三宮四郎

三宮四郎：京王電鉄の礎を築いた実業家

三宮四郎（1897年9月14日 - 1973年11月8日）は、昭和時代に活躍した実業家です。東京急行電鉄（東急電鉄）の専務取締役や、京王帝都電鉄（現：京王電鉄）の初代取締役社長を歴任し、財団法人五島美術館の常務理事も務めました。特に、大東急から独立した京王帝都電鉄の初代社長として、終戦直後から1950年代にかけて、京王帝都電鉄および京王グループの基礎を築き上げた人物として知られています。

生涯

大分県に生まれた三宮四郎は、慶應義塾大学を卒業後、目黒蒲田電鉄（現在の東急電鉄）に入社しました。そこで五島慶太社長に見出され、その知遇を得て、1942年には東京急行電鉄の取締役に就任しました。1946年には同社の専務取締役に昇任しましたが、その後一時的に監査役に転任しています。

戦時統合により東京急行電鉄（大東急）に合併されていた京王電気軌道は、終戦後の1947年（昭和22年）12月26日に大東急からの分離独立を決議しました。翌1948年（昭和23年）5月29日の設立総会で、三宮四郎が取締役社長に就任し、同年6月1日に京王線・井の頭線とバス3営業所をもって京王帝都電鉄として新たなスタートを切りました。

京王帝都電鉄の初代社長として

三宮は京王帝都電鉄の初代社長として、戦後復興期に尽力しました。脆弱な財務基盤の中で、鉄道施設の改良や新型車両（京王2600系電車）の導入、急行運転の開始など、積極的な投資を行い、現在の京王線の基礎を築きました。また、戦災で大きな被害を受けた井の頭線の復興も果たしました。

バス事業の強化にも力を注ぎ、1948年（昭和23年）9月16日には路線バスの都区内第2の拠点として永福町営業所を新設しました。1951年（昭和26年）には観光バス事業、1956年（昭和31年）10月6日には高速バス事業（後に「中央高速バス」として運行）を開始するなど、事業の多角化を推進しました。また、1955年（昭和30年）7月9日には高尾自動車、翌1956年（昭和31年）2月29日には奥多摩振興を買収し、京王グループ傘下とし、後の1963年（昭和38年）の西東京バス統合への道筋をつけました。

鉄道事業の収支を補うため、事業の多角化を志向し、1953年（昭和28年）6月24日には京王帝都観光協会（現在の京王観光）を設立しました。また、東京都調布市内に、1955年（昭和30年）4月3日には京王遊園（現在は廃園）、1956年（昭和31年）6月16日には東京菖蒲園（後に「京王百花苑」と改称、現在の京王フローラルガーデンANGE）を開園するなど、沿線地域の観光開発にも取り組みました。

当時の重要なレジャー産業であった映画事業にも関心を示し、1956年（昭和31年）9月10日には映画興行会社「京王映画株式会社」を設立、同年12月25日には映画館「新宿京王」を開館しました。「新宿京王」は現在の「京王新宿三丁目ビル」に位置し、「新宿京王劇場」「新宿京王地下」に分かれていましたが、1980年代頃に閉館しています。

1957年（昭和32年）4月15日、三宮は取締役社長を退任し、専務取締役であった井上定雄（後に京王プラザホテル社長）が後任として京王帝都電鉄の取締役社長に就任しました。

その後

1954年には東京急行電鉄の取締役に再任され（京王の取締役社長と兼任）、五島慶太の没後、1959年には五島美術館の常務理事に就任しました。1973年まで東京急行電鉄の取締役を務め、同年11月8日に76歳で亡くなりました。

日映設立計画と失脚

1957年（昭和32年）には、映画事業の拡大を目指し、大映専務の曾我正史や千土地興行社長の松尾國三らと共同で映画製作会社「日映」を設立する計画を進めました。京王が4億円を出資し、聖蹟桜ヶ丘駅付近に撮影所を建設する予定でしたが、京王の本業以外への過剰投資を懸念した東急の五島慶太会長の反対に遭い、さらに当時の運輸大臣であった宮沢胤勇も、京王が申請していた鉄道事業に対する7億円の政府融資の却下を示唆する事態となりました。その結果、京王は日映への出資を取りやめざるを得なくなり、三宮は失踪事件を起こし、京王社長を事実上更迭されることとなりました。

三宮は真面目な性格で、口数も少なく愛嬌もない人物であったため、映画製作という「水商売」への参入には周囲も驚いたと言われています。日映事件の際、五島慶太は三宮を呼び、東映再建の苦労話を語って断念を迫りましたが、三宮は「彼ら（曾我や松尾）に義理がある」と主張し、聞き入れませんでした。五島は激怒し、「30年に及ぶ俺との義理より、昨日今日の義理を重んじるのか」と叱責し、三宮も最終的には折れざるを得ませんでした。

人物像

三宮は義理堅い人物であり、日映への出資を断念した後も、騒動の収束のために曾我や松尾と直接会って謝罪し、京王社長を引責辞任することを伝えたとされています。

実弟に、いすゞ自動車の初代社長を務めた三宮吾郎がいます。

参考文献

* 京王帝都電鉄株式会社総務部『京王帝都電鉄30年史』京王帝都電鉄、1978年。

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