交響曲第14番 (ショスタコーヴィチ)

交響曲第14番 ト短調 作品135

ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲した交響曲第14番は、彼の創作活動の中でも特異な位置を占める作品です。調性が曖昧な部分があるものの、全体としてはト短調の雰囲気が感じられます。全11楽章から構成され、ソプラノとバスの独唱が加わる点が特徴です。この構成はマーラーの交響曲『大地の歌』との類似性が指摘されています。

概要

歌詞には、ガルシア・ロルカ、ギヨーム・アポリネール、ヴィリゲリム・キュヘルベケル、ライナー・マリア・リルケといった詩人たちの、いずれも「死」をテーマにした詩が用いられています。初版では、キュヘルベケルの詩による第9楽章を除き、全てロシア語訳で歌われましたが、後の改訂で原詩の言語に再翻訳されました。しかし、細部では原詩と異なる部分も存在します。CDなどでは原詩が用いられることが多い一方、楽譜とは異なる場合があるため、注意が必要です。

この作品には、無調、十二音技法、トーンクラスターといった、当時のソビエトでは敬遠されていた前衛的な技法が、ショスタコーヴィチ独自の解釈で用いられています。また、マーラー、ムソルグスキー、ブリテンなど、ショスタコーヴィチが敬愛した作曲家からの影響も感じられます。楽器編成は、弦楽合奏と打楽器のみという特殊な構成で、打楽器は各楽章で使い分けられています。この曲はブリテンに献呈され、1970年にブリテン自身によって英国初演が行われました。

初演

1969年9月29日、ルドルフ・バルシャイ指揮、モスクワ室内管弦楽団により初演されました。ソプラノはマルガリータ・ミロシニコワ、バスはエフゲニー・ウラジミロフが務めました。

この曲の作曲のきっかけは、ショスタコーヴィチが1962年に『死の歌と踊り』を管弦楽用に編曲したことにあります。体調が悪化し死を意識するようになったショスタコーヴィチは、この作品を自身の集大成と捉え、入院中にもかかわらず、わずか4週間でスケッチを完成させました。彼は「この作品は画期的なもので、数年間の作品はこのための下準備だった」と知人に語っています。初演前の1969年6月21日には、ショスタコーヴィチ自身の強い希望で、モスクワ音楽院小ホールでリハーサルが行われました。

リハーサルでショスタコーヴィチは「人生は一度しかない。だから私たちは誠実に、胸を張って生きるべきだ」と述べています。しかし、その場に同席していた共産党幹部のパーヴェル・アポストロフが心臓発作で倒れ、その後亡くなるという出来事がありました。かつてアポストロフがジダーノフ批判でショスタコーヴィチを窮地に追い込んだ過去を知る人々は、この出来事を「作品の祟り」だと噂しました。初演では当初、ガリーナ・ヴィシネフスカヤがソプラノを務める予定でしたが、スケジュールの都合でミロシニコワが起用されました。これに怒ったヴィシネフスカヤとミロシニコワの関係は一時悪化しましたが、バルシャイの仲介により、初演の1週間後に行われたモスクワ初演ではヴィシネフスカヤがソプラノを務めることで解決しました。

曲の構成

演奏時間は約50分です。

第1楽章「深いところから」Adagio
バス独唱と弦楽合奏。ロルカの詩が用いられています。主題の冒頭はディエス・イレを模したものとされ、第10楽章で再び現れます。
第2楽章「マラゲーニャ」Allegretto
ソプラノ独唱、ヴァイオリン独奏、カスタネット、弦楽合奏。ロルカの詩による。
第3楽章「ローレライ」Allegro molto - Adagio
二重唱、鞭、ベル、ヴァイブラフォン、シロフォン、チェレスタ、弦楽合奏。アポリネールの詩による。
第4楽章「自殺者」Adagio
ソプラノ独唱、チェロ独奏、弦楽合奏。アポリネールの詩による。
第5楽章「心して」Allegretto
ソプラノ独唱、トムトム、鞭、シロフォン、弦楽合奏。アポリネールの詩による。兵士とその姉妹の近親相姦をテーマとしています。冒頭のシロフォンは、十二音技法を用いた音列を奏でます。
第6楽章「マダム、御覧なさい」Adagio
二重唱、シロフォン、弦楽合奏。アポリネールの詩による。
第7楽章「ラ・サンテ監獄にて」Adagio
バス独唱、弦楽合奏。アポリネールの詩による。
第8楽章「コンスタンチノープルのサルタンへのザポロージェ・コサックの返事」Allegro
バス独唱、弦楽合奏。アポリネールの詩による。イリヤ・レーピンの絵画『トルコのスルタンへの手紙を書くザポロージャ・コサック』に取材した詩です。
第9楽章「おお、デルウィーク、デルウィーク」Andante
バス独唱、弦楽合奏。キュッヘルベケルの詩による。
第10楽章「詩人の死」Largo
ソプラノ独唱、ヴァイブラフォン、弦楽合奏。リルケの詩による。
第11楽章「結び」Moderato
二重唱、カスタネット、トムトム、弦楽合奏。リルケの詩による。人生の結びである死を賛美しています。最後はヴァイオリンが10パートに分かれ、激しい不協和音を奏でます。

楽器編成

独唱: ソプラノ、バス
打楽器: カスタネット、ウッドブロック、トムトム、鞭、ベル、ヴァイブラフォン、シロフォン、チェレスタ
* 弦楽器: ヴァイオリン10、ヴィオラ3、チェロ3、コントラバス2

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