今宮祭

今宮祭（いまみやまつり）

今宮祭は、京都市北区紫野今宮町にある今宮神社の例祭で、毎年5月に行われます。今宮神社は京都市北区・上京区に広大な氏子区域を持ち、比較的規模の大きな神社として知られています。京都の祭礼として有名な祇園祭（八坂神社）と並び、近世にはその規模が匹敵するほどでした。紫野御霊会（むらさきのごりょうえ）に起源を持ち、京都を代表する機業地である西陣の祭礼として発展した歴史があります。

歴史

今宮祭と今宮社の成立

現在の今宮神社がある場所には、794年（延暦13年）の平安遷都以前から疫神を祀る社があったと伝えられています。平安遷都後、都では疫病や災厄が頻繁に発生し、神泉苑、上御霊神社、下御霊神社、祇園社（八坂神社）などで疫病を鎮めるための御霊会が営まれました。994年（正暦5年）にも都で大規模な疫病が流行したため、朝廷は神輿2基を造って船岡山に安置し、音楽を奉納した後、疫災を幣帛（へいはく）に移して難波江に流しました。民衆主導で行われたこの「紫野御霊会」が今宮祭の起源とされ、京都の他の都市祭礼と同様に、災厄忌避を祈願する御霊会として始まったのです。

1001年（長保3年）にも疫病が流行したことから、朝廷は疫神を船岡山から移し、疫神を祀った社に神殿・玉垣・神輿を造らせて今宮社と名付けました。大己貴命（おおなむちのみこと）、事代主命（ことしろぬしのみこと）、奇稲田姫命（くしなだひめのみこと）の三柱の神が祀られています。疫病が流行するたびに紫野御霊会が営まれ、やがて今宮社の祭礼として定着し、毎年5月に行われるようになりました。

今宮祭の変遷

創祀以来、今宮神社は朝廷・民衆・武家から篤い崇敬を受け、平安時代から鎌倉時代には官祭として執り行われました。12世紀半ばには政情不安から祭りが衰退し、一時中断しましたが、13世紀半ばに復活し、室町時代を通じてほぼ毎年開催されたとされています。『康富記』の応永8年（1401年）の記述には、御旅所（おたびしょ）に関する記述が初めて登場し、祭礼の費用は氏子地域の地口銭から捻出されていたと記されています。また、応永29年（1422年）の記述には、鉾（ほこ）に関する記述が初めて登場します。剣鉾は京都の祭礼に多く見られる、悪霊を鎮める目的を持つ御霊会で最も重要な祭具であり、多くの神社で使用されています。南北朝時代から室町時代には、都市の民衆が主体となった都市祭礼へと変化し、郊外の本社から町中の御旅所に神輿を迎える形態が確立しました。

15世紀から16世紀にかけて、京の町は応仁の乱や戦国の兵乱に巻き込まれ、神社自体の荒廃もあって今宮社の祭礼は中止されることもありました。応仁・文明の乱（1467年-1478年）では今宮神社も焼失しましたが、『宣胤卿記』によると文明13年（1481年）には既に祭礼が復活していたことが確認できます。1593年（文禄2年）に豊臣秀吉は今宮社の御旅所を再興し、神輿1基を寄進しました。中世には5月7日に神幸が、5月9日に還幸が行われていましたが、慶長12年（1607年）には還幸日が5月15日に変更され、祭日は5月7日と5月15日となりました。

近世に入ると、京織物の産地として西陣が台頭し、徳川幕府5代将軍徳川綱吉の生母である桂昌院の尽力により、今宮祭は華やかさを取り戻しました。桂昌院は西陣生まれであり、今宮社に対する崇敬と西陣に対する愛郷の念が非常に強かったとされています。毎年今宮祭の日には江戸の大奥で将軍とともに祭事を行ったとされ、1694年（元禄7年）には御牛車や鉾を寄進したほか、祭事の整備や氏子区域の拡充、やすらい祭の復興など様々な施策を行いました。近世には『日次記事』、『年中行事絵巻』、『華洛細見図』などに今宮祭の様子が記録されており、1705年（宝永元年）に描かれた『宝永花洛細見図』には三本の鉾を先頭にした神幸祭の行列が描かれています。

近世の今宮祭は現在とほぼ同じ形式で行われていました。5月7日に3基の神輿が剣鉾などを従えて氏子区域を巡幸し、8日間御旅所に駐輦（ちゅうれん）します。5月15日には御旅所から再び氏子区域を巡幸し、御供所（ごくしょ）で神事を行って本社に還幸しました。鉾の他には牛車などが列に加わり、神輿駐輦中の御旅所は参詣者で賑わいました。剣鉾を出す鉾町、祭礼の実施を財政的に援助する寄町、御旅所と御供所が所在する町は、いずれも西陣地区に位置していました。これらの町は今宮祭の維持・運営を中心的に担っていました。

祭礼の内容

今宮祭は、神輿出し（5月1日）、神幸祭（5月5日）、還幸祭（5月15日付近の日曜日）、神輿おさめ（5月19日）の順に行われます。神幸祭は「おいでまつり」、還幸祭は「おかえりまつり」とも呼ばれ、御旅所での駐輦は「おたび」と呼ばれます。祭礼期間中の御旅所では「湯立祭」が行われ、参詣者は巫女が振り掛ける聖なる湯に浴して不浄を清めます。

神幸祭

5月5日の神幸祭当日には、午前中に今宮神社本社で拝殿降が行われ、昼過ぎに神輿が本社を出御します。車太鼓、剣鉾、旗、花車、獅子、御車、提灯、先神輿、中神輿、大宮神輿、宮司などの列をなし、この順序は近世後期以降ほとんど変更されていません。途中、北大路旧大宮交差点と千本今出川交差点では台車に乗せていた神輿を人力で担ぎ上げて回転させます。いったんは御旅所に近づきますがさらに南下し、氏子範囲の西端とされる七本松通を南下し、北野天満宮の東300mまで接近します。その後、上京区若宮横町にある御旅所に入御します。翌日の5月6日には御旅所で湯立祭が斎行されます。

還幸祭

還幸祭は5月15日に最も近い日曜日に行われます。正午に御旅所で拝殿降が行われ、昼過ぎに神輿が御旅所を出御します。神幸祭と同様に列をなし、大宮通を南下、寺之内通を東進、堀川通を越えて小川学区に至ります。行列は小川通を南下し、元誓願寺通を西進して再び堀川通を越えます。細い黒門通を南下し、二条城まで数百mまで迫ると下立売通を西進して千本通を北上します。千本今出川交差点では神幸祭同様に、台車に乗せていた神輿を人力で担ぎ上げて回転させます。再び今出川通を越え、京都市立嘉楽中学校北側の御供所で献饌の神事を行います。それまで神輿に宿らせてきた疫神を幣帛に依り移らせ、今宮神社本社までは神輿ではなく宮司が運びます。御供所での神事は祭礼のクライマックスであり、参詣者に慰撫された疫神を外部に放つ役目を持っています。

疫神を降ろした神輿は御供所で二手に分かれ、大宮神輿以外の2基は西進して千本通を北上し、大宮神輿は東進して大宮通を北上します。御旅所からは3基とも同じ通りを北上しますが、大宮今宮で再び二手に分かれます。大宮神輿は北山通まで北上してから引き返しますが、それ以外の2基は大宮今宮で左折して本社に直行します。

今宮祭とやすらい祭の比較

今宮神社の祭礼には今宮祭の他にも、4月に行われるやすらい祭、10月に行われる例祭があります。国の重要無形民俗文化財に指定され、京都の三大奇祭に数えられるやすらい祭は、今宮祭よりも質素で参加人数も少ないものの、鎮花祭の要素が含まれています。今宮祭は西陣の都市祭礼、やすらい祭は農村の祭礼という性格の違いがあります。やすらい祭は小規模農村が主体の祭礼でしたが、昭和初期以降に住宅地化が進んで参加者数が増加し、特に西陣地区から移住した住民が参加するようになったことで、規模が拡大しました。

もう一度検索