五弓久文

五弓久文（ごきゅう ひさふみ）

五弓久文は、文政6年1月24日（1823年3月6日）に生まれ、明治19年（1886年）1月17日に没した、江戸時代末期から明治時代初期にかけての国学者、歴史学者、教育者です。備後国芦田郡府中市村（現在の広島県府中市）の出身で、名は久文、字は士憲・子憲、通称は豊太郎、雅号は雪窓（せっそう）などを用いました。

生い立ちと学問

代々神職を務める家に生まれましたが、家督を弟に譲り、自身は儒学者として一家を構えました。学問の中でも特に史学を深く探求し、『事実文編』や『三備史略』など、数多くの著作を世に残しました。その学問への情熱は、後世に多大な影響を与えています。

教育者としての側面

五弓久文は、教育者としても卓越した才能を発揮しました。福山藩校誠之館や、自らが設立した分校である府中郷学で教鞭を執り、多くの若者を育成しました。府中郷学が小学校として移管された後も、家塾晩香館を開き、地域の子どもたちの教育に尽力しました。晩香館からは、後に社会で活躍する多くの人材が輩出されました。

年譜

1823年（文政6年）: 備後国芦田郡府中市村で生まれる。
1834年（天保5年）: 失明した父に代わり神事を始める。
1838年（天保9年）: 大坂に遊学し、後藤松陰、広瀬旭荘の塾に入門。
1841年（天保12年）: 江戸で斎藤拙堂に学び、昌平坂学問所（昌平黌）で依田匠里より朱子学を学ぶ。
1845年（弘化2年）: 一時帰国し、伊勢で斎藤拙堂に、大阪で篠崎小竹に謁見。
1847年（弘化4年）: 林培斎、林復斎の塾で学ぶ。下総国飯沼弘経寺で生徒を教授。
1856年（安政3年）: 病のため帰国。
1863年（文久3年）: 福山藩に出仕し、藩学誠之館教授を拝命。
1867年（慶応3年）: 窮民を救恤。
1868年（明治元年）: 福山藩より神社取調を拝命。
1869年（明治2年）: 藩学誠之館の分校府中郷学を設け、教授を拝命。
1872年（明治5年）: 家塾晩香館を開講。小田県郷社甘南備神社祠官を拝命。
1874年（明治7年）: 文部省史官を拝命。太政官修史局に奉職。
1875年（明治8年）: 修史局御用掛に奉職。三等協修。
1881年（明治14年）: 『事実文編』を完成。
1886年（明治19年）: 病没。
1928年（昭和3年）: 従五位を追贈。

五弓家の家系

五弓家の祖先は藤原氏で、元々は「石岡」を氏としていました。禁中で弓の製作に関わる「御弓師」を務めたことから、「御」を同音の「五」に変え、五弓と名乗るようになったと伝えられています。弘仁4年（813年）には近江国の日吉神社の分霊を奉り、備後国芦田郡本山村に移住し、その後府中市村に移り、羽中八幡宮に代々奉仕しました。

学びの道

幼少の頃より漢文を学び、木村楓窓に句読を学びました。備中笠岡の小寺清之に国学を学んだ後、13歳で父の失明を機に神事を代行。17歳で大坂へ遊学し、後藤松陰、広瀬旭荘の塾で学びました。その後、江戸で斎藤拙堂に師事し、昌平坂学問所では依田匠里に朱子学を学びました。伊勢で斎藤拙堂に、大阪で篠崎小竹に謁見し、その際に「事実文編」の手稿を示したところ、両師から序文を寄せられました。林培斎、林復斎の塾を経て、重野安繹や鷲津毅堂とも交流し、下総国飯沼弘経寺で生徒を教授しました。

官僚としての活動

『事実文編』編纂の功により福山藩に招かれ、藩学誠之館の教授となりました。その後、神社取調掛、府中郷学の教授を歴任しました。廃藩置県後は甘南備神社の祠官を務め、文部省史官、太政官修史局、修史局御用掛、三等協修を歴任しました。

救済活動

慶応3年の旱魃と蝗害による飢饉の際、五弓久文は府中市村の富豪を説得し、貧民救済のための資金を集めました。その結果、多くの人々が飢餓から救われました。

教育・文化への貢献

1869年（明治2年）に誠之館の分校として府中郷学が開設されると、その教授に就任。1872年（明治5年）には家塾晩香館を開き、中等教育機関のなかった地域において、多くの若者を育成しました。晩香館は遠方からも生徒が集まるほどの評判となり、卒業生は各界で活躍しました。また、羽中八幡文庫を設立し、書籍を一般に公開することで、地域の文化発展に貢献しました。

著書

事実文編: 日本近世伝記資料を集成した大著。
三備史略: 吉備国に関する記事を集大成した歴史書。
蕉陰茗話: 随筆集。
文恭公実録: 十一代将軍徳川家斉の伝記資料を集成。
白川楽翁公行実: 松平定信の行実を集成。

没後

五弓久文の功績を称え、1928年（昭和3年）に従五位が追贈されました。墓碑は府中市立東小学校校庭に建てられ、現在もその功績を偲ぶことができます。

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