保良宮

保良宮（ほらのみや）とは

保良宮は、奈良時代に近江国（現在の滋賀県）に淳仁天皇が設けた宮で、平城京の北に位置したことから「北京」とも称されました。保良京、保良離宮とも呼ばれることもあり、天智天皇の大津宮に近いことから、古文書には大津宮と記録されている場合もあります。この宮は、当時の政治情勢と深く関わりながら、短期間で遷都と廃都を経験しました。

保良宮の背景

保良宮の造営は、聖武太上天皇の晩年、藤原仲麻呂が光明皇后の支持を得て勢力を増したことが背景にあります。聖武太上天皇の死後、仲麻呂は橘奈良麻呂の乱を鎮圧して政権を掌握し、大炊王を擁立して淳仁天皇として即位させました。天平宝字3年（759年）11月、藤原氏と縁が深く、仲麻呂自身も近江国守であったことから、近江国に保良宮の造営が開始されました。

保良宮の近くにあった勢多津は、東山道や北陸道からの物資が集まる場所であり、保良宮造営以前から朝廷や貴族、寺院が倉庫や別荘を設けていました。また、保良宮に行幸した後には、民部省や式部省などの官司（またはその出先機関）が置かれました。

行幸と廃都

天平宝字5年（761年）、保良京では諸司の役人に宅地が与えられ、遷都のために藤原仲麻呂らに稲束が支給されました。同年10月、淳仁天皇と孝謙上皇は保良宮に行幸し、天皇は平城宮の改修のためしばらく保良宮に移ると詔を出し、「北京」を造営する計画を表明しました。これにより、都に近い2郡が畿内とされ、平城京に準じた税が徴収されることとなりました。これは唐の陪都「北京太原府」を意識したものでした。

しかし、保良宮は未完成であり、天平宝字6年（762年）正月には朝賀の儀が中止されました。同年3月、保良宮の西南に池亭が造られ、曲水の宴が開かれました。その後、諸殿や屋垣の工事が各国に割り当てられましたが、同年5月、淳仁天皇と孝謙上皇の不仲が原因で平城宮に戻ることになりました。淳仁天皇は中宮院へ、孝謙上皇は出家して法華寺に入りました。この背景には、孝謙上皇が病気になった際に弓削道鏡の看病を受け、その関係を批判した淳仁天皇との対立があったとされます。

天平宝字8年（764年）頃には、孝謙上皇と親密な吉備真備が台頭し、藤原仲麻呂の乱が勃発。仲麻呂が敗北したことで、保良宮の造営は中止され、廃都となりました。

遺跡について

保良宮の正確な位置は特定されていませんが、有力な説としては琵琶湖から流れ出る瀬田川の右岸、滋賀県大津市の石山国分遺跡周辺が挙げられます。この場所からは、築地塀の跡や平城京と共通する瓦が出土しており、関連施設の跡であると考えられています。周辺には石山寺や近江国分寺、瀬田川対岸には近江国庁があり、環境が整っていたことがうかがえます。

また、国分2丁目には「へそ石」と呼ばれる、保良宮の礎石の一つと伝えられる石が残っています。さらに関津遺跡からは、幅18メートルの道路跡も見つかっており、保良宮に関連する遺跡として注目されています。

別の説では、紫香楽宮跡近くの玉桂寺（滋賀県甲賀市信楽町勅旨）を保良宮跡とするものもあります。この寺には「保良宮跡に空海が一堂を建立した」との伝承が残っています。

また、『西大寺資材流記帳』には、神護景雲2年（768年）に近江国の荘園が西大寺に寄進された記録があり、そのうちの一つである滋賀郡保良荘が保良宮の跡地であるとする説もあります。

さらに、琵琶湖の北部にある長浜市西浅井町管浦の須賀神社が保良宮の跡地であるとの伝承も存在します。この神社では50年ごとに「淳仁天皇祭」が斎行されており、平成25年（2013年）には1250年祭が執り行われました。

まとめ

保良宮は、奈良時代の一時期に都として機能したものの、その歴史は藤原仲麻呂の台頭と失脚、孝謙上皇との対立によって翻弄されました。短期間で造営され、すぐに廃都となった保良宮は、古代日本の政治史を理解する上で重要な場所であり、その遺跡は今もなお、当時の歴史を物語っています。

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