中小坂鉄山

中小坂鉄山：日本の近代製鉄の黎明

中小坂鉄山は、群馬県甘楽郡下仁田町に位置し、上信電鉄下仁田駅から北西へ約2.5km、国道254号沿いに存在した鉄鉱山です。江戸時代末期に発見され、日本の近代製鉄の先駆けとして重要な役割を果たしました。近隣には近江山鉱区、春日田鉱区があり、一体として鉱山経営が進められました。

地質学的特徴

中小坂鉄山は、南蛇井層と平滑花崗岩の接点付近に位置します。南蛇井層はジュラ紀後期の海生層由来の付加体であり、平滑花崗岩は約6400万年前に貫入したマグマが固まったものです。磁鉄鉱を主体とする鉱床は、マグマの貫入が引き金になったと考えられていますが、詳しいメカニズムは未解明です。

江戸時代の中小坂鉄山

発見と開発の開始

中小坂鉄山の発見時期は諸説ありますが、嘉永年間（1848年-1854年）とする説が有力です。鉱山開発は、カベッチャラでのたたら製鉄から始まり、その後、字反替戸で本格的な製鉄が試みられましたが、経営の未熟さや設備の不備により失敗に終わりました。

水戸藩の反射炉と中小坂鉄山

幕末の緊張が高まる中、水戸藩は徳川斉昭のもとで反射炉を建設し、鉄製大砲の鋳造を目指しました。中小坂鉄山の鉄鉱石は、大島高任によって大砲鋳造に適していると鑑定され、那珂湊反射炉で使用されましたが、溶解がうまくいかず、大砲鋳造は成功しませんでした。その後、高炉建設の検討も行われましたが、水戸藩の財政難により実現しませんでした。

小栗忠順と中小坂鉄山

万延元年遣米使節として渡米した小栗忠順は、鉱工業の必要性を痛感し、横須賀造船所の鉄供給源として中小坂鉄山に注目しました。小栗らの建議により、溶鉱炉建設の見分が行われましたが、大政奉還により、幕府による建設は実現しませんでした。

明治初年の中小坂鉄山

明治維新後、中小坂鉄山は内藤建十郎らに開発が許可されましたが、経営権はすぐに譲渡されました。その後、経営者が度々変わり、明治4年（1871年）には洋式を模した溶鉱炉が完成し、製鉄を開始しましたが、経営は安定しませんでした。明治6年（1873年）には丹羽正庸に経営権が譲渡され、新たな発展を遂げることになります。

本格的な洋式設備による鉱山・製鉄所の誕生

丹羽正庸による経営開始と外国人技術者

丹羽正庸は、イギリス人技師エラスムス・H・M・ガールやジョセフ・ウォートルスらを招聘し、洋式高炉や蒸気機関などの近代的な製鉄設備を建設しました。明治8年（1875年）からはスウェーデン人高炉技師アドルフ・R・ベルギレンを雇い、当時の日本最先端の設備を備えた鉄山として稼動しました。

外国技術導入による製鉄所・鉱山設備

中小坂鉄山の鉱山施設と製鉄所は、効率的に設計されており、鉄鉱石の採掘から運搬、焙焼、高炉への装入まで、自然の地形を活かした省力化が図られていました。また、高炉で生産された銑鉄は、パドル炉で錬鉄とされ、鍛鉄や鋳造設備も完備されていました。

中小坂鉄山で生産された鉄は、海軍省や高崎製鉄造所などに販売され、高く評価されていました。しかし、世界恐慌の影響や外国からのダンピングにより、経営は悪化し、明治10年（1877年）に官営化されました。

官営時代とその後の中小坂鉄山

官営時代は、設備の改善や操業体制の見直しが行われましたが、耐火レンガの品質問題などにより経営は不振を極め、明治15年（1882年）に廃業となりました。その後、坂本弥八らに払い下げられましたが、経営は安定せず、明治42年（1909年）に廃業となりました。

昭和時代に入り、戦時体制下で採鉱が再開されましたが、第二次世界大戦末期の空襲により役割を終え、昭和36年（1961年）に閉山となりました。

中小坂鉄山の特徴

中小坂鉄山は、良質な磁鉄鉱を産出し、日本の近代化に貢献した鉄鉱山です。幕末期には水戸藩の反射炉の鉄供給地となり、小栗忠順が主導した溶鉱炉建設計画の予定地となりました。明治時代初期には、民間資本によって最先端の製鉄設備を備えた鉄鉱山となり、日本の産業史、鉱工業技術史に大きな足跡を残しました。

中小坂鉄山の産業遺産は、経済産業省の「近代化産業遺産群 続33」に認定されています。

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