佐渡島の金山

佐渡島の金山：時を超えて輝く産業遺産の物語

佐渡島の金山は、新潟県佐渡市に位置し、2024年にユネスコの世界遺産（文化遺産）に登録された、かつての金山を中心とした鉱山産業遺産です。この遺産は、16世紀後半から19世紀半ばにかけての伝統的な手工業による金銀鉱山遺跡群であり、江戸時代までの鉱山関連史跡に焦点を当てています。

世界遺産登録までの道のり

2007年に世界遺産候補地として公募され、2010年にはユネスコ世界遺産センターの暫定リストに掲載されました。その後、文化庁への推薦書原案提出を重ねましたが、国内選考で選ばれることはありませんでした。しかし、2021年末に2023年開催予定の世界遺産委員会での審査候補に選定され、2022年2月1日に政府が推薦を実行しました。しかし、推薦書記載内容の不備からユネスコに指摘され、2024年の審査を目指すことになりました。ユネスコの諮問機関であるICOMOSによる現地調査を経て、情報照会勧告が出されましたが、2024年7月27日、第46回世界遺産委員会において登録が決定しました。

対象地：多様な鉱山遺産群

登録対象地は、主に以下の三つのエリアで構成されます。

相川金銀山・鶴子銀山: 大佐渡山地に位置し、道遊の割戸、宗太夫坑、大切山坑などの鉱山跡や、上相川鉱山集落跡、上寺町地区、南沢疎水など、鉱山町としての景観を形成する文化遺産が点在しています。金銀運搬路である西五十里道・鶴子道も含まれます。
西三川砂[[金]]山: 小佐渡山地に位置し、砂[[金]]採掘の歴史を伝える史跡と、棚田として活用された景観が残されています。

これらの対象地は、江戸時代までに開発された鉱山関連史跡に限定されており、明治時代以降の近代化遺産（佐渡金山道遊坑道、北沢浮遊選鉱場など）は含まれません。

景観としての世界遺産

佐渡島の金山の特徴は、構成資産が史跡や重要文化財に指定された有形不[[動産]]だけでなく、重要文化的景観に選定された地域では、景観そのものが世界遺産の対象となっている点です。相川の鉱山町としての景観は、崖線によって上下に分かれた独特の都市構造を持ち、高台には寺院や商人街、下町には職人の工房や居住地が広がっています。また、西三川の棚田は、砂[[金]]採掘のために整備された水路を転用したものであり、その景観は、自然と人間が共生してきた歴史を物語っています。

相川の街並みは、奉行所を中心に設計され、江戸時代の区画がほぼそのまま残されており、往時の様子を今に伝えています。崖の上と下を結ぶ坂道や、防衛を意識した仕掛けが施された道など、独特の景観を形成しています。上町地区には短冊状に連なる京町屋風の家屋が、下町地区には昔ながらの区画が良好に残されています。

その他の景観要素

佐渡島の金山は、以下の点で他の世界遺産と比較して特筆すべき点があります。

棚田: 西三川の棚田は、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産の春日集落にある棚田に次ぐもので、産業遺産の中で棚田が対象になるのは珍しい。
用水路: 用水路は、明治日本の産業革命遺産である関吉の疎水溝に次ぐもので、産業遺産の中で用水路が対象になるのは珍しい。
溜池: 溜池は、これまで世界遺産には無かったもの。
自然河川: 相川や西三川を流れる自然河川は、紀伊山地の霊場と参詣道で熊野古道の一部とされた熊野川に次ぐものだが、佐渡では産業利用された点で異なる。
能舞台: 能舞台は、各地に存在するが、佐渡は民衆文化として存続してきた点で異なる。
旧商家が連なる光景: 寺町や、京町通りのような旧商家が連なる光景が含まれたのは初めてのこと。

豊かな植生と自然環境

佐渡金山は、豊かな森林に抱かれるように存在しており、植生が損なわれないよう配慮されてきました。佐渡杉やカシなどの木材は、建築資材や坑道用材として活用され、スダジイ（椎）は寺院で保護されてきました。また、薬草として重宝されたシャクヤクやセン[[ブリ]]、海浜植物など、金山運営に関わる様々な植物が見られます。世界遺産委員会での登録時に「世界遺産森林保全ネットワーク」に組み込まれ、森林保全マネジメントの計画案提出が求められました。

金山がもたらした経済と技術

江戸時代からの388年間で、佐渡金山は金78トン、銀2,330トンを産出し、国内外の経済に大きな影響を与えました。特に、純度99.54％に達する独自の精錬技術は、当時の世界最高峰でした。また、鉱物産出地に接して造幣部署（金座）があることや、塩を触媒として金銀を抽出する焼金法は、世界的にも珍しい事例です。鉱石から金銀を抽出する粉砕選別作業用の石臼は、専用の採石場で製造され、他の鉱山とは異なる工夫が凝らされていました。相川地区では、採掘から精錬、鋳造までの生産工程、佐渡奉行所のような管理体制、鉱夫や商人など様々な人々が暮らす集落など、近世における工業地域の都市計画の様子を良好な状態で残しており、世界的にも稀有な存在です。西三川砂[[金]]山では、閉山後に棚田へと改変され、二次産業から一次産業への転換は海外からも注目されています。

佐渡金山の略史

1994年、佐渡奉行所跡、道遊の割戸、宗太夫坑などが史跡「佐渡金銀山遺跡」として指定されました。2001年に島根県の石見[[銀山]]が暫定リストに掲載されると、佐渡でも世界遺産登録を目指す動きが活発化しました。2010年には、「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」として暫定リストに掲載されました。その後、構成資産候補の見直しや、顕著な普遍的価値（OUV）の再定義が行われました。2021年末には推薦候補として選定され、2022年2月1日に推薦書が提出されましたが、内容不備で不受理となり、改めて2024年の登録を目指しました。

文化財としての保護

佐渡の鉱山遺跡群は、「佐渡金銀山遺跡」として史跡に指定されており、「佐渡西三川の砂[[金]]山由来の農山村景観」と「佐渡相川の鉱山及び鉱山町の文化的景観」は重要文化的景観に選定されています。また、都市計画法や歴史まちづくり法、地すべり等防止法、森林法などの法的根拠に基づき、開発や災害から保護されています。特に緩衝地帯は、構成資産への影響を避けるために重要な役割を果たします。

世界遺産登録の意義

佐渡島の金山は、その歴史的価値、技術的価値、文化的価値が世界的に認められました。また、手工業による鉱山開発と貴金属生産を継続したこと、その技術や組織体制を継承したことが、明治の近代化産業革命を円滑かつ短期間で成し遂げたという点で、世界的に稀有な遺産です。

今後の課題

世界遺産登録後も、遺産の保全、災害対策、景観維持、環境問題など、様々な課題に取り組む必要があります。また、観光客の増加に伴う混雑緩和や、地域住民との共存など、持続可能な観光のための対策も重要となります。佐渡金山の歴史と文化を後世に伝えるため、地域全体での取り組みが求められます。

まとめ

佐渡島の金山は、鉱山遺跡群だけでなく、人々の暮らしや文化、自然環境が一体となった、他に類を見ない貴重な遺産です。この遺産の価値を広く伝え、未来へと継承していくことが、私たちの使命です。

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