ロバート・ヴェンチューリ
ロバート・チャールズ・ヴェンチューリ・ジュニア（1925年6月25日 - 2018年9月18日）は、アメリカ合衆国を代表する建築家の一人です。ヴェンチューリ・スコット・ブラウン・アンド・アソシエイツ事務所の創立者として知られ、20世紀の建築界に大きな足跡を残しました。彼は、妻であり仕事上のパートナーでもあったデニス・スコット・ブラウンと共に、建築家、プランナー、そして学生たちが建築やアメリカの建築環境について深く考え、経験する方法を形成する上で重要な役割を果たしました。彼らの建築、計画、論考、そして教育は、建築に関する議論を大きく広げたと言えるでしょう。
ヴェンチューリは、主著である『建築の多様性と対立性』（1966年）や『ラスベガス』（1972年、共著）において、禁欲的な装飾を否定するモダニズム建築を批判し、ポストモダニズム建築を提唱しました。ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more（少ないほど豊かである）」という標語を「Less is a bore（少ないほど退屈である）」と皮肉ったことは有名です。彼は、スコット・ブラウンとともにフィラデルフィアに居を構え、活動を続けました。
ヴェンチューリはフィラデルフィアで、父ロバート・ヴェンチューリ・シニアと母ヴァンナ・ヴェンチューリの間に生まれ、クエーカー教徒として育てられました。ペンシルベニア州メリオンのエピスコパル・アカデミーを経て、1947年にプリンストン大学を最優等で卒業。在学中はファイ・ベータ・カッパ協会の会員に選ばれ、建築家としての才能を認められダマト賞を受賞しました。1950年には美術学修士を取得。プリンストン大学では、ボザール様式の教育的枠組みの中で、挑発的なデザインスタジオを提供していた教授ジーン・ラバトゥの下で学びました。この経験は、彼が様式的な用語ではなく、分析的な用語で語られる建築史と商業建築から引き出された建築理論とデザインに対する独自のアプローチを発展させる上で、重要な要素となりました。
1951年、ヴェンチューリはミシガン州ブルームフィールドヒルズでエーロ・サーリネンの下で短期間働いた後、フィラデルフィアのルイス・カーンの事務所に移りました。1954年にはローマ・アメリカン・アカデミーのローマ賞フェローシップを受賞し、2年間ヨーロッパで遊学しました。
1959年から1967年までペンシルベニア大学で教鞭をとり、カーンのティーチング・アシスタント、講師、そして准教授として勤務しました。1960年には、同僚の建築家でありプランナーのデニス・スコット・ブラウンと出会い、その後パートナーとなります。ペンシルベニア大学を退職後、イェール建築学校で教鞭をとり、2003年にはハーバード大学デザイン大学院でスコット・ブラウンと共に客員講師を務めました。2018年9月18日、アルツハイマー病の合併症により93歳で亡くなりました。
ヴェンチューリは、モダニズム建築の前提に疑問を投げかけた最初の建築家の一人であり、機能主義的で象徴的な意味において空虚であると見なされていた近代建築運動に対する、論争を呼ぶ批判者でした。1966年に発表された『建築の多様性と対立性』は「穏やかなマニフェスト」として注目され、ヴィンセント・スカーリーは同書をル・コルビュジエの『建築をめざして』以来の名著と評価しました。この著作はヴェンチューリがペンシルバニア大学で行った講義に基づき、グラハム財団の助成金制度を利用して制作されました。同書は、建築の構成と多様性を理解するためのアプローチを示し、多数の事例を引用しながら、その結果として得られる豊かさと面白さを強調しました。彼は、ミケランジェロ・ブオナローティやアルヴァ・アールトといった著名な建築家だけでなく、フランク・ファーネスやエドウィン・ラッチェンスといった当時忘れられていた建築家の作品からも新たな教訓を引き出そうとしました。ヴェンチューリは、当時流行していた図式化された様式ではなく「複雑な全体」を主張し、自身の作品を例に、その技術の応用の可能性を示しました。この著書は、現在までに18言語に翻訳されています。
ヴェンチューリは、1960年代中盤にはイェール大学建築学部のスタジオ科目で教鞭をとるなど、ラディカルな発想を持つ理論家・デザイナーとして高く評価されました。その中でも特に有名なのが、1968年にヴェンチューリとスコット・ブラウンがスティーブン・アイゼナワーと共に、学生チームを率いて行ったラスベガス・ストリップの記録と分析プロジェクトです。このテーマは、本格的な研究対象としては最もありえないものでしたが、1972年に『A&P駐車場の意味、あるいはラスベガスから学ぶこと』として発表され、その後1977年には『ラスベガスから学ぶこと：建築の形態における忘れられた象徴主義』として改訂・再出版されました。この2番目のマニフェストは、正統派モダニズムとエリート建築家の好みをさらに刺激的に批判するものでした。本書では「アヒル」と「装飾された小屋」という用語を用いて、ラスベガスにおける建築の2つの主要な方法論を説明しています。ヴェンチューリ、スコット・ブラウン、ジョン・ラウチの作品は後者の方法論を採用し、シンプルな構造に豊かで複雑、そして時に衝撃的な装飾を施した「装飾された小屋」を建築しました。
ヴェンチューリの建築は、今日では彼の理論書ほど馴染み深くはないかもしれませんが、彼の作品はアメリカの建築を、1960年代に広く実践されていた、時に陳腐なモダニズム建築から、建築史からの教訓を率直に引き出し、アメリカの都市の日常的な文脈に対応した、より探求的なデザインアプローチへと方向転換させる上で重要な役割を果たしました。ヴェンチューリの建築は、建築のシステム、要素、目的を並置することで、しばしばプロジェクトや敷地に内在する対立を表現しています。このような包括的なアプローチは、全ての要素を完結した柔軟性のない構造として解決しようとする、モダニストの典型的な努力とは対照的でした。彼の初期の作品には、ノースペン派出看護婦本部のような「不純」な形態、「母の家」のような明らかに無造作な非対称性、「リーブ・ハウス」のようなポップなスーパーグラフィックスと幾何学的図形の採用など、当時の建築家の仕事に対する驚くべき選択肢を提供しました。
ヴェンチューリは1960年にウィリアム・ショートと共にヴェンチューリ・アンド・ショート事務所を設立。建築デザインにおいて、彼はミケランジェロ・ブオナローティやアンドレーア・パッラーディオといった初期の巨匠、そしてル・コルビュジエ、アルヴァ・アールト、ルイス・I・カーン、エーロ・サーリネンといった近現代の巨匠から影響を受けています。1964年からはジョン・ラウチがパートナーとなり、事務所名も「ヴェンチューリ・アンド・ラウチ」に変更されました。1967年にはデニス・スコット・ブラウンと結婚し、1969年にはスコット・ブラウンが事務所に加わり、プランニングの責任者となりました。1980年には事務所名が「ヴェンチューリ・ラウチ・アンド・スコット・ブラウン」に変更され、1989年にラウチが事務所を脱退すると、「ヴェンチューリ・スコット・ブラウン・アンド・アソシエイツ」となりました。フィラデルフィア州マネイアンクを拠点とする同事務所は、1985年にアメリカ[[建築家協会]]の建築事務所賞を受賞しました。
1960年代後期の「母の家」における切断された切妻屋根、「ギルド・ハウス」の分割された円弧型の窓、断続的な蛇腹層の普及に始まり、ヴェンチューリの建築は世界的な影響力を持ちました。Trubek and Wislocki Housesに見られるような、ヴァナキュラーな建築様式に遊び心のあるバリエーションを加えることで、見慣れた形を受け入れながらも、変容させる新しい方法を示しました。オバーリン美術館とその研究棟に見られるファサードのデザインは、装飾的でありながらも抽象的な建物の垂直面の扱いを提示し、現代的でありながらもヴァナキュラー建築や歴史的な建築の要素を取り入れています。
ヴェンチューリはローマ・アメリカン・アカデミーおよびアメリカ[[建築家協会]]のフェロー、王立英国建築家協会の名誉フェローでした。彼の教え子には、エイミー・ワインスタインやピーター・コリガンといった著名な建築家がいます。
ヴェンチューリー 『ラスベガス』 石井和紘・伊藤公文訳、鹿島出版会〈SD選書〉、1978年
ヴェンチューリ 『建築の多様性と対立性』伊藤公文訳、鹿島出版会〈SD選書〉、1982年
ヴェンチューリ 『建築のイコノグラフィーとエレクトロニクス』 安山宣之訳、鹿島出版会、1999年
デイヴィッド・ゲバード／デボラ・ネヴィンズ 『図面で見るアメリカの建築家 ジェファソンからヴェンチューリまで』谷川正己・増山博文訳、鹿島出版会、1980年
* フレデリック・シュワルツ編『母の家 ヴェンチューリのデザインの進化を追跡する』三上祐三訳、鹿島出版会、1994年
1991年、プリツカー賞を受賞。彼はパートナーであるスコット・ブラウンを受賞者に加えるよう求めましたが、賞は単独のものとなりました。その後、女性建築家のグループが彼女の名前を賞に遡って加えようとしましたが、審査員により拒否されました。1993年にはベンジャミン・フランクリン・メダル、2016年にはAIAゴールドメダルを受賞しています。
ヴェンチューリは、主著である『建築の多様性と対立性』（1966年）や『ラスベガス』（1972年、共著）において、禁欲的な装飾を否定するモダニズム建築を批判し、ポストモダニズム建築を提唱しました。ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more（少ないほど豊かである）」という標語を「Less is a bore（少ないほど退屈である）」と皮肉ったことは有名です。彼は、スコット・ブラウンとともにフィラデルフィアに居を構え、活動を続けました。
生い立ちと経歴
ヴェンチューリはフィラデルフィアで、父ロバート・ヴェンチューリ・シニアと母ヴァンナ・ヴェンチューリの間に生まれ、クエーカー教徒として育てられました。ペンシルベニア州メリオンのエピスコパル・アカデミーを経て、1947年にプリンストン大学を最優等で卒業。在学中はファイ・ベータ・カッパ協会の会員に選ばれ、建築家としての才能を認められダマト賞を受賞しました。1950年には美術学修士を取得。プリンストン大学では、ボザール様式の教育的枠組みの中で、挑発的なデザインスタジオを提供していた教授ジーン・ラバトゥの下で学びました。この経験は、彼が様式的な用語ではなく、分析的な用語で語られる建築史と商業建築から引き出された建築理論とデザインに対する独自のアプローチを発展させる上で、重要な要素となりました。
1951年、ヴェンチューリはミシガン州ブルームフィールドヒルズでエーロ・サーリネンの下で短期間働いた後、フィラデルフィアのルイス・カーンの事務所に移りました。1954年にはローマ・アメリカン・アカデミーのローマ賞フェローシップを受賞し、2年間ヨーロッパで遊学しました。
1959年から1967年までペンシルベニア大学で教鞭をとり、カーンのティーチング・アシスタント、講師、そして准教授として勤務しました。1960年には、同僚の建築家でありプランナーのデニス・スコット・ブラウンと出会い、その後パートナーとなります。ペンシルベニア大学を退職後、イェール建築学校で教鞭をとり、2003年にはハーバード大学デザイン大学院でスコット・ブラウンと共に客員講師を務めました。2018年9月18日、アルツハイマー病の合併症により93歳で亡くなりました。
建築理論
ヴェンチューリは、モダニズム建築の前提に疑問を投げかけた最初の建築家の一人であり、機能主義的で象徴的な意味において空虚であると見なされていた近代建築運動に対する、論争を呼ぶ批判者でした。1966年に発表された『建築の多様性と対立性』は「穏やかなマニフェスト」として注目され、ヴィンセント・スカーリーは同書をル・コルビュジエの『建築をめざして』以来の名著と評価しました。この著作はヴェンチューリがペンシルバニア大学で行った講義に基づき、グラハム財団の助成金制度を利用して制作されました。同書は、建築の構成と多様性を理解するためのアプローチを示し、多数の事例を引用しながら、その結果として得られる豊かさと面白さを強調しました。彼は、ミケランジェロ・ブオナローティやアルヴァ・アールトといった著名な建築家だけでなく、フランク・ファーネスやエドウィン・ラッチェンスといった当時忘れられていた建築家の作品からも新たな教訓を引き出そうとしました。ヴェンチューリは、当時流行していた図式化された様式ではなく「複雑な全体」を主張し、自身の作品を例に、その技術の応用の可能性を示しました。この著書は、現在までに18言語に翻訳されています。
ヴェンチューリは、1960年代中盤にはイェール大学建築学部のスタジオ科目で教鞭をとるなど、ラディカルな発想を持つ理論家・デザイナーとして高く評価されました。その中でも特に有名なのが、1968年にヴェンチューリとスコット・ブラウンがスティーブン・アイゼナワーと共に、学生チームを率いて行ったラスベガス・ストリップの記録と分析プロジェクトです。このテーマは、本格的な研究対象としては最もありえないものでしたが、1972年に『A&P駐車場の意味、あるいはラスベガスから学ぶこと』として発表され、その後1977年には『ラスベガスから学ぶこと：建築の形態における忘れられた象徴主義』として改訂・再出版されました。この2番目のマニフェストは、正統派モダニズムとエリート建築家の好みをさらに刺激的に批判するものでした。本書では「アヒル」と「装飾された小屋」という用語を用いて、ラスベガスにおける建築の2つの主要な方法論を説明しています。ヴェンチューリ、スコット・ブラウン、ジョン・ラウチの作品は後者の方法論を採用し、シンプルな構造に豊かで複雑、そして時に衝撃的な装飾を施した「装飾された小屋」を建築しました。
建築作品
ヴェンチューリの建築は、今日では彼の理論書ほど馴染み深くはないかもしれませんが、彼の作品はアメリカの建築を、1960年代に広く実践されていた、時に陳腐なモダニズム建築から、建築史からの教訓を率直に引き出し、アメリカの都市の日常的な文脈に対応した、より探求的なデザインアプローチへと方向転換させる上で重要な役割を果たしました。ヴェンチューリの建築は、建築のシステム、要素、目的を並置することで、しばしばプロジェクトや敷地に内在する対立を表現しています。このような包括的なアプローチは、全ての要素を完結した柔軟性のない構造として解決しようとする、モダニストの典型的な努力とは対照的でした。彼の初期の作品には、ノースペン派出看護婦本部のような「不純」な形態、「母の家」のような明らかに無造作な非対称性、「リーブ・ハウス」のようなポップなスーパーグラフィックスと幾何学的図形の採用など、当時の建築家の仕事に対する驚くべき選択肢を提供しました。
ヴェンチューリは1960年にウィリアム・ショートと共にヴェンチューリ・アンド・ショート事務所を設立。建築デザインにおいて、彼はミケランジェロ・ブオナローティやアンドレーア・パッラーディオといった初期の巨匠、そしてル・コルビュジエ、アルヴァ・アールト、ルイス・I・カーン、エーロ・サーリネンといった近現代の巨匠から影響を受けています。1964年からはジョン・ラウチがパートナーとなり、事務所名も「ヴェンチューリ・アンド・ラウチ」に変更されました。1967年にはデニス・スコット・ブラウンと結婚し、1969年にはスコット・ブラウンが事務所に加わり、プランニングの責任者となりました。1980年には事務所名が「ヴェンチューリ・ラウチ・アンド・スコット・ブラウン」に変更され、1989年にラウチが事務所を脱退すると、「ヴェンチューリ・スコット・ブラウン・アンド・アソシエイツ」となりました。フィラデルフィア州マネイアンクを拠点とする同事務所は、1985年にアメリカ[[建築家協会]]の建築事務所賞を受賞しました。
1960年代後期の「母の家」における切断された切妻屋根、「ギルド・ハウス」の分割された円弧型の窓、断続的な蛇腹層の普及に始まり、ヴェンチューリの建築は世界的な影響力を持ちました。Trubek and Wislocki Housesに見られるような、ヴァナキュラーな建築様式に遊び心のあるバリエーションを加えることで、見慣れた形を受け入れながらも、変容させる新しい方法を示しました。オバーリン美術館とその研究棟に見られるファサードのデザインは、装飾的でありながらも抽象的な建物の垂直面の扱いを提示し、現代的でありながらもヴァナキュラー建築や歴史的な建築の要素を取り入れています。
ヴェンチューリはローマ・アメリカン・アカデミーおよびアメリカ[[建築家協会]]のフェロー、王立英国建築家協会の名誉フェローでした。彼の教え子には、エイミー・ワインスタインやピーター・コリガンといった著名な建築家がいます。
主な日本語文献
ヴェンチューリー 『ラスベガス』 石井和紘・伊藤公文訳、鹿島出版会〈SD選書〉、1978年
ヴェンチューリ 『建築の多様性と対立性』伊藤公文訳、鹿島出版会〈SD選書〉、1982年
ヴェンチューリ 『建築のイコノグラフィーとエレクトロニクス』 安山宣之訳、鹿島出版会、1999年
デイヴィッド・ゲバード／デボラ・ネヴィンズ 『図面で見るアメリカの建築家 ジェファソンからヴェンチューリまで』谷川正己・増山博文訳、鹿島出版会、1980年
* フレデリック・シュワルツ編『母の家 ヴェンチューリのデザインの進化を追跡する』三上祐三訳、鹿島出版会、1994年
受賞歴
1991年、プリツカー賞を受賞。彼はパートナーであるスコット・ブラウンを受賞者に加えるよう求めましたが、賞は単独のものとなりました。その後、女性建築家のグループが彼女の名前を賞に遡って加えようとしましたが、審査員により拒否されました。1993年にはベンジャミン・フランクリン・メダル、2016年にはAIAゴールドメダルを受賞しています。
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