古市胤栄

古市胤栄（ふるいち いんえい）：室町・戦国期の僧にして武将

古市胤栄は、室町時代中期から戦国時代にかけて、大和国（現在の奈良県）で活躍した僧であり、武将でもありました。興福寺の衆徒として、地域社会に大きな影響力を持っていた人物です。父は古市胤仙、弟に澄胤がいます。

生涯

1453年に父・胤仙が亡くなった後、家督を継ぎました。1455年、筒井氏の衰退に伴い、豊田氏、小泉氏らと共に官符衆徒棟梁に任命され、一族の山村胤慶が代官を務めました。1465年に出家し胤栄と改名。翌年、斯波義廉から所領を与えられ、主従関係を結んだと考えられています。

当時の大和国は、畠山氏の内紛によって二つに分かれ、国人たちは畠山義就と畠山政長を支持して争っていました。胤栄は越智家栄と共に義就を支持し、1467年の応仁の乱では義就方として上洛し、政長派の筒井順永らと戦いました。

胤栄は、一族や家臣に対する統制を強化しました。1466年には不和となった山村胤慶を追放（半年後に赦免）。1470年には騒乱を起こした被官を処刑し、一族を含めた30人を追放しました。処分された中には、古市氏と同格の家柄の者も含まれていましたが、興福寺は公的機関として、この処分に異議を唱えることはできませんでした。

領地は6万石とされていましたが、1475年の春日社頭の戦いで敗れたのを機に、弟の澄胤に家督を譲りました。これは、胤栄の強引な統制に対する批判を避ける意味合いもあったとされています。隠居後は「古市西」と称し、1477年には澄胤と共に合戦に出陣しています。1505年に67歳で亡くなりました。

文化人としての一面

胤栄は風流人としても知られ、「淋汗茶湯」と呼ばれる風呂と茶を楽しむ集いを催しました。村田珠光に茶の湯を学び、澄胤と共に茶道の発展に貢献しました。古市氏の後裔は、江戸時代に小笠原総領家（小倉藩主）の茶道頭を務めたため、小笠原家茶道古流の祖として名を連ねています。風流踊も好み、9歳の時には囃子手を務めました。1469年には風呂釜の修理費用を捻出するため、当時禁止されていた風流踊の小屋を作り、入場料を取ったところ、3千人もの人々が集まるほどの盛況ぶりだったそうです。

系譜

古市氏は、天武天皇を祖とする由緒ある家柄です。

まとめ

古市胤栄は、戦国時代の激動期に、武将として、また文化人として活躍した人物でした。その生涯は、戦乱の世を生き抜く武士の姿と、茶の湯や風流踊を愛する文化人の姿を併せ持っていました。

参考文献

朝倉弘『奈良県史11 大和武士』名著出版、1993年
石田晴男『戦争の日本史9 応仁・文明の乱』吉川弘文館、2008年
熊倉功夫『茶の湯の歴史 千利休まで』朝日新聞社、1990年
呉座勇一『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』中央公論新社、2016年
末宗廣『茶人系譜』河原書店
田中慶治「中世後期畿内国人層の動向と家臣団編成 -大和国古市氏を中心に-」『中世後期畿内近国の権力構造』清文堂出版、2013年
西坊義信『古市氏系図続』私家版、2015年
西坊義信『西坊家口伝集続々』私家版、2015年
* 宮帯出版社編集部 編「茶道家元系譜」『茶湯手帳』宮帯出版社

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