南禅院

南禅院（なんぜんいん）

京都市左京区南禅寺福地町に位置する南禅院は、臨済宗南禅寺派に属する大本山南禅寺の重要な塔頭寺院です。この寺院は、南禅寺が建立される端緒となった地として特に歴史的な意義を持ち、本尊には南禅寺の開基である亀山法皇の木像を安置しています。境内には、国の史跡および名勝に指定された、京都に残る最も古い庭園の一つとされる池泉回遊式庭園が広がります。また、寺院の門前には、明治時代に建設された琵琶湖疏水の一部をなす、趣のある赤レンガ造りの水路閣が通っています。

歴史

南禅院の起源は、鎌倉時代の文永元年（1264年）にまで遡ります。当時の亀山天皇が、現在の南禅寺が立つ地の南側に広がるこの地に、優雅な離宮「禅林寺殿」を造営したことに始まります。この広大な離宮は、「上の御所」と「下の御所」に分かれていましたが、弘安10年（1287年）になると、譲位して上皇となっていた亀山上皇が、「上の御所」内に自身の持仏堂として南禅院を建立しました。

その後、正応2年（1289年）に亀山上皇はこの地で出家し、法皇となりました。そして正応4年（1291年）、亀山法皇は離宮・禅林寺殿全体を禅宗の寺院とする決意を固め、中国から渡来した高僧・無関普門を開山に迎え、龍安山禅林禅寺と命名しました。これが後に南禅寺へと発展していく寺院の開創です。禅林禅寺は次第に規模を拡大し、最終的に南禅寺と名を改め大伽藍を形成。南禅寺のそもそもの始まりの地であった南禅院は、その重要な塔頭寺院として位置づけられることになりました。

しかし、南禅院は幾度かの不幸に見舞われます。明徳4年（1393年）に火災により一度は焼失しました。応永27年（1420年）には、室町幕府三代将軍足利義満の北山御所から移築された寝殿を用いて再建が図られましたが、それも束の間、文安4年（1447年）に起こった南禅寺全体を襲う大火によって再び焼失してしまいました。続く応仁の乱（1467年〜1477年）以降は長い間荒廃した状態が続きましたが、江戸時代の元禄16年（1703年）、五代将軍徳川綱吉の母である桂昌院と、円成院禅尼（木下利三の縁者とされる）らの尽力によって、ようやく再建を果たし、現在の姿の基礎が築かれました。

近代においては、1888年（明治21年）に南禅院の門前に琵琶湖疏水事業の一環として、現在も景観の一部となっている水路閣が建設されました。また、比較的近年の出来事としては、昭和12年（1937年）に、当時の将棋界の第一人者であった坂田三吉と木村義雄による有名な対局が、南禅院を舞台に行われたことも記録されています。

境内と文化財

現在の南禅院の中心的な建物は、元禄の再興時に建てられた方丈です。この建物は、本堂としての機能も兼ねています。内部の襖には、江戸時代前期から中期にかけて活躍した狩野派の画家である狩野常信と、その子息である周信、岑信父子によって描かれた見事な襖絵が残されています。方丈の前には、静かで落ち着いた雰囲気の方丈前庭が広がっています。

境内には他にも、大正時代に築かれたと伝わる茶室「龍淵窟」や、寺務を行う庫裏などがあります。そして、南禅院の最大の魅力の一つとされるのが、国の史跡・名勝に指定されている庭園「曹源池」です。この庭園は、鎌倉時代に亀山上皇自身が作庭を始め、後に禅僧として名高い夢窓疎石が完成させたという伝承を持つ、優美な池泉回遊式庭園です。鎌倉時代に造られた庭園としては、京都で最も古いものの一つとされており、天龍寺庭園、西芳寺庭園（苔寺）と共に「京都三名勝史跡庭園」にも数えられています。

庭園の東南隅には、ひっそりと亀山法皇廟所が建っています。これは、亀山法皇が亡くなる際に遺言によって分骨された遺骨が埋葬されている場所と伝えられており、現在は宮内庁の管理下に置かれています。幕末の文久年間に実施された天皇陵の修復事業の際には、西本願寺からの資金援助を受けて修復が行われたという歴史を持ちます。また、境内には、南禅寺の第三世住持を務めた中国の高僧、一山一寧禅師の墓も祀られています。入口近くには、格式を示す勅使門が設けられています。

南禅院はまた、貴重な文化財を伝えています。二躯の坐像が国の重要文化財に指定されています。一つは木造亀山法皇坐像で、南禅寺を開いた亀山法皇の肖像彫刻です。現存する天皇の肖像彫刻としては、最も古いものとして歴史的に貴重です。もう一つは木造一山一寧坐像で、元の皇帝の使節として来日し、後に南禅寺の住持となった一山一寧禅師の頂相（肖像彫刻）です。一山禅師が亡くなって間もない頃に制作されたものと考えられており、中世に作られた一山禅師の肖像としては唯一の遺例とされています。かつては一山禅師が住んだ塔頭である大雲庵に伝わっていたものです。

これらの歴史的建造物、美しい庭園、そして貴重な文化財は、南禅院が南禅寺開創の地として歩んできた長い歴史と、その文化的な重みを今に伝えています。

アクセス

京都市営地下鉄東西線の蹴上駅で下車し、徒歩でアクセス可能です。

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