会子

会子（かいし）：南宋の紙幣とその興亡

会子とは、中国南宋時代に発行された紙幣であり、その発行と流通は、当時の経済状況や貨幣制度を深く理解する上で重要な鍵となります。

会子発行の背景

南宋朝廷は、銅銭の供給不足を補うため、紹興31年（1161年）に臨安（現在の杭州）で会子を初めて発行しました。当初は「東南会子」と呼ばれ、臨安周辺でのみ流通していましたが、次第に南宋全土へと広がっていきました。会子の発行は、四川で先行していた交子の影響を受けており、銭端礼が中心となって推進しました。会子は、一貫、二貫、三貫の額面に分かれ、銅銭と並行して使用されました。

会子の拡大と銭会中半制

会子の発行に伴い、南宋朝廷は政府支出の半分を銅銭、半分を会子で支払う「銭会中半制」を確立しました。この制度は、会子の信用を維持し、価値の安定を図ることを目的としていました。会子は、両浙東西路、江南東西路、湖南などの地域で広く流通し、次第に硬貨に代わる基軸通貨としての地位を確立していきました。孝宗の時代には、軍備支出の増大に伴い、会子の発行がさらに増加しました。しかし、臨安で発行された会子は、全てが銅貨に交換されることはなく、地方での会子の兌換を促す措置が講じられました。

会子のインフレーションと対策

隆興元年（1163年）には、200文、300文、500文の額面を持つ会子が発行されました。しかし、宋金戦争による支出増大に伴い、会子の切り下げ現象が始まりました。乾道2年（1166年）には、合計1560万道（貫）が発行されるまでに至りました。乾道3年（1167年）には、内庫の銀を放出し、旧券の会子を回収する措置が取られましたが、根本的な解決には至りませんでした。会子の価値は下落し続けましたが、次第に主要な貨幣としての地位を確立していきました。農民も会子を使い、紙幣の利用が急速に普及していきました。嘉泰3年（1203年）には、杭州会子庫に監督官が設置され、会子の発行・管理体制が強化されました。

会子の増刷とインフレの深刻化

開禧3年（1207年）には、南宋の平均歳入の82%に相当する会子が発行され、嘉定2年（1209年）には、会子の流通額は1億1560万貫に達しました。嘉定11年（1218年）には、金との戦費を賄うために、追加で500万道（貫）の会子が発行されました。会子の流通量の増加に伴い、偽造会子が横行するようになり、会子の価値はさらに下落しました。南宋朝廷は、会子の発行や使用期限を制限する「分界」という制度を設けましたが、完全に効果を発揮することはできませんでした。淳祐7年（1247年）には、分界制度を廃止しましたが、これが悪性インフレーションを引き起こし、会子の価値は急落しました。また、「鉛錫会子」という、鉛や錫を政府に販売した際の証明書として発行された会子もありました。

会子の終焉

紹定3年（1230年）には、李全の乱が勃発し、モンゴル帝国が侵攻するなど、情勢は悪化しました。紹定5年（1232年）には、会子の発行額は3億2900万貫と急増し、偽造も増加しました。淳祐6年（1246年）には、会子の累積発行額は6億5千万貫に達し、深刻なインフレーションが続きました。嘉熙年間には、臨安における会子の価値は1貫あたり銅銭300～400文程度にまで下落しました。景定5年（1264年）、賈似道は価値が暴落した会子の代わりに「見銭関子」を発行しましたが、最終的に、南宋が滅亡すると、会子と関子は、元朝が発行した交鈔に取って代わられました。

まとめ

会子は、南宋の経済を支えた重要な紙幣でしたが、度重なる増刷やインフレによって、その価値は大きく変動しました。偽造防止策や使用期限も設けられましたが、最終的には他の紙幣に取って代わられました。会子の歴史は、南宋の経済状況と貨幣制度を映し出す鏡と言えるでしょう。

参考文献

彭信威『中國貨幣史』上海人民出版社、1958年
汪聖鐸『宋代的關子』<宋遼金史論叢> 第1輯 中華書局、1985年
高橋弘臣著; 林松濤訳『宋金元貨幣史研究 — 元朝貨幣政策之形成過程』上海古籍出版社、2010年

関連項目

交子
中国の貨幣制度史
飛銭

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