吉野 (鹿児島市)

鹿児島市吉野：歴史と自然が織りなす多様な地域

鹿児島市の北東部に位置する吉野は、吉野町と吉野一丁目から四丁目で構成され、人口は約3万6千人を超える地域です。この地は、豊かな自然と歴史的遺産が共存し、多様な顔を持つ地域として知られています。

地理

吉野は、市街地の北東に位置し、稲荷川上流域に広がります。北は川上町や宮之浦町、姶良市に接し、南は清水町や祇園之洲町と隣接。東は鹿児島湾に面しています。特徴的な地形として、牟礼ヶ岡、寺山、磯山などの山々があり、関屋谷などの谷、稲荷川、磯川、花倉川などの河川が流れています。

地形と土地利用

吉野町の大部分は吉野台地と呼ばれるシラス台地で、標高150mから350mに位置します。この台地は平坦で起伏が少なく、古くから野菜や花木の供給地として利用されてきました。都市型農業が盛んで、軟弱野菜や鉢物の栽培、造園業が活発です。また、甲突川沿岸で開催される木市は、吉野村の職人が植木を販売したのが起源とされています。

一方、東部の錦江湾沿岸部には、国道10号と日豊本線が並行して走り、平松、竜ヶ水、花倉、三船の各地区が点在します。特に竜ヶ水地区は、過去に水害が多く、8・6豪雨では土石流による甚大な被害を受けました。

歴史

吉野という地名は16世紀半ばの資料に初めて登場します。17世紀には、磯地区に薩摩藩主島津氏の別邸「仙巌園」が建設されました。19世紀には、集成館事業の一環として、仙巌園周辺に日本初の近代洋式工場群が建設され、これらの史跡は「明治日本の産業革命遺産」の一部として世界文化遺産に登録されています。薩英戦争後には、イギリス人技師を招き、紡績工場をはじめとする近代化工場が建設されました。

近世の吉野

江戸時代の吉野村は、鹿児島藩の近郊農村部として位置づけられ、鹿児島城下の食料を供給する役割を担っていました。村には複数の「方限」という自治組織があり、地域ごとに名主が置かれていました。また、竜ヶ水地区は、一時、大隅国の飛地となっていましたが、後に吉野村に編入されました。

明治以降の吉野

明治時代に入ると、廃藩置県によって吉野村は鹿児島県に属し、士族授産のために吉野開墾社が設立されました。また、磯地区には、天皇巡幸のための道路が整備され、海岸線沿いの道路建設も進められました。1889年には町村制施行により吉野村が成立し、1934年には鹿児島市に編入されました。第二次世界大戦前には、陸軍の演習場が設けられ、戦後には住宅開発が進められました。近年では、土地区画整理事業により道路拡幅や区画整理が行われ、住居表示も実施されています。

行政と地域区分

吉野町の沿岸部は鹿児島市役所本庁が、その他の地域は吉野支所が管轄しています。また、鹿児島市の総合計画では、沿岸部を「中央地域上町地区」、その他を「吉野地域」と区分しています。

災害と防災

吉野では、特に竜ヶ水地区を中心とした沿岸部で、過去に土石流などの災害が頻発しています。これは、シラス台地の構造と地形が原因で、大雨時に地下水位が上昇し、地盤が崩壊しやすいためです。1993年の8・6豪雨では、竜ヶ水駅が土石流に直撃され、多数の犠牲者が出ました。現在では、砂防施設の建設や異常気象時の通行規制など、防災対策が進められています。

竜ヶ水災害

1977年6月24日、竜ヶ水駅付近でシラス崖が崩壊し、9名が死亡しました。また、1993年8月6日の豪雨では、竜ヶ水地区を中心に29か所で土石流が発生し、18名が死亡。竜ヶ水駅は壊滅的な被害を受けました。

産業と経済

吉野では、農業、製造業、卸売業・小売業などが主な産業です。近年は、医療・福祉関係の就業者が増加しています。また、磯地区には、仙巌園や集成館などの観光施設があり、観光客も多く訪れます。

文化財

吉野には、多くの文化財があり、特に磯地区には、世界文化遺産に登録された旧集成館や旧鹿児島紡績所技師館、国の名勝である仙巌園などがあります。これらの文化財は、日本の近代化に大きな役割を果たしました。

世界文化遺産

「明治日本の産業革命遺産」として、旧集成館反射炉跡、旧集成館機械工場、旧鹿児島紡績所技師館、寺山炭窯跡が世界文化遺産に登録されています。これらの施設は、当時の日本の技術力を示す貴重な遺産です。

その他の文化財

吉野には、文禄三年島津氏分国太閤検地尺や木村嘉平関係資料、島津斉彬の銀板写真など、数多くの重要文化財があります。また、キイレツチトリモチ産地などの天然記念物も存在します。

交通

吉野の東部には国道10号と日豊本線が通り、竜ヶ水駅があります。西部は台地となっており、県道16号が縦貫しています。また、江戸時代には、薩摩街道の大隅路が吉野を通っていました。

教育施設

吉野には、鹿児島大学の教育学部施設や、特別支援学校、中学校、小学校、幼稚園など、様々な教育施設があります。

その他の情報

吉野には、島津興業の本社や鹿児島造園技術専門校、吉野支所などの公共施設、公園、神社、郵便局があります。

著名な出身人物

桐野利秋、別府晋介、川上操六など、歴史に名を残す人物を輩出しています。また、現代では、天文学者やサッカー選手、お笑い芸人も吉野出身です。

吉野は、歴史、自然、産業、文化など、多様な魅力を持つ地域です。過去の災害を教訓に、防災対策を進めながら、持続可能な地域社会の形成を目指しています。

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