古代ギリシアの彫刻

古代ギリシアの彫刻は、その長い歴史の中で、人間の形を追求し、神々を人間の姿で表現することを重視しました。この芸術は、古代ギリシアの文化と社会を深く反映しており、今日でも多くの人々を魅了しています。

素材と技法

古代ギリシアの彫刻は、主に大理石や青銅で作られました。古典期（紀元前5世紀～4世紀）までは、記念碑的な彫刻のほとんどが大理石か青銅でした。特に、5世紀初頭にはブロンズ鋳造が主要な技法となり、ローマ市場向けの複製品として大理石で作られた彫刻の多くは、元々ブロンズ製だったと考えられています。他にも、テラコッタや象牙、金などの素材も用いられ、神殿の偶像や豪華な作品には、金箔や宝石が施されたものもありました。

大理石と青銅は、成形しやすく耐久性があるという利点がありました。また、古代ギリシアには、ペンテリコ山やパロス島など、良質な大理石の産地がありました。青銅も比較的入手しやすく、これらの素材は彫刻制作に不可欠でした。

しかし、青銅は解体して再利用されることが多かったため、オリジナルの青銅彫刻はあまり残っていません。近年の海洋考古学の発見により、アルテミシオンのブロンズ像やリアーチェのブロンズ像などの素晴らしい例が見つかり、古代ギリシアの彫刻技術の高さが再認識されています。

着色

古代ギリシアの彫刻は、元々明るい色で塗られていましたが、時間の経過とともに色素が劣化し、現在では白い状態で残っています。しかし、古典文献や一部の保存状態の良い彫像には、元の色彩の痕跡が残っており、考古学者によって当時の姿が再現されています。

19世紀初頭には、多くの彫刻に多彩な痕跡が発見されましたが、美術史家たちはギリシア彫刻が着色されていたという見解に強く反対しました。20世紀後半になり、ドイツの考古学者ヴィンツェンツ・ブリンクマンによって、古代ギリシア彫刻が実際に着色されていたことが確定されました。ブリンクマンは、高輝度照明、紫外線、特殊カメラなどの技術を使い、パルテノン神殿全体がかつて塗装されていたことを証明しました。彼は、元の塗料の色素を分析し、その組成も明らかにしました。ブリンクマンは、着色されたギリシア彫刻のレプリカを作成し、世界各地で展示を行い、彫刻への着色が普遍的なものであることを示しました。

古代ギリシア彫刻の発展

幾何学文様期

古代ギリシア彫刻の初期段階は、木彫りの偶像であると考えられています。これらの偶像は「xoana」と呼ばれ、そのほとんどは現存していません。現存する最古の彫刻の1つは、エヴィア島で発見された紀元前920年頃のテラコッタ製のレフカンディのケンタウロスです。このケンタウロスは、膝に意図的な印があり、ヘラクレスに傷つけられたケイローンを描いたものだと考えられています。この時期の彫刻は、テラコッタ製の人物像、ブロンズ像、象牙像が中心で、ブロンズ像は、主に三本足の大釜や自立した人物像でした。この時代のブロンズ像は、シリアから導入されたロストワックス技術を用いて作られました。

アルカイック期

アルカイック期には、エジプトやメソポタミアの石像彫刻の影響を受け、ギリシア人は再び石に彫刻を始めました。自立した人物像は、東洋的な堅さと正面姿勢を持ちながらも、より力強さが感じられます。紀元前575年頃からは、男性と女性の人物像に、いわゆる「アルカイックスマイル」が見られるようになりました。この時期には、裸体の男性立像であるクーロス像、布をまとった女性立像であるコレー像、そして着座した女性像が流行しました。これらの像は、人物の本質的な特徴を強調し、人間解剖学への理解を深めようとしていました。クーロス像は、埋葬や奉納のための彫像として作られ、コレー像は、アテネのアクロポリス博物館にあるような、繊細な衣装のドレープが特徴です。

古典期

古典期には、ギリシア彫刻に大きな変革が起こりました。現実的な人間の形を描写する技術が劇的に向上し、彫刻の体型や機能が変化しました。ポーズもより自然主義的になり、コントラポストの初期の例であるクリティオスの少年やデルポイの御者は、その代表的な作品です。紀元前500年頃から、ギリシア彫刻は、神話の曖昧な解釈や架空の奉納像ではなく、現実の人々を描写するようになりました。アテネに設置されたハルモディオスとアリストゲイトンの像は、個人の肖像を表した最初の公共記念碑と言われています。古典期には、アテネのパルテノン神殿やオリンピアのゼウス神殿などの神殿で、フリーズを飾るレリーフ彫刻やペディメントの妻壁を埋める円形の彫刻が用いられました。これらの作品は、高度な技術と芸術的な革新性を示しています。葬式用の彫像も、アルカイック期の硬直的なクーロス像から、より個人的で感情的な家族の集団像へと進化しました。この時期には、彫刻家の芸術的な名声も高まり、ペイディアスやプラクシテレスなどの優れた彫刻家が登場しました。

ヘレニズム期

ヘレニズム時代には、ギリシア芸術は多様化し、アレキサンダー大王の征服によってギリシャ領に取り込まれた人々の文化の影響を受けました。この時代の彫刻は、より自然主義的になり、一般の人々、女性、子供、動物、家庭の情景なども描かれるようになりました。彫刻は、もはや美の理想や完璧な肉体を表現するだけでなく、人々の感情や生活を写し出すようになりました。この時代には、サモトラケのニケ、ミロのヴィーナス、瀕死のガラテア人、ラオコーン像など、多くの有名な彫刻が制作されました。ヘレニズム彫刻は、古典期の厳粛さよりも感覚的で感情的な表現が特徴です。また、ヘレニズム彫刻は、その大きさが特徴で、ロドス島の巨像のように、非常に大きな彫刻も制作されました。

偶像

古代ギリシア・ローマの神殿には、通常、小広間（Cella）に偶像が安置されていました。偶像は、神の立像で、多くは実物大かそれ以上の大きさで、大理石やブロンズで作られていました。特に有名なのは、オリンピアのゼウス像とアテネのパルテノン神殿のアテーナー・パルテノス像ですが、これらの巨大な彫像は失われてしまいました。偶像は、通常、識別できる象徴物を持ち、神殿の他の彫像と区別されていました。

アクロリスは、木製の体にコストを抑えた複合型の像です。ゾアノンは、原始的で象徴的な木製の像で、古代から保管され崇拝されていました。古代ローマの大理石の複製品として知られるギリシア彫像の多くは、神殿の偶像でした。

衣装像

古代ギリシアの彫刻では、女性は通常、ドレープの美しい衣装をまとって表現されました。一方、男性は、裸体で描かれることが多く、特にクーロス像のように、理想的な男性美を追求した作品が見られました。

特徴

古代ギリシアの彫刻では、男性のペニスは小さく表現されるのが一般的でした。これは、ペニスが大きいと、愚かさや色欲、醜さを連想すると考えられていたためです。また、彫刻を屋外に展示する際に、鳥の糞をよけるために、頭に円盤型の器具（Meniskos）が取り付けられることもありました。

古代ギリシアの彫刻は、その芸術性と技術的な高さから、今日でも多くの人々に愛されています。それぞれの時代において、異なる特徴を持つこれらの彫刻は、古代ギリシアの文化や社会を理解する上で、貴重な資料となっています。

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