鷹司信子

鷹司信子（たかつかさ のぶこ）とは

鷹司信子（1651年 - 1709年）は、江戸幕府第5代将軍・徳川綱吉の正室（御台所）であり、院号を浄光院といいます。公家である左大臣・鷹司教平の娘として生まれ、兄に関白・鷹司房輔、妹に霊元天皇の中宮・鷹司房子がいる名門の出身です。また、3代将軍・徳川家光の正室・鷹司孝子は信子の大叔母にあたり、6代将軍・徳川家宣の正室・近衛熙子は再従妹にあたるなど、徳川家と縁戚関係が深い家柄でした。

生涯

信子は、幼名を小石君といい、京都で生まれました。1663年、当時館林藩主であった徳川綱吉との縁組が発表され、翌年、婚礼を挙げました。綱吉との間には子宝に恵まれませんでしたが、能を鑑賞したり、祭礼を見物するなど、夫婦で行動を共にすることが多かったようです。これは、綱吉が側室との間に子を儲けた後も変わりませんでした。

1680年、綱吉が将軍に就任すると、信子は江戸城大奥に入ります。1684年には、綱吉の側室の子である鶴姫が紀州藩主世子に嫁ぐ際、信子は自身の家を通じて、新上西門院付きの元女房であった右衛門佐を人選し、鶴姫付きの上臈として随行させました。この右衛門佐は後に江戸城へ戻り、綱吉付きの筆頭上臈御年寄として大奥を取り仕切る重要な役割を担いました。

1691年には、ドイツ人医師のエンゲルベルト・ケンペルが江戸城で綱吉と面会した際、信子の姿を垣間見ています。ケンペルは信子について、「小麦色の丸顔の美しい御方で、ヨーロッパ的な活々したぱっちりとした黒目が印象に残った。お姿から測れば背はかなり高く、御年は36歳位と思われた」と記録しています。また同年には、姪孫にあたる鷹司輔信の娘・八重姫（徳川吉孚の正室）を引き取り養育しました。

1709年、綱吉が死去すると、信子は落飾して浄光院と号しましたが、綱吉の死から1ヶ月も経たないうちに亡くなりました。享年59歳。戒名は浄光院殿円巌珠心大姉。墓所は東京都台東区の寛永寺にあります。死因は夫綱吉と同じく、成人麻疹（はしか）であったと伝えられています。

人物像と逸話

信子の人物像については、綱吉の生母である桂昌院とは不仲であったという説があります。また、綱吉との夫婦仲についても、子宝に恵まれなかったことから不和であったとする説も存在しますが、確たる証拠はありません。側室であるお伝の方が世嗣・徳松の生母として権勢をふるったことも、信子が快く思っていなかったという見方もありますが、これも史実的な根拠はないとされています。

綱吉と信子が相次いで急逝したことから、綱吉は信子と御台所付御年寄の伊豆局によって殺害され、信子はその後自害したという俗説も存在します。しかし、この説は信憑性に乏しいと考えられています。

関連作品

信子を題材にした、または信子が登場する作品は以下の通りです。

小説

最悪の将軍（朝井まかて著）

漫画

愛の大奥 牡丹の章「犬将軍綱吉への復讐」（良歩五郎（原作）、富沢みどり（作画））
大奥（よしながふみ著）※男女逆転設定

映画

徳川女系図（三浦布美子演）
大奥〜永遠〜［右衛門佐・綱吉篇］（宮藤官九郎演）※男女逆転設定、役名は信平

テレビドラマ

大奥（藤田佳子演）
怪談（大奥あかずの間）（扇千景演）
日本名作怪談劇場（大奥○秘開かずの間）（雪代敬子演）
大奥（司葉子演）
八代将軍吉宗（松原智恵子演）
元禄繚乱（涼風真世演）
大奥（佐藤綾演）
大奥〜華の乱〜（藤原紀香演）
水戸黄門（第38部）（飯島順子演）
* 大奥（本多力演）※男女逆転設定、役名は信平

このように、鷹司信子は、歴史上の人物としてだけでなく、様々な創作物の中で描かれることで、その人物像がより多角的に捉えられています。彼女の生涯は、江戸時代の大奥という特殊な環境における女性の生き方、そして将軍の正室としての役割を考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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