人事労務管理

人事労務管理とは

人事労務管理は、企業などの組織が従業員に対して行う一連の管理活動を指し、経営管理における重要な領域の一つです。これは単に「人事管理」や「労務管理」と呼ばれることもありますが、文脈によって指す範囲が異なる場合があります。近年では、特に米国で発展した「人的資源管理（Human Resource Management, HRM）」の考え方が導入され、「人材マネジメント」とも呼ばれ、従業員を単なるコストではなく、組織の成長に不可欠な「資源」として捉える視点が強調されています。

人事労務管理の体系

人事労務管理の機能は多岐にわたりますが、大きく二つの柱に分けられます。

1. 人事管理: 労働力の効率的な使用に重点を置く管理活動です。具体的には、以下の要素が含まれます。
雇用管理（採用、配置、職務分析、人事考課など）：組織に必要な人材を確保し、能力を最大限に活かせるよう配置します。
作業管理（時間研究、動作研究、職務再設計など）：業務効率の向上を目指します。
時間管理（労働時間制度、休暇制度など）：適切な労働時間や休息の仕組みを構築します。
賃金管理（給与体系、退職金、各種手当など）：従業員の働きに応じた公正な報酬制度を設計・運用します。
安全・衛生管理（労働環境改善、健康管理など）：従業員の安全と健康を守り、快適に働ける環境を整備します。労働安全衛生法に基づき事業者に義務付けられる活動も含まれます。
教育訓練（研修、OJT、自己啓発支援など）：従業員のスキルや知識を高め、組織全体の能力向上を図ります。

2. 労使関係管理: 従業員と経営者間の利害対立を調整し、良好な関係を築くための管理活動です。
労働組合対策（団体交渉、労働協約など）：労働組合との対話を通じて、労使間のルールや労働条件を定めます。
従業員対策（福利厚生、苦情処理制度など）：従業員の満足度を高め、個別の問題を解決するための取り組みを行います。

これらの機能は個別に働くのではなく、相互に補完し合いながら組織全体の目標達成に貢献します。

歴史的な変遷と日本の特徴

人事労務管理の考え方や手法は、時代の流れや各国の文化によって変化してきました。米国では、初期の科学的管理法から始まり、人間的な側面の重要性を認識する人間関係論を経て、より戦略的な人材マネジメントへと発展してきました。

日本では、戦前はホワイトカラー向けの人事管理とブルーカラー向けの労務管理が分けて捉えられる傾向がありましたが、戦後は両者が一体的に扱われるようになり、「人事労務管理」という言葉が広く用いられるようになりました。日本企業の人事労務管理には、終身雇用、年功序列、企業別労働組合といった、いわゆる「日本的経営」と関連付けられる特徴が見られます。また、学校での実践的な職業教育が少ない背景から、企業内でのOJTを含む教育訓練が特に重視されてきました。

戦後日本の人事管理は、高度経済成長期の年功序列から、個々の能力を重視する能力主義管理へと変化しました。職能資格制度などが導入され、年功に能力・実績を加味した処遇が行われるようになりました。さらに、バブル崩壊後は、従業員の多様なニーズや経営環境の変化に対応するため、複数の雇用形態を想定する「雇用ポートフォリオ論」が提唱されたり、業績への貢献度を重視する「成果主義」が導入されたりしました。成果主義の導入にあたっては、コンピテンシーのような客観的な評価基準を取り入れる試みも行われましたが、運用面での課題も指摘され、単純な成果主義から多様な要素を考慮した制度へと模索が進んでいます。同時に、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法などの法整備も進み、労働者の権利保護やワークライフバランスへの対応が社会的な要請となっています。

実施体制と国際的な視点

日本の大手企業では、一般的に本社の人事部が中心となり、人事労務に関する企画立案から実行までを一元的に担う傾向があります。各事業所にも担当部署がありますが、本社人事部が強い権限を持つことが多いのが特徴です。ただし、雇用形態や組織によっては、事業所レベルでの採用などに一定の権限が委譲される場合もあります。

企業が海外へ事業を拡大し、多国籍企業となる際には、新たな課題が生じます。これが「国際人事管理」の領域であり、海外派遣要員の選定や支援、現地法人の経営に現地国籍の従業員を登用・育成する「経営の現地化」などが重要な機能となります。グローバルな事業展開においては、各国の文化や法制度を踏まえた、より複雑な人事労務管理手法が求められます。

人事労務管理は、経営学や社会学など様々な分野で研究されており、関連する学術団体も存在します。時代の変化と共に、その内容や重要性は増しています。

関連事項
人事管理システム
労働三法
ダイバーシティ・マネジメント
タレントマネジメント
日本経営学会
組織学会

※本項目は、提供された情報を基に構成しています。

もう一度検索