吉田学

吉田学：海上自衛隊の近代化を牽引した先見の明

吉田学（よしだ まなぶ）は、1927年（昭和2年）に生まれ、2011年（平成23年）に逝去した、日本の海軍軍人、海上保安官、そして海上自衛官です。最終階級は海将で、第15代海上幕僚長を務めました。彼は、海上自衛隊におけるイージス艦導入を主導した人物として、その名を知られています。

海軍から海上保安庁へ、そして海上自衛隊へ

岐阜県出身の吉田は、旧制恵那中学校から海軍兵学校へ入校しました。当初は零戦パイロットを目指していましたが、終戦により海軍兵学校は閉校、最後の卒業生となりました。その後、復員業務に従事し、海上保安庁の前身である不法入国船舶監視本部に籍を置きました。二等海曹の待遇で巡視船に乗組むことになります。

1948年（昭和23年）に海上保安庁が発足すると、吉田は海上保安官として勤務。1952年（昭和27年）には海上警備隊の発足に伴い、海上自衛官へと転官しました。海上自衛隊では、主に艦艇勤務を経験し、中央では海幕防衛班長や防衛部長などの要職を歴任しました。

海上防衛力の強化への尽力

防衛班長時代には、周辺海域の海上防衛能力強化を目指し、全通甲板型のヘリコプター搭載大型護衛艦（DLH）を計画しましたが、これは実現しませんでした。しかし、防衛部長時代には、米海軍との共同対処能力向上に尽力し、1980年（昭和55年）の環太平洋合同演習（リムパック）に部隊を初参加させることに成功しました。大湊地方総監、海幕副長を経て、第15代海上幕僚長に就任します。

イージス艦導入への情熱

海上幕僚長として、吉田は海上自衛隊の将来を見据え、海上防衛力の強化に尽力しました。シーレーン1,000海里防衛構想に基づき、軽空母やシーハリアーなどの装備導入を模索する中で、際立った防空能力を持つイージス艦に注目します。当時、予算面では増額が認められていましたが、アメリカからのイージスシステム供与交渉は難航していました。

吉田は、アメリカ海軍作戦部長のジェームズ・ワトキンス大将に、毎週のように説得の手紙を送り続けました。この熱意が実り、当初は旧型システムの提案だったものが、最終的には最新型のシステム導入へと繋がりました。リチャード・アーミテージ国防次官補代理の同意も取り付け、夏目晴雄防衛事務次官の最終同意を得て、イージスシステムの導入が進められることになりました。吉田の退官から8年後の1993年（平成5年）、海上自衛隊初のイージス艦「こんごう」が就役し、彼の努力が実を結びました。

その生涯と功績

吉田学は、海軍から海上自衛隊への変遷期を生き抜き、激動の時代の中で、日本の海上防衛に大きく貢献しました。彼の先見の明と粘り強い交渉力は、今日の海上自衛隊の発展に不可欠なものであったと言えるでしょう。彼の功績は、勲二等瑞宝章の受章によっても称えられています。

年譜

1943年（昭和18年）12月1日：海軍兵学校入校
1945年（昭和20年）8月15日：海軍兵学校在籍中に終戦
1945年（昭和20年）10月1日：海軍兵学校閉校により卒業（第75期）
1945年（昭和20年）12月：復員輸送に従事
1947年（昭和22年）9月：不法入国船舶監視本部（海上保安庁の前身組織）巡視船乗組
1948年（昭和23年）5月1日：海上保安庁発足により、海上保安官となる。
1952年（昭和27年）6月15日：海上警備隊に転官（3等海上警備士）
1954年（昭和29年）8月：第2護衛隊付
1955年（昭和30年）12月：舞鶴地方総監部総務部総務課
1957年（昭和32年）7月：護衛艦「まき」対潜長
1958年（昭和33年）2月：海上幕僚監部総務部総務課
1960年（昭和35年）8月：護衛艦「はるさめ」砲雷長（12月から兼副長）
1961年（昭和36年）12月：練習艦隊司令部
1963年（昭和38年）12月：海上幕僚監部防衛部防衛課
1965年（昭和40年）1月：2等海佐昇任
1966年（昭和41年）7月：護衛艦「はつひ」艦長
1968年（昭和43年）12月：自衛艦隊司令部幕僚
1970年（昭和45年）1月1日：1等海佐昇任
1970年（昭和45年）4月1日：海上幕僚監部防衛部防衛課
1972年（昭和47年）3月16日：海上幕僚監部防衛部防衛課防衛班長
1973年（昭和48年）6月1日：第5駆潜隊司令
1974年（昭和49年）8月16日：横須賀地方総監部管理部長
1975年（昭和50年）8月1日：海上幕僚監部総務部総務課長
1976年（昭和51年）7月1日：海将補昇任
1977年（昭和52年）4月1日：第6代 第4護衛隊群司令に就任
1979年（昭和54年）3月22日：海上幕僚監部防衛部長
1979年（昭和54年）7月1日：海将昇任
1980年（昭和55年）7月1日：第18代 大湊地方総監に就任
1981年（昭和56年）7月1日：第16代 海上幕僚副長に就任
1983年（昭和58年）4月26日：第15代 海上幕僚長に就任
1985年（昭和60年）8月1日：退官
1997年（平成09年）4月29日：勲二等瑞宝章受章
2011年（平成23年）6月7日：呼吸不全のため逝去（84歳没）、叙・正四位。

参考文献

『世界の艦船』2002年5月増刊号 海上自衛隊の50年（海人社）
『海の友情』阿川尚之 著（中公新書）2001年
オーラル・ヒストリー四次防までの防衛力整備計画と日米安保体制の形成（防衛省防衛研究所戦史研究センター 編）

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