ロバート・カー (初代サマセット伯)

初代サマセット伯ロバート・カーの生涯

初代サマセット伯ロバート・カー（Robert Carr, 1st Earl of Somerset, 1587年頃 - 1645年7月17日）は、イングランドとスコットランドの歴史において、特異な足跡を残した人物です。彼は、イングランド王ジェームズ1世（スコットランド王としてはジェームズ6世）の寵臣として、17世紀初頭の宮廷で重要な役割を果たしました。しかし、その栄光は長くは続かず、スキャンダルと失脚によって幕を閉じました。

生い立ちと出世

1587年頃、スコットランドで生まれたロバート・カーは、早くからジェームズ6世の宮廷に仕えました。1603年にジェームズ6世がイングランド王ジェームズ1世として即位すると、カーもこれに従ってロンドンへ移り、国王の寵愛を受けました。彼は、1607年にナイトに叙任され、1611年にはロチェスター子爵に叙せられると同時にロチェスター城を与えられました。その後も順調に出世を重ね、1612年には枢密顧問官と国王秘書長官に就任、1613年にはサマセット伯爵に叙されました。さらに、1614年から1615年にかけては宮内長官、五港長官、王璽尚書といった要職を歴任し、宮廷内での影響力を拡大していきました。

宮廷内での権力闘争

カーは、ジェームズ1世の宮廷内でスコットランド出身の廷臣を代表する立場にあり、初代ソールズベリー伯ロバート・セシルの死後、宮廷内の実権を握った初代ノーサンプトン伯ヘンリー・ハワードや初代サフォーク伯トマス・ハワードら、カトリックで親スペイン派のハワード家を支持しました。一方で、プロテスタントで反スペイン派のカンタベリー大主教ジョージ・アボットやペンブルック伯ウィリアム・ハーバート、サウサンプトン伯ヘンリー・リズリーらとは対立していました。このように、カーは宮廷内の複雑な権力闘争の中心にいました。

オーヴァーベリー毒殺事件

カーは詩人トマス・オーヴァーベリーを宮廷に取り立てましたが、これが彼の運命を大きく変えることになります。1613年、カーがサフォーク伯の娘で第3代エセックス伯ロバート・デヴァルー夫人であったフランセス・ハワードと恋仲になると、オーヴァーベリーは二人の結婚に反対しました。これに恨みを抱いたカーとフランセスは、オーヴァーベリーを陥れ、ロンドン塔に投獄しました。その後、フランセスはオーヴァーベリーに少しずつ毒を盛って殺害したのです。この毒殺事件は、宮廷内を震撼させました。

失脚と晩年

1614年から1615年頃にかけて、カーは国王の寵愛をジョージ・ヴィリアーズ（後の初代バッキンガム公）に奪われ、その結果、1616年にはオーヴァーベリー毒殺容疑で妻とともに逮捕され、失脚しました。事件の取り調べでは、王座裁判所首席裁判官エドワード・コークと法務長官フランシス・ベーコンらが担当し、ベーコンによる告発文書によって事件の詳細が暴かれました。カーは有罪判決を受け、5年間監禁された後、1622年に釈放されましたが、その後は公の場から姿を消し、引退生活を送りました。1645年7月17日に死去し、男子がいなかったため、彼の死とともに爵位は廃絶しました。

栄典と家族

カーは、1611年にロチェスター子爵、1613年にはサマセット伯爵とブランセペス男爵に叙されました。また、1611年にはガーター騎士団のナイトにも叙任されています。彼は1613年にフランセス・ハワードと結婚し、彼女との間に一人娘のアン・カーを儲けました。アンは後に第5代ベッドフォード伯ウィリアム・ラッセル（後の初代ベッドフォード公爵）と結婚しました。

まとめ

初代サマセット伯ロバート・カーは、ジェームズ1世の寵臣として権力を握ったものの、スキャンダルによって失脚するという、波乱に満ちた生涯を送りました。彼の物語は、当時の宮廷内の権力闘争と人間関係の複雑さを色濃く映し出しています。

参考文献

今井宏(編)『イギリス史〈2〉近世』山川出版社〈世界歴史大系〉、1990年。ISBN 978-4634460201。
松村赳、富田虎男『英米史辞典』研究社、2000年。ISBN 978-4767430478。
塚田富治『近代イギリス政治家列伝 かれらは我らの同時代人』みすず書房、2001年。ISBN 978-4622036753。
木村俊道『顧問官の政治学 フランシス・ベイコンとルネサンス期イングランド』木鐸社、2003年。
* 石井栄一『ベーコン 人と思想43』清水書院、1977年（新装版2016年）。

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