光ファイバー網

光ファイバー網は、光ファイバーを用いたネットワークであり、有線電気通信網や有線電気放送網に取って代わる存在となりました。その提供形態は多岐にわたり、芯線貸し（ダークファイバ）、波長貸し（光波長多重通信）、分岐貸し（受動光ネットワーク）、帯域貸し（広域イーサネット等）があります。また、自社網や電柱添架、管路貸し、管渠の空間貸しといった形態も存在します。

歴史

通信の自由化まで

かつて日本では、日本電信電話公社（電電公社）が全国の有線電気通信網を独占していました。しかし、地方への展開が遅れ、有線放送電話が普及しました。有線放送電話事業者は全国接続を求めましたが、電電公社は品質維持を理由に規制を要求し、1957年に「有線放送電話法」が成立しました。これにより、電気通信の独占体制が確立されました。

その後、光ファイバー技術が実用化され、1978年から電電公社は光ファイバーを電気通信の中継系に導入しました。1985年には「日本縦貫光ファイバケーブル」が完成しました。1985年の電電公社の民営化と電気通信事業法の成立により、通信の自由化が進みました。新興電信電話会社（新電電）が誕生し、光ファイバー網や企業向け光通信サービスが活発化しました。一方、消費者向けではラストワンマイルが課題となり、NTTがダークファイバを開放するまで、新電電は無線やCATVへの参入を模索しました。

光ファイバー網の全国整備まで

1994年、郵政省は光ファイバー網の全国整備を目標としました。1995年には阪神・淡路大震災を契機に電線共同溝の整備が始まり、光ファイバーを考慮したインフラ整備が進められました。1997年には光ファイバー網の全国整備が2005年へ前倒しされました。2000年にはIT戦略会議が設置され、IT基本法が制定されました。総務省は設備保有者による公平な設備提供を原則とするガイドラインを規定しました。2004年には総務省が「ブロードバンド・ゼロ地域脱出計画」を発表し、2010年度までにブロードバンドの世帯カバー率100%を目標としました。

2010年には「光の道」構想が策定されましたが、FTTHの低廉化は実現しませんでした。2011年には固定電話網のIP化が進められることとなり、FTTH化も検討されました。2019年には5GやIoT基地局のバックホール回線に必要な光ファイバーケーブル敷設が支援され、家庭向け光ファイバの整備も推進されました。2020年のコロナ禍では、テレワーク推進のために光回線整備が前倒しされました。2021年には光回線のカバー率を2030年までに99.9%へ上げるという目標が掲げられ、2024年にはデータセンター間の光ファイバが問題となることが予見され、検討会が開催されました。

国際光ファイバー網

国際通信は、かつて国際電信電話 (KDD) が独占していましたが、1989年に初の海底光ケーブルが運用開始されました。その後、国際デジタル通信 (IDC) が参入し、国際通信回線が拡大しました。1993年にはKDDとAT&Tなどがワールドパートナーズを結成し、国際バックボーン回線サービスが開始されました。1995年には光増幅中継技術が開発され、大容量の日米海底ケーブルが運用開始されました。

1995年のWTOの発足により通信自由化がさらに進み、1996年にはKDDの国内通信事業への進出、NTTの国際通信事業への進出が容認されました。NTTはNTT国際通信を設立し、国際バックボーン回線を開始しました。その後、NTTは国際デジタル通信の買収に失敗し、NTTコミュニケーションズが誕生しました。また、日本テレコムも国際通信事業に参入しました。海底ケーブルには大容量の光波長多重通信 (WDM) が導入され、各国のプロバイダーが共同で整備を進めるようになりました。

国内光ファイバー網

通信系光ファイバ網

1990年、NTTは通信線の光ファイバー化を目標とする「新高度情報通信サービス」（VI&P）構想を発表しました。1991年には電気通信基盤充実臨時措置法が公布され、光ファイバーの導入が進められました。1994年にはマルチメディア通信の共同利用実験が開始され、1997年より光ファイバを用いたサービスが開始されました。1996年にはNTTがメガメディア構想を発表し、2000年には個人向けのFTTHサービスが試験的に開始されました。

一方、1998年にはxDSLの実現に向けた研究が始まり、1999年から2000年にかけてADSLサービスが開始されました。NTT以外のADSL事業者はNTTのダークファイバ開放を要求し、2000年にそれが実現しました。CATV事業者への光ファイバー網の開放も進められ、トリプルプレイサービスが登場しました。2001年には電気通信役務利用放送法が成立し、通信事業者の光ファイバー網が放送用途にも使用可能になりました。2003年にはKDDIが、2004年にはソフトバンクがFTTHサービスを開始しました。2005年には光ファイバの引き込み線の問題が解決され、電柱添架手続きが簡素化されました。ADSLからFTTHへの移行が進み、2008年にはNTT東西がNGN網を用いたフレッツ光ネクストを導入し、2009年にはソフトバンクもフレッツ光ネクストを用いたサービスを開始しました。ソフトバンクはNTT東西の分岐貸しを求めましたが拒否されました。

電力系光ファイバ網

1970年代にOPGWが開発され、電力会社は送電・配電線を雷から保護する目的で光ファイバを導入しました。1986年には東京電力が東京通信ネットワーク（TTNet）を設立しました。電力会社は、光ファイバを指令電話網や大口需要家向けの電力使用量監視システムに利用しました。1999年にはTTNet、関西電力系OMP、中部電力系CTCの三社が共同でPNJコミュニケーションズを設立し、2001年にパワードコムへと社名変更しました。2001年には電力系のダークファイバにおいてIRUの最低契約期間が短縮され、東京電力が自社光ファイバ網の開放を決定しました。2003年には電力系の光ファイバ総延長がNTTよりも長かったとされています。2006年にはパワードコムがKDDIへ合併されました。

鉄道系光ファイバ網

JR系光ファイバ網

日本国有鉄道（国鉄）は1960年から列車電話を提供し、1965年からはみどりの窓口のために自社通信網を構築していました。1984年には通信の自由化を見越して日本テレコムを設立し、新幹線沿いに光ファイバを敷設しました。日本テレコムは、安価な市外通話サービスを開始しました。2001年には政府が鉄道事業者などの光ファイバ網の開放を検討しました。2002年には日本テレコムが広域分散IXサービスを開始しました。2007年にはJR東日本がKDDIと提携し、新幹線沿いの難視聴対策CATVのFTTH化を計画しました。2020年から2022年にかけて、IX大手3社が福岡に新拠点を設け、JR西日本は2021年に光ファイバ網の芯線貸しを開始し、2022年にはJR九州も同様のサービスを開始しました。2023年にはJR西日本が波長貸しサービスを開始しました。また、JR東日本と丸の内ダイレクトアクセスの相互接続サービスも開始されました。2024年にはJR東海も芯線貸しを開始しました。

私鉄・地下鉄・新交通システム系光ファイバ網

1980年、東京都交通局が都営地下鉄に光ファイバーを試験導入しました。1998年には関東の私鉄が共同で鉄道情報ネットワーク高度利用推進協議会を立ち上げ、広域LANによる接続実験を行いました。2002年にはNTTが鉄道沿線の光ファイバを用いて無線LANサービスを開始しました。関西では2000年に電発、名鉄、近鉄が光ファイバの相互接続を始め、2009年に手続きが統合されました。2021年には阪急阪神ホールディングスとJR西日本が光ファイバ網の相互接続を行いました。

研究開発系光ファイバ網

1999年、通信・放送機構 (TAO) がギガビットネットワークの研究開発用として Japan Gigabit Network (JGN) を開始し、2004年には情報通信研究機構がその後継として広域イーサネット採用の JGN2 を開始しました。

学術系光ファイバ網

2002年には、つくば市に光リングネットワークのつくばWANが構築されました。2016年には、国立情報学研究所がダークファイバを用いた学術情報ネットワークのSINET5の運用を開始しました。

CATV系光ファイバ網

1971年、通商産業省がCATVによる情報システムの調査を開始し、1978年には光ファイバによる「生活映像情報システム」（Hi-OVIS）の実験が開始されました。1993年にはCATVの規制緩和が決定され、1994年には郵政省が「新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業」を開始しました。1995年には光ファイバの幹線を整備するための事業が開始されました。1996年にはCATV網によるインターネットサービスを提供する事業者が増加しました。HFC構成が多く導入された後、CATV各社はFTTH化を推進しました。

CATVでは1997年よりデジタル放送が開始され、2000年にはCATV各社への放送を光配信する日本デジタル配信が設立されました。2010年度にはCATV加入世帯率が50%を突破しましたが、それ以降は鈍化しました。一方、CATVインターネットは順調に伸びました。2017年以降、ケーブルテレビ回線のFTTH化を支援する動きが活発化し、政府もFTTH化を支援しました。2019年末のコロナ禍で、自治体によっては交付金をケーブルテレビの光化に使う事例も見られました。

高速道路光ファイバ網

建設省は高速道路沿いのメタルケーブルを光ファイバに交換するために1984年に日本高速通信（テレウェイ）を設立しました。1986年には専用線サービスが開始され、1995年には全国網が完成しました。テレウェイは高速道路沿いの光ファイバにWDMを導入しました。1997年に国際電信電話とテレウェイの合併が合意され、1998年には国際電信電話が日本高速通信を吸収しました。2002年には、高速道路の高架橋脚空間への光ファイバの敷設が検討されました。

メトロ系光ファイバ網

1998年頃より、Metropolitan Area Networkや広域イーサネットが登場し、光ファイバとSONETによる広域リングネットワークが普及しました。1999年にはワールドコムがループ状の光ファイバ網の敷設を開始し、広域イーサネットサービスに参入しました。2000年にはKDDが、2001年にはNTT東西が同様のサービスを開始しました。2001年には丸紅系のメトロアクセスが光ファイバサービスを開始し、丸紅は三菱地所とも連携しました。2015年にはNTTスマートコネクトが堂島コネクトを開始し、2023年にはソフトバンクグループとJR西日本が共同で「大阪なにわリング」を開始しました。また、BBバックボーンがWDMによる波長貸しサービスを開始しました。

行政系光ファイバ網

1994年、内閣府は「行政情報化推進基本計画」を決定し、霞が関WANの整備を開始しました。2006年には内閣府がダークファイバーを用いたネットワーク基盤整備を進めました。2000年には総合行政ネットワーク (LGWAN) の整備が開始されましたが、当初はNTTのATMデータ通信網を使用していました。2013年には政府共通ネットワーク(G-Net) が導入されましたが、2021年のコロナ禍で速度の問題が露呈し、新たな政府共通ネットワーク「GSS G-Net」が整備されました。

地域公共光ファイバ網（情報ハイウェイ）

1994年、郵政省は自治体や図書館などを光ファイバ網で繋ぐ「自治体ネットワーク構想」を打ち出し、1996年には「岡山情報ハイウェイ」の実験が開始されました。1998年には一部地域で先導して光ファイバを導入することを目指しました。2001年には全国ブロードバンド構想が打ち出され、地域公共ネットワークの全国整備が進められました。地域間相互接続実験プロジェクト（RIBB）も登場しましたが、アカデミックのまま終わりました。2002年には地方公共団体のダークファイバの貸与手続きが推進されました。2019年度には、条件不利地域における5GおよびIoTのバックホール回線となる光ファイバー網整備のために補助金が民間事業者にも開放されるようになりました。

公共施設管理用・下水道管光ファイバ網

1996年、下水道法改正により、下水道管内に光ファイバーを敷設することが可能になりました。1997年、建設省は光ファイバを道路、河川、下水道に敷設する計画を立てました。2002年には、公共施設管理用の光ファイバを民間開放することが決定しました。

注釈

出典

河川・道路管理用光ファイバの民間事業者等への開放国土交通省

外部リンク

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