営破綻を申請し、ランチャーワンの運用は終了しました。

ランチャーワンは、空中発射ロケットとしては初めて全ての段に液体燃料エンジンを採用したロケットであり、小型衛星打ち上げ市場における新しいアプローチとして注目されましたが、商業的な成功を収める前にその歴史に幕を下ろしました。公表されていた打ち上げ費用は約1,200万ドルでした。

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