中村彦次

中村彦次：明治を駆け抜けた教育者・政治家の生涯

中村彦次（なかむら ひこじ）は、1840年（天保11年）に生まれ、1911年（明治44年）に没した、明治時代の教育者であり政治家です。彼は衆議院議員、そして官選の島根県知事として、激動の時代を生き抜きました。幼名は庸、字は和叔、号を桐蔭と称し、旧姓は鶴田でした。

生い立ちと教育

中村彦次は、筑後国上妻郡前津村（現在の福岡県筑後市前津）で、庄屋・鶴田良右衛門の二男として生を受けました。地元の私塾・継志堂で学んだ後、安政4年（1857年）には師である牛島栗斎に随行し、8ヶ月にわたり山陽から奥羽までを遊歴し、広い見識を養いました。その後、広瀬淡窓が開いた咸宜園でさらに学問を深めました。

国事に奔走、そして投獄

王政復古後、中村彦次は国事に奔走する中で、久留米藩に逃れてきた大楽源太郎に同調しました。しかし、この行動が原因となり、久留米藩難事件に連座、明治4年（1871年）に禁獄一年の刑を受け、名古屋の監獄に収監されることになりました。不遇な時期を経験しながらも、彼はその信念を曲げることはありませんでした。

教育者、そして政治家への道

出獄後、中村彦次は故郷に戻り、教育者としての道を歩み始めます。1875年4月から1877年12月まで羽犬塚小学校長を務め、地域の教育に尽力しました。さらに、有志とともに山内村（現八女市山内）に変則中学中洲校を創立するなど、教育への熱意を示しました。1878年10月には郡書記に就任、その後、1887年12月に上妻・下妻郡長、1889年2月には生葉・竹野郡長へと転じ、行政官としてもその手腕を発揮しました。

国政への挑戦

1890年7月、中村彦次は第1回衆議院議員総選挙に福岡県第5区から出馬しますが、惜しくも落選します。しかし、1892年2月の第2回総選挙で当選を果たし、それまで務めていた生葉・竹野郡長を辞任。その後、1894年9月の第4回総選挙でも当選し、衆議院議員として二期を務めました。国政の場では、地方行政で培った経験と知識を生かし、民意を代表する議員として活動しました。

島根県知事として

1897年4月7日、中村彦次は島根県知事に就任します。在任中には、教育振興に力を注ぎ、簸川尋常中学校を設立するなど、地域教育の発展に貢献しました。しかし、1898年4月2日に知事を非職となり、同年12月14日には依願免本官となり、官界を退きました。

晩年と栄典

中村彦次は、教育者、政治家として多岐にわたる分野で活躍し、その功績が認められ、1897年（明治30年）5月31日に正五位の位階を授与されました。

親族

中村彦次の長男である中村雄蔵も衆議院議員として活躍しました。次男の中村秀次郎は、北京・筑紫洋行（筑紫弁館）の留守居役を務め、義和団の乱の北京籠城戦で義勇兵として戦い、1900年（明治33年）に戦死しました。また、孫の増永元也も衆議院議員を務め、玄洋社の社員としても活動しました。

参考文献

歴代知事編纂会編『新編日本の歴代知事』歴代知事編纂会、1991年。
衆議院・参議院『議会制度百年史 - 衆議院議員名鑑』大蔵省印刷局、1990年。
秦郁彦編『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』東京大学出版会、2001年。
筑後市史編さん委員会編『筑後市史』第二巻、筑後市、1995年。
島根県編『府県制の沿革と県政の回顧』島根県、1940年。
福岡県八女郡編『稿本八女郡史』福岡県八女郡、1917年。
* 古賀幸雄監修『目で見る久留米・筑後・八女の100年』郷土出版社、2001年。

もう一度検索