交響曲第1番 (ブライアン)

交響曲第1番 ニ短調『ゴシック』

ハヴァーガル・ブライアンが1919年から1927年にかけて作曲した交響曲第1番『ゴシック』は、その規模と演奏時間において特筆すべき作品です。当初は『幻想交響曲』を第1番としていましたが、後に『ゴシック』が繰り上げられ、初版スコアでは「交響曲第2番」と表記されました。

作曲の経緯

ブライアンは1928年にアメリカの作曲コンクールに応募しましたが、入賞は逃しました。しかし、この作品はリヒャルト・シュトラウスに献呈されています。

初演

完成から33年後の1961年にアマチュアオーケストラによって初演され、さらに5年後の1966年にはプロオーケストラによる初演が行われました。初演の実現には長い年月を要しましたが、その壮大な音楽は人々に衝撃を与えました。

「史上最大、最長の交響曲」

『ゴシック』は、クラシック音楽における最長かつ最大編成の交響曲として知られています。オーケストラは8管編成という大規模なもので、演奏時間は約106分にも及びます。ベルリオーズの『葬送と勝利の大交響曲』も大編成ですが、弦楽合奏が任意であるため、『ゴシック』が最大編成の交響曲とされています。また、リチャード・ロジャースの『海での勝利』は13時間と非常に長いですが、編曲作品であるため、『ゴシック』が「常識的な」作品として最長とされています。

編成

声楽

ソプラノ、アルト、テノール、バスの各ソリスト、児童合唱、混声合唱2組。

オーケストラ

8管編成で、多数の木管楽器、金管楽器、打楽器、ハープ、オルガン、チェレスタ、弦楽器、そしてオフ・ステージのバンダが含まれます。総勢約190人のオーケストラと約600人の合唱団、ソリストを合わせると、総勢約800人もの大編成となります。

詳細な編成

木管楽器: ピッコロ2（フルート持ち替え1）、フルート6（アルトフルート持ち替え1）、オーボエ6（オーボエ・ダモーレ持ち替え1、バス・オーボエ持ち替え1）、イングリッシュホルン2、E♭管クラリネット2（B♭管持ち替え1）、B♭管クラリネット4、バセットホルン2、バス・クラリネット2、コントラバス・クラリネット、ファゴット3、コントラファゴット2
金管楽器: ホルン8、E♭管コルネット2、F管トランペット4、バス・トランペット、テナー・トロンボーン3、バス・トロンボーン、コントラバス・トロンボーン、ユーフォニアム2、テューバ2
打楽器: ティンパニ（3台のセット）2、グロッケンシュピール、シロフォン、バス・ドラム2、サイド・ドラム3、ロング・ドラム、タンバリン2、シンバル6、銅鑼、サンダー・マシーン、チューブラーベル、チャイム、鎖、トライアングル2、鳴子
その他: ハープ2部、オルガン、チェレスタ
弦楽器: 第1ヴァイオリン20、第2ヴァイオリン20、ヴィオラ16、チェロ14、コントラバス12
オフ・ステージのバンダ: ホルン2、トランペット2、テナー・トロンボーン2、テューバ2、ティンパニ（3台セット）の編成によるものが4組

作品の内容

全6楽章で構成され、第1〜3楽章はオーケストラのみ、第4〜6楽章は合唱とソリストが加わります。第1部ではゲーテの『ファウスト』の世界観が、第2部ではテ・デウムのテキストが用いられています。

各楽章の構成

第1楽章 Allegro assai: ニ短調で始まり、トランペットの咆哮が印象的な楽章です。静かなヴァイオリン・ソロとハープの伴奏が美しい旋律を奏でます。
第2楽章 Lento espressivo e solenne: 静かなティンパニの打撃で始まる葬送行進曲です。悲痛な旋律と諧謔的な部分が交錯し、圧倒的なコラールで頂点を迎えます。
第3楽章 Vivace: ティンパニの打撃で始まり、弦楽器のさざ波が特徴的な楽章です。舞曲風の部分と悪魔的な舞曲が展開され、静かなファンファーレで終わります。
第4楽章 Te Deum laudamus: Allegro moderato: 合唱が加わり、立体的な響きが特徴的な楽章です。無伴奏の合唱やソリストの四重唱、オーケストラと合唱の壮大な響きが聴きどころです。
第5楽章 Judex:Adagio molto solenne e religioso: 女声合唱が厳粛に歌い始め、不協和音が効果的に用いられています。ソプラノ・ソロのヴォカリーズや男声合唱の重苦しい響きが印象的です。
第6楽章 Te ergo quaesumus: Moderato e molto sostenuto: オーボエ・ダモーレが静かに歌い始め、テノール・ソロが続く楽章です。児童合唱やオルガンの響き、典礼的な性格が強く、最後は無伴奏の合唱で静かに終わります。

録音

これまでに3つの正式な録音が存在します。

オンドレイ・レナールト指揮: スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団などによる録音。近年ナクソスから再発売され、入手しやすくなりました。
エイドリアン・ボールト指揮: BBC交響楽団などによるプロ初演のライブ録音。楽器のパートごとの録音よりもまとまりがあるとして、決定版とする人もいます。
* マーティン・ブラビンズ指揮: BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団などによるライブ録音。2011年に発売されました。

楽譜

ペトルッチ楽譜ライブラリーからフルスコアが入手可能です。

『ゴシック』は、その巨大な規模と複雑な音楽構成から、演奏される機会は限られていますが、一度聴けば忘れられない圧倒的な存在感を放つ作品です。

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