三木鮎郎

三木 鮎郎

三木 鮎郎（みき あゆろう、1924年6月26日 - 1997年6月6日）は、戦後日本の文化界において、ジャズ評論、テレビ・ラジオの司会業、放送作家、エッセイ執筆、そして翻訳という、実に多岐にわたる領域でその才能を開花させた人物です。本名を繁田文吾（しげた ぶんご）といいます。

彼は音楽家系の出身であり、実兄には作曲家・作詞家として高名な三木鶏郎がいます。また、自身の長男である三木睦郎氏も放送作家として活動しており、特に国民的番組である『笑点』などを手がけるなど、一家で日本のエンターテインメント界に貢献したことでも知られています。

経歴と多角的な活動

三木鮎郎氏は、旧制暁星中学校で学んだ後、高等商船学校へ進みますが、学業途中で退きました。その後、社会に出てからはアメリカ軍の通訳を務めています。この通訳としての経験は、彼が後のキャリアで発揮する国際的な感覚や、特にアメリカ文化であるジャズへの深い理解に繋がる重要な時期だったと言えるでしょう。

彼の名前が広く知られるようになるきっかけの一つは、1951年に開催された「ジャズとシンフォニックタンゴの夕べ」というコンサートです。ここで彼は、急遽、当初予定されていたタレントであるトニー谷氏の代役として司会を担当することになりました。この予期せぬ機会が、彼がパブリックな活動の表舞台に出る大きな一歩となったのです。

これを機に、彼はジャズへの深い知識を活かした音楽評論を展開する一方、テレビやラジオの世界へと活躍の場を広げていきます。特にテレビ放送が始まったばかりの黎明期から中核的な存在として活躍し、数々の人気番組で司会や解説者として視聴者の支持を得ました。代表的な番組としては、『スター千一夜』（フジテレビ）や、長年にわたり深夜の人気を博した情報番組『11PM』（日本テレビ、水曜日担当）、そして歴史ある音楽番組『TBS歌謡曲ベストテン』から改題された『TBS歌のグランプリ』（TBS）、さらには初期の『日本レコード大賞』（TBS）の司会を複数回務めるなど、その活躍は多岐にわたります。彼の洗練された語り口と幅広い知識は、多くの番組で重宝されました。

また、彼は単に司会や評論をするだけでなく、番組の構成作家としても優れた手腕を発揮し、『おとなの漫画』や『光子の窓』といったテレビ番組の制作にも深く関与しました。加えて、エッセイストとして、自身の視点から社会や文化、あるいは自身の趣味について綴った文章も数多く発表しています。

趣味と晩年の挑戦

三木氏は、趣味人としても知られ、特にゴルフとテニスを熱心に愛好していました。その情熱は単なる趣味の範疇を超え、これらのスポーツに関する自身の経験や理論をまとめた書籍を複数刊行するほどでした。これは彼の探求心と、一度興味を持ったものへの深い関わりを示すものです。

さらに、キャリアの晩年においては、翻訳家としての新しい才能を開花させました。得意の語学力を活かし、特に海洋冒険小説の分野を中心に精力的に翻訳を手がけ、多くの海外作品を日本の読者に紹介しました。セシル・スコット・フォレスターやブライアン・キャリスンといった作家の作品を手がけるなど、晩年まで知的な好奇心と活動意欲が衰えることはありませんでした。

個人的なエピソードとしては、1957年に発生した日本航空雲仙号不時着事故に、奇しくも乗客の一人として遭遇したという、忘れられない経験も持っています。

主な担当番組（司会・解説等）

三共ジェスチャークイズ（日本テレビ）
物識り大学（日本テレビ）
11PM（日本テレビ、水曜担当）
TBS歌謡曲ベストテン → TBS歌のグランプリ（TBS）
日本レコード大賞（TBS）
スター千一夜（フジテレビ）
ニュース対談（フジテレビ）
ウィークエンドショー（MBS）
FM25時 ビルボード・HOT50（エフエム東京）

主な著書

『花嫁募集中』
『三木鮎郎の結婚スピーチと司会』
『ゴルフのうまくなる本』
『三木鮎郎のラケット狂奏曲 テニス・ライフへの誘い』
『ゴルフちょっといい話』

主な翻訳書

『駆逐艦キーリング』（セシル・スコット・フォレスター著）
『オール・ザット・ジャズ』（H・B・ギルモア著）
『原子力潜水艦、北へ』（ジョン・ボール著）
『赤い偽装船アントノフ』（アントニー・トルー著）
『海の豹を撃沈せよ』（ブライアン・キャリスン著）
『無頼船長トラップ』（ブライアン・キャリスン著）
* 『無頼船長の密謀船』（ブライアン・キャリスン著、伏見威蕃共訳）

三木鮎郎氏は、目まぐるしく変化する戦後のメディア環境において、常にその時代の最先端で活躍し続けた稀有な存在と言えます。ジャズという音楽ジャンルの普及からテレビの顔としてのお茶の間への浸透、そして晩年の文学翻訳に至るまで、彼の多岐にわたる知的な活動は、日本の文化史、特にメディア史に確かな足跡を刻んでいます。

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