中国の絵画

中国絵画：悠久の歴史と多様な表現様式

中国絵画は、数千年にわたる歴史と独自の美意識を誇る芸術です。本稿では、中国絵画の歴史的変遷、特徴的な表現技法、そして各時代を彩った代表的な画家とその作品について解説します。

中国絵画史の概観

中国の絵画は、新石器時代の彩文土器にその起源を見出せます。幾何学模様や人物、動物などの絵が描かれた土器は、初期の芸術表現として貴重なものです。その後、殷、周、春秋、戦国時代には青銅器や銅鏡の文様に絵画的表現が見られますが、独立した絵画作品が制作されるようになったのは秦漢時代からです。しかし、漢代の絵画作品は、墳墓から出土した帛画（絹絵）や画像石、画像磚などに限られ、多くの作品は失われています。

南北朝時代には、顧愷之（こがいし）のような著名な画家の名前が記録に残るようになりましたが、現存する作品は後世の模本ばかりです。唐代に至るまで、オリジナルの絵画は敦煌莫高窟などの石窟寺院の壁画や、墓室壁画などに限られています。中国絵画が脆弱な絹や紙に描かれていたこと、そして度重なる王朝交代や戦乱によって多くの作品が失われたことがその理由です。

中唐までは人物画や着色画が主流でしたが、それ以降は山水画や水墨画が主要なジャンルとなり、特に水墨山水画は文人（教養と道徳を備えた知識階級）に愛好され、文人画として確立しました。北宋時代以降、文人画は画壇の主流となり、明代の董其昌（とうきしょう）は、山水画を北宗画（職業画家系）と南宗画（文人画系）に分類し、文人画の優位性を主張しました。清代には、その粉本主義に反発し、独自の画風を追求する画家たちも現れました。

中国絵画の受容と伝統的絵画観

中国の絵画には独自の考え方が存在しました。張彦遠（ちょうげんえん）の『歴代名画記』は、その代表的な著作です。同書は、絵画を描く者の高潔な人品が作品に反映するという考え方を示し、絵画の機能を客観世界の形象の描写再現と捉えています。また、「詩画一如」「書画同源」という考え方も根強く、詩や書と絵画は密接な関係にあるとされました。しかし、絵画、書道、文学を同一視する伝統的絵画観には批判的な意見もあり、近代的な研究手法の導入が遅れた一因とも指摘されています。

中国絵画は周辺国にも影響を与え、特に日本では中国絵画が愛好されました。しかし、日本に伝来した作品は必ずしも中国絵画史の本流ではなく、特定の地域や作風に偏っているため、日本における中国絵画の受容は特異なものでした。

第二次世界大戦後、欧米でも中国絵画の研究が盛んになり、国際的な研究が進展しています。

中国における伝統的絵画観：絵画の効用と詩書画の一致

張彦遠は『歴代名画記』において、絵画には教化や人倫を助ける社会的効用があると述べています。また、中国では詩書画が密接に結びついており、「詩書画三絶」は文人の理想とされました。絵画の余白に詩や文章が書き込まれることも多く、西洋絵画とは異なる歴史的・文化的背景に基づいて制作・鑑賞されてきました。詩と絵画の類縁性を指摘する考え方は宋代に確立し、蘇軾（そしょく）は「詩中有画、画中有詩」と王維の詩画を評しました。一方で、絵画における「形似」の重要性も指摘されており、様々な議論がなされてきました。「書画同源」という考え方からも、書と絵画は密接な関係にあり、多くの画家が書にも通じていました。

「画の六法」と気韻生動

中国絵画では、「気韻生動」が重視されました。謝赫（しゃかく）の『古画品録』に記された「画の六法」は、後世の絵画制作や画論に大きな影響を与えました。「気韻生動」は生命力や人を感動させる力などを意味し、絵画制作における重要な要素とされました。六法の他の要素は、骨法用筆、応物象形、随類賦彩、経営位置、伝移模写であり、これらと「気韻生動」が一体となって優れた絵画が成り立つと考えられました。しかし、「気韻生動」の意味については、様々な解釈があります。

中国絵画の特質：西洋絵画との比較

中国絵画と西洋絵画は、空間や光の捉え方、表現方法において根本的な違いがあります。西洋絵画は透視図法や明暗法を基礎とするのに対し、中国絵画は複数の視点が共存したり、影を描かなかったり、固有色を用いたりするなど、独自の表現方法を持っていました。中国絵画は、自然をそのまま再現するのではなく、対象の本質を描くことを目指していました。人物画では「伝神」が重視され、人物の内面を表現することが重要とされました。

文人画と山水画

宋代以降、文人士大夫が中国文化をリードし、文人画が重要な位置を占めるようになりました。文人画は、山水画を主要なジャンルとし、水墨画を技法として用いることが多かったです。文人にとって山水画は、単なる風景画ではなく、理想郷の表現でした。中国山水画は自然の外観だけでなく、自然に内在する生命や調和も描写しており、中国人の人生観そのものを反映していると言えるでしょう。

中国絵画理解のための基本語彙

丹青、用筆と用墨、工筆画と写意画、白描、界画、鉤勒填彩、没骨、潑墨、破墨、焦墨、渲染、皴法（斧劈皴、披麻皴、雨点皴、折帯皴）、米点、点苔、擦筆、三遠法、花卉翎毛画、仕女図、折枝画、道釈画など、様々な専門用語とその意味を理解することは、中国絵画を深く理解するために重要です。

主要な画史・画論書

『古画品録』『歴代名画記』『唐朝名画録』『図画見聞誌』『画継』『宣和画譜』など、様々な画史・画論書が中国絵画の理解を深める上で役立ちます。

各時代の絵画

本稿では、先史時代から民国時代までの中国絵画を時代別に解説しました。各時代を代表する画家とその作品、そしてそれぞれの時代の画壇の動向を理解することで、中国絵画の豊かな歴史と多様な表現様式をより深く理解することができるでしょう。 それぞれの時代、画派、画家の詳細な解説は、本稿では紙面の都合上省略させていただきますが、それぞれの項目をキーワードに更なる調査を行うことをお勧めします。

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