丹生川上神社

丹生川上神社（にうかわかみじんじゃ）

奈良県吉野郡東吉野村に鎮座する丹生川上神社は、古くから雨乞いと止雨の神として知られ、その歴史は古代にまで遡ります。式内社（名神大社）、二十二社（下八社）の一社であり、旧社格は官幣大社、現在は神社本庁の別表神社です。

社名の由来

古くは「雨師明神」と称され、江戸時代からは「蟻通明神」とも呼ばれていました。大正時代以降、吉野郡川上村の丹生川上神社上社、同下市町の丹生川上神社下社に対し、「丹生川上神社中社」とも呼ばれるようになりました。これは、上下の2社が存在したため便宜的に「中」としたもので、位置関係や社格の上下を表すものではありません。

祭神

本殿、東殿、西殿の三殿に、以下の神々が祀られています。

本殿：罔象女神（みずはのめのかみ）。相殿に伊邪奈岐命、伊邪奈美命
東殿：大日孁貴命（おおひるめむちのみこと）、八意思兼命（やごころおもいかねのみこと）、誉田別命（ほむたわけのみこと）
西殿：開化天皇、上筒男神（うわつつおのかみ）、大国主命（おおくにぬしのみこと）、事代主命（ことしろぬしのみこと）、綿津見神（わたつみのかみ）、菅原道真公

六国史には「丹生川上神」と地名で記され、具体的な神名は見られません。古来より朝廷による雨乞い、止雨の祈願が頻繁に行われており、雨を司る水神として、記紀神話の罔象女神や龗神が祀られるようになりました。平安時代初め頃から「雨師神」とも称されるようになり、これは古代中国の雨乞いの神に由来します。

祈雨の際には黒馬、止雨の際には白馬（または青馬）が奉献される習慣がありましたが、これは馬を水神と密接な動物と見る観念に基づいています。

現在の祭神は、大正11年（1922年）にそれまでの「大穴貴神、表筒男命、伊邪奈伎命」から変更されました。

歴史

社伝によれば、この地は神武天皇が東征の際、天神の教示により天神地祇を祀り、戦勝を占った場所とされています。神武天皇は天香具山の土で作った平瓮と厳瓮を川に沈めさせ、椎根津彥に川魚の様子を観察させ、丹（水銀）の鉱脈があることを知りました。その後、500の真榊で諸神を祀り、国を平定したと伝えられています。

白鳳4年（675年）に罔象女神が御手洗川（高見川）南岸の現摂社丹生神社の地に奉斎され、その後現在地に遷座したとされています。寛平7年（895年）の太政官符には、神託により人声の聞こえない深山で祀れば、天下のために甘雨を降らし霖雨を止めることができるとされたと記されています。

また、『二十二社注式』には、天武天皇の時代に垂迹し、大和神社の別宮になったとあり、吉野と縁の深かった同天皇によって創祀されたと考えられています。

古来より大和神社の別社として、雨乞い、雨止めの霊験あらたかな雨師神として朝廷から重んじられ、763年から応仁の乱の頃まで96度も奉幣祈願が行われました。律令制時代を通じて祈雨神祭祭神に預かり、貴布禰社とともに奉幣されました。

『延喜式神名帳』では官幣大社（名神大社）に列格され、朝廷からの厚い崇敬は変わらず、二十二社の一社にもなりました。しかし、次第に衰退し、応仁の乱以降は所在すら不明となりました。中世以降、たびたび造改築が行われ、慶安3年（1650年）の上梁文には、当初の鎮座地に丹生神社を新造し、本社を「蟻通明神」と改称した旨が記されています。

近世以降、『神名帳』の研究が盛んになり、まず丹生川上神社下社が式内大社に比定されました。明治に入って上社が比定されましたが、大正4年（1915年）に森口奈良吉が当神社が式内丹生川上神社であることを考証しました。これにより、同11年に社名を「蟻通神社」から「丹生川上神社」に改称し、上下2社に対して「中社」を称するようになり、3社を合わせて「官幣大社丹生川上神社」として社務所が置かれました。

第二次世界大戦後の官制廃止に伴い、昭和27年（1952年）に3社はそれぞれ独立し、当神社は現在、神社本庁の別表神社となっています。

神階

弘仁9年（818年）に従五位下が授けられ、その後、正五位下、従四位下、正四位下、従三位、正三位へと昇進しました。『大倭神社注進状』には、寛平9年（897年）に従二位へ昇ったと記されています。

祀官

中世から安土桃山時代まで、小川氏が神主職を世襲し、別当寺院として金剛峯寺末寺の摩尼山大乗院が奉仕しました。小川氏は当地一帯の領主と宇陀郡雨師荘の荘官を兼ね、在地領主として勢力を誇りましたが、天正6年（1578年）に筒井順慶に屈してから衰退し、同15年（1587年）に断絶しました。江戸時代を通じて大乗院が専管しましたが、これも明治5年に廃止されました。

境内

拝殿：文政12年（1829）より天保元年（1830）にかけて建立された入母屋造の建物です。
東殿・西殿：文政11年（1828）から約12年かけて建立された桧皮葺の流造の建物です。それぞれ3つの社が連結され、一体の屋根がかかっています。
本殿：文政11年（1828）から約12年かけて建立された桧皮葺の流造の建物です。南向きに建てられ、左右に東殿と西殿が配置されています。
石灯籠：国指定重要文化財であり、東殿前に位置します。弘長4年（1264年）に伊行吉によって造られたことが刻銘されています。
叶えの大杉：樹齢約1000年、樹高51.5mの大杉で、幹に両手を当て心願を唱えるとご利益があるとされています。
なでフクロウ：叶えの大杉に住み着いたフクロウを模した彫刻で、なでるとご利益があるとされています。
相生の杉：樹齢約800年の夫婦杉と呼ばれる2本の大杉です。
真名井：本殿裏手から湧き出る御神水で、主祭神である罔象女神（水の神）のご利益があるとされています。
茶室「甘雨」：1969年（昭和44年）に竣工した社務所に隣接する茶室です。
吉野離宮址：丹生川上神社の神域地が吉野離宮跡であるという説があり、顕彰碑が建てられています。
爺婆石：西参道入口の鳥居脇にある夫婦石です。
神武天皇聖蹟碑：神武天皇が東征の際に立ち寄ったとされる場所に建てられた碑です。
夢淵：高見川、日裏川、四郷川の3つの川が合流する深い淵で、神武天皇が戦勝祈願をした場所と伝えられています。
東（ひむかし）の瀧：「秋津野の瀧」、「龍神の瀧」とも呼ばれ、龍神が棲むと伝えられています。

摂末社

摂社 丹生神社：祭神は弥都波能売命で、旧社地に鎮座しています。「本宮」とも呼ばれています。
末社 東照宮神社：祭神は徳川家康公です。
末社 水神社：祭神は高龗神、闇龗神です。
末社 木霊神社：祭神は五十猛命です。

年中行事

1月16日：末社水神社祭
4月16日：末社木霊神社例祭
4月17日：末社東照宮例祭
6月4日：水神祭
7月16日：摂社丹生神社例祭
10月第2日曜日：小川まつり（太鼓台奉舁安全祈願祭）
10月16日：例祭

文化財

重要文化財（国指定）：石灯籠
天然記念物（国指定）：丹生川上中社のツルマンリョウ自生地
奈良県指定文化財：木造罔象女神坐像など20躯

現地情報

所在地：奈良県吉野郡東吉野村大字小968
* 交通アクセス：近鉄大阪線榛原駅から奈良交通バス「東吉野村役場行」に乗車し、「東吉野村役場」で下車。その後、東吉野村コミュニティバス「四郷方面」に乗車し、「蟻通」で下車。

脚注

（参考文献、関連項目、外部リンクは省略）

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