台湾鉄路管理局EMU100型電車

EMU100型電車：台湾初の電車特急「自強号」

EMU100型電車は、台湾鉄路管理局（台鉄）が1978年に導入した、初の電車特急「自強号」用車両です。イギリスのゼネラル・エレクトリック・カンパニー（GEC）とブリティッシュ・レール・エンジニアリング（BREL）によって製造されました。その外観から、台湾の鉄道ファンには「英国の貴婦人」という愛称で親しまれています。

導入の背景

1977年、台湾西部幹線の電化に伴い、台鉄はアメリカのゼネラル・エレクトリック社からE200型、E300型電気機関車を導入すると同時に、イギリスのGECからE100型電気機関車と13編成65両のEMU100型電車を導入しました。EMU100型は、GECとBRELの共同開発によって、1977年2月からイギリスのヨークにあるBRELホルゲート・ロード工場で製造されました。1978年1月から10月にかけて台湾に輸送され、試運転を経て、同年8月15日に初代「自強号」として営業運転を開始しました。それまで「光華号」として運行していたDR2700型気動車を置き換える形となりました。

導入当初のトラブルと改善

しかし、営業運転開始からわずか1ヶ月も経たないうちに、空調やモーターの故障、電源車の主変圧器の重量オーバー、台車の強度不足など、列車の安全運行に支障をきたす問題が多発しました。そのため、EMU100型は一旦全車運行を中止し、台鉄とBRELによる整備が行われた後、1979年1月2日に営業運転を再開しました。同年7月1日の西部幹線全線電化完成に間に合わせることができました。

時速120キロで台北駅と高雄駅の間を4時間10分で走り、DR2700型気動車時代の記録を更新しました。

車両の構成と設計

EMU100型は1編成5両で構成され、ユニット比は1M4Tです。通常は2編成併結の10両編成で運用されますが、多客時には3編成併結の15両編成で運用されることもありました。編成は、高雄方から順に制御車のEP100型、中間電動車のEM100型、中間付随車のET100型2両、そして台北方制御車のED100型となっています。

車体は、イギリス国鉄のインターシティ列車に使用されるマーク2客車をベースとしており、普通鋼製で車体裾を絞った断面形状が特徴です。塗装は黄色、クリーム色、褐色の3色で構成されていましたが、1981年の頭前渓事故をきっかけに、視認性向上のため先頭部がオレンジと黄色の警戒色に変更されました。ただし、2編成は2009年のリバイバル運転時に登場時の塗装に戻されました。後に、EMU200型とEMU300型も同様の塗装が施されることになりました。

各車両には手動ドアが1箇所設けられ、客室前方両側には非常口が設置されています。当時、空調機器の小型化には限界があり、通路に設置されていました。また、1ドアのため乗降に時間がかかりました。この反省から、後継のEMU200型やEMU300型では、空調設備が天井に設置されました。

客室設備

客室内には、フランスのコパン社製のリクライニングシートが2+2列で配置されています。シートピッチは1,150ミリで、角度と向きを変えることができます。座席上方には乗務員呼び出しボタンが設置されていましたが、台鉄の人件費削減によりサービスは休止されました。

1991年には、日本のグリーン車に似た商務車（ビジネスクラス）の運用が試みられましたが、1992年に廃止され、元の配置に戻されました。

主要機器

主電動機は、GEC製の出力1275キロワットの直流直巻電動機で、吊り掛け駆動方式が採用されています。電動車が1両しか連結されていないため、故障時には補助機関車による救援が必要となることが多く、後継のEMU200型やEMU300型では、冗長性確保のため電動車は2両連結されるようになりました。

台車は、BREL製のB.R BX1型シェブロン式台車を装着しています。制動装置は、ウェスティングハウス・ブレーキ・アンド・シグナル製の電気式および空気式ブレーキを採用しています。

集電装置は、50EP100形に1基搭載されており、登場時は下枠交差型でしたが、2000年以降はシングルアーム式に交換されました。

保安装置は、登場時は自動列車警報装置（AWS）と自動列車停止装置（ATS-SNおよびATS-P）を備えていましたが、幾度の列車事故を経て、2006年にボンバルディア社製の列車自動保護システム（ATP）と列車無線が導入され、元のAWSは撤去されました。

各形式

50EP100型: 高雄方制御車（パンタグラフ付き）
55EM100型: 中間電動車
40ET100型: 中間付随車
40ED100型: 台北方制御車（パンタグラフなし）

運用と引退

EMU100型は、主に西部幹線で運用され、台湾の鉄道輸送に貢献しました。しかし、老朽化と後継車の導入により、2009年に定期運用から引退しました。その後は、日曜日限定で1往復の自強号として使用されたり、多客時の臨時列車、定期列車の代走などで運用されていました。また、台北機廠の職員専用通勤列車としても使用されていました。

2012年1月31日、台北機廠と松山駅間の連絡線が寸断されたことで、職員用通勤列車としての運用を最後に、全車が運用から離脱しました。

その後、2013年には基隆で開催されたラバー・ダック展示イベントにあわせて、臨時自強号として復活運行されました。また、2018年には誕生40周年を記念して、民間鉄道サークル主催の特別列車が南港駅と台東駅の間で運行されました。

保存と現状

現在、3編成15両が運用可能な状態で、他の車両は休車または廃車となっています。一部の車両は、事故廃車となっています。また、1編成は、鉄道文化保存展覧として静態保存が予定されています。

重大事故

EMU100型は、営業運転開始以来、踏切事故が多発しました。主な事故としては、以下のようなものが挙げられます。

1979年10月1日：左営駅での信号冒進による貨物列車との追突事故
1981年3月8日：頭前渓橋梁での脱線転覆事故（頭前渓事故）
1991年11月15日：造橋駅手前の信号場での衝突事故
1994年3月18日：大肚駅 - 龍井駅間の踏切での衝突事故
* 1994年6月22日：新竹駅での信号冒進による貨物列車との衝突事故

これらの事故で、多数の死傷者が出ました。特に、頭前渓事故は大きな惨事となり、EMU100型の安全対策が強化されるきっかけとなりました。

まとめ

EMU100型電車は、台湾の鉄道史において重要な役割を果たした車両です。導入当初は様々なトラブルに見舞われましたが、台湾の鉄道輸送の発展に大きく貢献しました。現在では、その多くが引退しましたが、一部の車両はイベント列車や保存車両として活躍しており、その姿を今も見ることができます。

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