リューシアナッサ

リューシアナッサ（古代ギリシア語: Λυσιάnassa, Lȳsianassa）は、古代ギリシアの神話世界において、複数の異なる存在を指し示す名前として登場します。長母音を省略した「リュシアナッサ」という表記も用いられます。この名前を持つ主な人物や神格は、以下の四つの伝承で確認できます。

1. ネーレーイスの一柱として

リューシアナッサという名は、海の神ネーレウスとその妻ドーリスの間に生まれた娘たち、すなわち海の女神ネーレーイスたちの一員として伝わっています。ネーレーイスは海の穏やかな側面を象徴する存在であり、一般的に五十柱いるとされています。彼女たちは海の奥底に住まうとされ、しばしば英雄たちの航海を助けたり、海の出来事に関わったりします。このネーレーイスとしてのリューシアナッサは、古代ギリシアの主要な神話文献であるヘーシオドスの『神統記』や、後の時代に編纂されたアポロドーロスの『ビブリオテーケー』といった作品にその名前が挙げられています。

2. エジプト王エパポスの娘として

もう一人、リューシアナッサと呼ばれる人物として知られているのは、神話時代のエジプトの王エパポスの娘です。彼女にはリビュエーという名の姉妹がいました。彼女たちの母親に関しては文献によって異説があり、アポロドーロスはナイル川の神ネイロスの娘メムピスとしていますが、ヒュギーヌスはカッシオペイアという人物の名を伝えています。このリューシアナッサは、偉大な海の神ポセイドーンとの間に子供をもうけました。その息子がブーシーリスです。しかし、このブーシーリスは成長するとエジプトにおいて非道な支配者となり、外国人を神への生贄とする悪習を始めました。最終的に彼は、ギリシア神話最大の英雄であるヘーラクレースの冒険譚の一つとして、彼によって退治される運命を辿ります。リューシアナッサは、この悲劇的な王の母として、神話上のエジプトの系譜に関わる存在として語られています。

3. シキュオーン王ポリュボスの娘として

第三に、ペロポネーソス半島の都市シキュオーンを支配した王ポリュボスの娘にも、リューシアナッサという名前の人物がいました。旅行家であり歴史家でもあるパウサニアースがその著書『ギリシア記』で伝えているところによれば、このポリュボスの娘リューシアナッサは、アルゴスの王タラオスの妻となりました。そして、彼女とタラオスとの間に生まれたのが、ギリシア神話において「七将のテーバイ攻め」の指導者の一人として名高い英雄アドラーストスです。このように、このリューシアナッサは、アルゴス王家の重要な系譜に連なる人物です。歴史家ヘーロドトスもまた、タラオスがシキュオーン王ポリュボスの娘と結婚し、アドラーストスが生まれたという同様の伝承を記録していますが、ヘーロドトスの記述の中では、この娘の名前については specific な言及がありません。

4. トロイア王プリアモスの娘として

最後に、叙事詩『イーリアス』で名高いトロイアの偉大な王プリアモスには多くの子供がいましたが、その娘の一人もまたリューシアナッサという名前であったと、ローマの神話学者ヒュギーヌスが伝えています。プリアモスの娘たちの中には、トロイア戦争において重要な役割を果たしたカッサンドラーやクレウーサ、ラーオディケーなどがいますが、リューシアナッサは彼女たちほど広く知られた存在ではありません。しかし、ヒュギーヌスの記述によれば、彼女もまた、トロイア王家の複雑な血縁関係の一部を構成していた人物であると考えられます。

このように、リューシアナッサという名前は、海の神格から、エジプト、アルゴス、そしてトロイアといった異なる神話世界の王家に連なる女性たちまで、多岐にわたる存在に用いられています。これらのリューシアナッサは、それぞれ独立した物語や系譜の中で役割を担っており、ギリシア神話の広がりと多様性を示す一例と言えるでしょう。

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