丸屋甚八

丸屋甚八：江戸時代の出版文化を彩った版元

丸屋甚八は、江戸時代後期から明治時代初期にかけて活躍した、版元として知られる人物です。地本問屋と団扇問屋を営み、数多くの浮世絵師の作品を世に送り出したことで知られています。

円寿堂、丸甚と号した版元としての生涯

宝暦年間から明治時代にかけて、彼は版元として活躍しました。営業場所は、当初は通油町にありましたが、後に芝三島町、大伝馬町、芝神明前へと移転しています。

丸屋甚八は、地本草紙問屋元組（古組）に属する版元として、江戸時代後期の出版業界において重要な役割を担っていました。地本問屋の事業に加え、団扇問屋も営んでおり、多角的な事業展開を行っていたことがわかります。

著名な浮世絵師たちとの関わり

彼の出版した作品は多岐に渡り、浮世絵史上に名を残す多くの著名な絵師の作品が含まれています。

初期には鳥居清満の紅摺絵を出版し、その後は鈴木春信、勝川春章、喜多川歌麿といった、江戸時代中期から後期の浮世絵を代表する絵師たちの作品を次々と世に送り出しました。

さらに、歌川豊国、胡蝶園春升、歌川広重、歌川国貞、歌川貞秀、歌川芳員、菊川英山、渓斎英泉、月岡芳年、そして木藤年延といった、多様な画風を持つ絵師たちの作品も出版しています。

これらの作品は、錦絵、絵本、団扇絵など、多様なジャンルに及びます。彼の版元としての活動は、単に作品を出版するだけでなく、当時の流行や文化を反映した幅広いジャンルの作品を世に提供していたことを示しています。

文学作品への貢献

文化・文政期には、山東京伝や山東京山といった、当時人気を博した作家たちの作品も多数刊行しました。これは、彼の版元としての活動が浮世絵だけでなく、当時の大衆文学にも及んでいたことを示す重要な証左です。

後継者と河原崎座との関係

嘉永6年（1853年）10月、丸屋甚八は養子である忠助に家業を相続させました。彼の版元としての事業は、忠助によって引き継がれ、さらに発展していったと考えられます。

興味深いことに、彼は河原崎座芝居番付の版元も兼ねていたとされており、歌舞伎という当時の大衆芸能とも深く関わっていたことがわかります。

出版作品一覧

以下に、丸屋甚八が出版した作品の一部を挙げます。

鳥居清満：『瀬川菊之丞の化粧坂の少将』（細判紅摺絵）
鈴木春信：『絵本青楼美人合』（絵本）、『見立三夕』（錦絵）
勝川春章：『二世嵐三五郎の頼朝と二世瀬川菊之丞の雪女と九世市村羽左衛門の梶原』（錦絵）
喜多川歌麿：『油屋お染が相』『当時遊君生写』（錦絵）
歌川豊国：『役者十二つき』『初夢』（錦絵）
胡蝶園春升：『赤羽根の風景』（錦絵）
歌川広重：『名所雪月花』『花鳥画』『隅田川雪中図』『江戸名所三ツの眺』（錦絵）、『相州鎌倉七里のはま』『仁木弾正と荒獅子男之介の見立猿廻し』『三保松原図』（団扇絵）
歌川国貞：『名筆浮世絵かかみ』
菊川英山：『風流発句五節句』
渓斎英泉：『江戸名所仇競』
歌川芳員：『異人屋敷料理之図』（錦絵）
歌川貞秀：『再改横浜風景』（錦絵）
* 月岡芳年・木藤年延：『高縄鉄道之図』（錦絵）

これらの作品は、現在でも多くの美術館や個人コレクターによって所蔵されており、江戸時代の浮世絵文化を代表する貴重な資料となっています。

まとめ

丸屋甚八は、単なる版元という枠を超え、江戸時代の出版文化を牽引した重要な存在でした。彼の出版活動は、浮世絵や大衆文学の発展に大きく貢献し、現代にまで続く日本の文化遺産に多大な影響を与えました。彼の生涯と作品は、江戸時代の文化を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

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