名取和作

名取和作：実業家、富士電機製造初代社長、時事新報社社長

名取和作（1872年6月3日 - 1959年6月4日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家です。富士電機製造（現・富士電機）の初代社長、時事新報社社長などを務め、貴族院勅選議員にも選ばれました。写真家・編集者の名取洋之助は息子にあたります。

経歴

慶應義塾時代

1872年、名取和三郎の長男として、筑摩県諏訪郡上蔦木村（現在の長野県富士見町）に生まれました。実家は造り酒屋「桔梗屋」でしたが、松方デフレの影響で没落していました。

慶應義塾大学部理財科を卒業後、古河鉱業に入社。その後、慶應義塾の留学制度を利用してアメリカへ留学し、コロンビア大学で経済学を学びました。ドイツ、イギリスにも留学後、1902年に帰国し慶應義塾大学部の経済学教授に就任。教授時代に朝吹英二の長女ふくと結婚しました。

1908年、実業家への転身を志し大学教授を辞任しました。

富士電機製造初代社長

1908年、東京電灯に入社し倉庫課長となります。1909年には渋沢栄一を団長とする「渡米実業団」の一員として再びアメリカへ。帰国後、営業課長に転じますが、社風に馴染めず1916年に退社。その後、日本絹布株式会社の常務取締役に就任し、鐘淵紡績の取締役に転じました。

第一次世界大戦後、古河鉱業がドイツの電機メーカー、シーメンスと提携し合弁会社を設立することになり、鐘淵紡績の取締役であった名取に白羽の矢が立ちます。古河合名会社社長の古河虎之助から新会社社長への就任を要請され、経営一切を委ねられることを条件に承諾。

1923年、古河・シーメンスの合弁会社として富士電機製造株式会社が設立され、名取は初代取締役社長兼営業部長に就任しました。しかし、赤字経営が続き、1930年には人員整理を余儀なくされました。

1931年、名取は富士電機製造社長を退任。経営状態が悪化した時事新報社の経営を引き受けるためでした。社長職を吉村萬治郎に譲り、自身は相談役となりました。

富士電機製造社長在任中には、岐阜電力の取締役や東邦電力の取締役も兼任しています。また、長野県の電力会社、長野電灯の小坂順造の依頼で信濃電気、信越窒素肥料（現・信越化学工業）の社長も務めました。

時事新報社社長就任

1928年、名取は時事新報社の取締役に就任。同社は福澤諭吉が創刊した新聞「時事新報」の発行元でしたが、経営難が続いていました。1931年、社長に就任しますが、赤字経営は改善せず、武藤山治に経営を委ね1932年に社長を退任しました。

時事新報社社長辞任後は、複数の企業で取締役や監査役を務めました。古巣の富士電機製造では監査役、東邦電力では取締役、信越窒素肥料では取締役に再任。その他、千代田生命保険や大日本製糖、三越でも役員を務めています。

戦後の貴族院議員就任

太平洋戦争終戦後の1946年、公職追放による欠員補充として貴族院勅選議員に任命され、貴族院廃止まで在任しました。

財界では、三越の監査役、信越化学工業の取締役、千代田生命保険の監査役などを務めました。1959年6月4日、老衰のため死去。87歳没。死後、正五位・勲三等瑞宝章が追贈されました。

人物

実家は甲州街道の蔦木宿で造り酒屋を営んでいました。妻は慶應義塾の先輩にあたる朝吹英二の長女ふく。息子には富士電機に勤めた木之助、写真家の洋之助、毎日新聞に勤めた壌之助がいます。

邸宅は神奈川県の国府津に構え、趣味の読書を楽しんでいたそうです。出身校慶應義塾へ多額の寄付を続け、三田キャンパスには旧宅を移設した「名取ハウス」と呼ばれる洋館を建設しました。

名取和作は、激動の時代を生き抜き、様々な分野で才能を発揮した人物でした。

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