リチャード・ユーエル

リチャード・ストッダート・ユーエル：波乱に満ちた軍人の生涯

リチャード・ストッダート・ユーエルは、アメリカ陸軍の職業軍人であり、南北戦争では南軍の将軍としてその名を歴史に刻みました。ストーンウォール・ジャクソンやロバート・E・リーといった名将の下で数々の戦いを指揮し、その軍事的な才能を発揮しましたが、ゲティスバーグの戦いでの行動が議論を呼び、その評価は複雑です。

生い立ちと初期の経歴

1817年 2月8日、ワシントンD.C.のジョージタウンで生まれたユーエルは、3歳からバージニア州の農園で育ちました。父は医師、母は海軍長官の娘という家系に生まれ、兄も南軍の士官でした。1840年に陸軍士官学校を卒業後、竜騎兵連隊に配属され、サンタフェ・トレイルやオレゴン・トレイルの護衛任務に従事しました。米墨戦争では、コントレラスの戦いやチュルブスコの戦いで勇敢に戦い、大尉に昇進。この時、後に指揮官となるロバート・E・リーとともに夜間偵察を行った経験も持っています。

その後、ニューメキシコ準州での任務や、アパッチ族との小競り合いでの負傷を経て、1860年には健康を害し、療養のためバージニアに戻りました。この病気は、後に続く南北戦争中にもユーエルを悩ませ続けることになります。

南北戦争

南北戦争開戦時、ユーエルは合衆国支持の感情を持っていましたが、出身州であるバージニア州が脱退すると、南軍に参加しました。騎兵隊の大佐として任官し、間もなく准将に昇進。第一次ブルランの戦いでは旅団を指揮しましたが、本格的な戦闘には至りませんでした。ユーエルの外見は特徴的で、「年寄りの禿頭」や「ボールディ」と呼ばれていましたが、その容姿とは裏腹に、部下たちには強い印象を与えました。

ストーンウォール・ジャクソンとの協同

1862年、ユーエルは少将に昇進し、ストーンウォール・ジャクソンの下でバレー方面作戦に参加しました。2人は協力しつつも、性格は対照的でした。ジャクソンは厳格で敬虔な性格でしたが、ユーエルは機知に富み、冒涜的な一面もありました。戦場での戦術も異なり、ジャクソンが直感に従って動くのに対し、ユーエルは正確な指示を求めるタイプでした。当初はジャクソンの作戦計画の不透明さに不満を抱いていたユーエルですが、最終的にはジャクソンのやり方に適応しました。バレー方面作戦では、ユーエルの師団は北軍を相手に数々の勝利を収め、その名を轟かせました。

その後の七日間の戦いでは、ゲインズミルの戦いやマルバーンヒルの戦いで活躍。しかし、第二次ブルランの戦いで負傷し、左足を切断する重傷を負いました。

ゲティスバーグの戦いと論争

ユーエルは、傷の治療中に看護をしてくれた従姉妹のリジンカ・キャンベル・ブラウンと結婚。その後、チャンセラーズヴィルの戦いを経て、ジャクソンの死後、第2軍団の指揮を引き継ぎました。

ゲティスバーグ方面作戦では、第二次ウィンチェスターの戦いで華々しい戦果を挙げたユーエルでしたが、ゲティスバーグの戦いが彼の軍人としての評価を大きく左右することになります。7月1日、ユーエルの軍団は北からゲティスバーグに接近し、北軍を撃破しましたが、その後のセメタリーヒルを巡る攻防で、ユーエルは攻撃を躊躇します。リーからの「可能ならば」セメタリーヒルを奪えという命令は、ユーエルの判断を迷わせました。ユーエルは、兵士の疲労や敵の増援、リーからの曖昧な指示などを理由に攻撃を見送りました。

この判断は、後々まで論争の的となり、もしストーンウォール・ジャクソンが生きていれば、どう行動しただろうかという議論を呼びました。歴史家たちは、ユーエルの決断がゲティスバーグの戦いの帰趨に大きな影響を与えたと指摘しています。

その後、ユーエルは7月3日に再び負傷し、その後の撤退作戦を指揮しましたが、彼の運勢は下がり続けました。ケリーズフォードで負傷し、さらには雪上での落馬で怪我を負うなど、不運が続きました。

オーバーランド方面作戦とリッチモンド

1864年、荒野の戦いでは功績を上げましたが、スポットシルバニア・コートハウスの戦いでの不決断は、リーを失望させました。リーは、ユーエルの長引く怪我が原因だと判断し、ユーエルを軍団指揮官から解任。リッチモンド防衛軍の指揮官に転任させました。ユーエルは、1865年にセイラーズクリークの戦いで捕虜となり、終戦まで捕虜生活を送りました。

戦後

戦後、ユーエルはテネシー州で農園主として隠棲し、農場経営で成功を収めました。また、妻の子供や孫を溺愛し、地域社会の活動にも積極的に参加しました。1872年、ユーエルと妻は相次いで肺炎で亡くなり、ナッシュビルの墓地に埋葬されました。死後、『軍人の養成』という著作が出版されています。

ユーエルの生涯は、その軍事的な才能と同時に、ゲティスバーグの戦いでの決断がもたらした論争によって、複雑なものとして記憶されています。

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