享禄・天文の乱

享禄・天文の乱：戦国時代を揺るがした本願寺の動乱

享禄・天文の乱は、戦国時代初期(16世紀前半)における浄土真宗本願寺における内紛と、それが引き金となって発生した大規模な戦争を指します。享禄4年（1531年）の「享禄の錯乱」(大小一揆とも)と、天文元年（1532年）から天文4年（1535年）にかけて発生した「天文の錯乱」(天文の乱とも)の2つの大きな出来事から構成されています。これらの出来事をまとめて「享禄・天文の乱」と呼ぶことの是非については議論がありますが、いずれも本願寺10世証如とその後見人である蓮淳による教団改革が背景にあります。なお、天文の乱は日蓮宗における「天文法華の乱」とも重なります。

蓮如の時代：拡大と摩擦

8世蓮如は、北陸地方や畿内において多くの国人や農民を信者として獲得し、本願寺を独立した宗教勢力へと成長させました。しかし、その一方で、守護大名や荘園領主、既存の仏教宗派や寺院との摩擦も生じました。蓮如は平和主義を説きつつも、教団を守るために一向[[一揆]]を組織し、世俗の権力者との複雑な連携を余儀なくされました。

特に加賀では、蓮如自身が一向[[一揆]]と共に富樫氏の内紛に関与し、後に教団を弾圧しようとした富樫政親を倒す事態に発展しました（加賀一向[[一揆]]）。この出来事は、本願寺が反体制的な存在と見なされる危険性を孕んでいました。室町幕府9代将軍足利義尚は本願寺討伐を検討しましたが、管領細川政元の反対や義尚の急死により、討伐は中止されました。その後、加賀では一向[[一揆]]が実質的な支配権を握ることになりました。

蓮如は、長男順如の死後、後継者として5男実如に山科本願寺法主の地位を譲り、自身は摂津石山御坊へ退きました。実如は、加賀を放棄することは、延暦寺への従属と親鸞の教義の放棄を意味すると考え、既存勢力との協調路線を模索しました。

実如の時代：改革と対立

蓮如の死後、一族間の不協和音が表面化するようになります。永正2年（1505年）、細川政元に対抗するため、畠山氏、朝倉氏など周辺の有力守護大名らが軍事行動を開始しました。実如は北陸・畿内の信徒を動員し、畠山氏の領国である河内へ侵攻を命じましたが、蓮如の最後の妻蓮能（畠山氏出身）はこれに反発し、実賢を擁立して法主交代を求めました。実如は実賢らを逮捕・追放しました（河内国錯乱）。

越前では朝倉氏に敗れ、吉崎御坊を破壊されました。畠山氏との戦いでも決定的な勝利を得られず、永正4年（1507年）、細川政元が暗殺されると、実如は近江へ逃亡しました。

政元の死を機に、実如は教団改革に着手しました。蓮如の「御文」を編集し、武装・合戦、派閥・徒党、年貢不払いの禁止などを定めました（三法令）。また、新しい寺の建設禁止、寺号付与権の本願寺集中、一門一家制の制定などを行い、教団の統制強化を図りました。しかし、これらの改革は末寺・門徒からの反発も招きました。

実如の死後、後継者となった証如を蓮淳が後見することになり、これが後の享禄・天文の乱へと繋がっていきます。

享禄の錯乱（大小一揆）：内紛と抗争

蓮淳は、外孫である証如の権力拡大、ひいては自身の権力拡大を目指し、まず堅田本福寺を標的にしました。享禄4年（1531年）、賀州三ヶ寺（松岡寺、光教寺、本泉寺）と超勝寺との対立が激化し、内紛は一向[[一揆]]同士の戦いに発展しました（大小一揆）。この内紛で、賀州三ヶ寺は壊滅的な打撃を受け、本願寺法主を中心とした支配体制が確立されました。

天文の錯乱：本願寺と周辺勢力の全面対決

享禄の錯乱の最中、細川晴元への協力を得た蓮淳は、畠山義堯と三好元長を攻撃しました。これにより、本願寺門徒による大規模な一向[[一揆]]が発生し、畠山義堯、三好元長は討ち取られました。しかし、一向[[一揆]]は拡大し、興福寺や春日大社なども攻撃しました。

晴元は本願寺と決別し、法華一揆と連携して本願寺を攻撃、山科本願寺は落城しました。証如は石山本願寺に移転し、その後、晴元と和睦を繰り返しながらも、激しい戦闘が続きました。天文4年（1535年）には本願寺は大きな敗北を喫しましたが、最終的に和議が成立しました。

まとめ

享禄・天文の乱は、本願寺の教団改革、内部抗争、そして周辺勢力との抗争が複雑に絡み合った、戦国時代初期の重要な出来事でした。この乱は、本願寺の勢力拡大と、その後の石山本願寺を中心とした教団の確立に大きな影響を与えました。また、この乱を通して、一向[[一揆]]が戦国時代の大きな軍事力となることを示した点も重要です。この後、本願寺は石山本願寺を拠点に、戦国時代の中核勢力として大きな影響力を持ち続けることになります。

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