土屋啓之助
土屋 啓之助（つちや けいのすけ）は、1924年11月20日に東京府で生まれた日本の映画監督、脚本家です。没年は明らかになっていません。
彼は、歌舞伎長唄方の家元という伝統ある家庭に生まれました。太平洋戦争に出征し、終戦後に復員。実家の家業は兄である人間国宝・芳村伊十郎氏が継いだため、幼い頃から映画に惹かれていた土屋氏は「好きなことをやろう」と決意します。昭和20年代の半ば頃、映画界への第一歩として新東宝の助監督募集広告に応募し、映画製作の道へと足を踏み入れました。
新東宝時代には、『戦艦大和』、『アツカマ氏とオヤカマ氏』、『女真珠王の復讐』、『金語楼のお巡りさん』など、多くの作品で助監督として経験を積みます。そして1958年には『天下の副将軍 水戸漫遊記』で脚本を、1960年には『肉体の野獣』で脚本と監督を兼任し、監督デビューを果たしました。また、同年にはカルト的な人気を誇る中川信夫監督の『地獄』で助監督を務めています。
1961年に新東宝が倒産すると、土屋氏は東映テレビ部へ招かれて移籍します。ここでは、テレビドラマ『新諸国物語 紅孔雀』や『特別機動捜査隊』（NET）などを監督し、映画とは異なるテレビ番組の制作進行にも柔軟に対応しました。新東宝で鍛えられた経験が、テレビのタイトなスケジュールをこなす上で役立ったといいます。
1963年には、かつて新東宝系だった国際放映から熱心な誘いを受け、同社へ移ります。TBSのスポーツドラマ『チャンピオン太』などを監督。翌1964年には、国際放映制作の特撮番組『忍者部隊月光』（フジテレビ）で監督を務め、同年には東映で製作された映画版も監督しました。
土屋氏のキャリアにおいて、ピー・プロダクションとの関係は特筆すべきものです。1966年、ピープロのうしおそうじ氏からの依頼で、『マグマ大使』のパイロットフィルムの手直しを担当したことがその始まりでした。本来演出予定だった監督が降板したため、急遽手塚治虫の原作漫画を元に脚本執筆から参加し、テレビシリーズ第1話以降、前半クール（26話）のほとんどを手がけました。特に『マグマ大使』は、30分番組でありながら複数話をまとめて撮影するという過密スケジュールでしたが、土屋氏は東映テレビ部時代に経験したさらに過酷な撮影に比べれば「鍛えられたから平気だった」と語っています。うしおそうじ氏は、土屋氏を「決まった予算で何でも作れる、とても器用でありがたい監督だった」と高く評価しています。一方、土屋氏自身は「新東宝自体がそういう会社だった」「低予算には慣れている」「だから皆、巨匠には成れないんですよ」と苦笑交じりに語り、自らを謙遜していました。
ピープロ以外でも、1967年には東急エージェンシーに招かれて京都に赴任し、TV特撮『怪獣王子』（フジテレビ）の本編全26話を監督しました。この作品では主題歌の作詞も担当し、一部戦闘機パイロット役でエキストラ出演もこなしています。大戦経験を持つ土屋氏のセンスが、劇中に登場するレインジャー部隊に活かされたといい、本人も米国テレビ番組『コンバット！』の影響を語っています。1968年には円谷特技プロで『戦え! マイティジャック』（フジテレビ）を監督しました。
1971年には再びピープロでTV特撮『宇宙猿人ゴリ』（後に『スペクトルマン』と改題）を監督。メイン監督として最終回までこの人気シリーズを牽引しました。翌1972年にはピープロの特撮時代劇『快傑ライオン丸』や、C.A.L制作のテレビ時代劇『木枯し紋次郎』にも参加するなど、特撮と時代劇の間を股にかけて活躍します。
1973年にはユニオン映画の時代劇『伝七捕物帳』（日本テレビ）や、国際放映の特撮『魔人ハンター ミツルギ』（フジテレビ）を手がけました。1976年以降も、ダックスインターナショナルのアニメ『まんが世界昔ばなし』（TBS）や『金髪のジェニー』、『さすらいの少女ネル』（東京12チャンネル）、東洋エージェンシー・ナックの特撮『バトルホーク』（東京12チャンネル）、和光プロの切り絵アニメ『妖怪伝 猫目小僧』（東京12チャンネル、総監督）など、アニメ、特撮、時代劇といった子供向けから一般向けまで、実に多様なジャンルの作品を精力的に監督しました。
土屋氏は子供番組の制作について、「色々な事が出来なければいけない」「アイディアが勝負」「無駄な予算を使わないため」と語り、常に新しい工夫を凝らすことの重要性を説いています。ロケ地探しを自ら行うほどドライブが好きで、プロデューサーのうしお氏からは「地震のシーンを撮るのが芸術的に上手い人だった」と評されています。
『忍者部隊月光』の撮影中には火薬を使ったシーンで爆発事故に遭い、火傷を負うというアクシデントに見舞われました。また、同作にゲスト出演した声優の広川太一郎氏から、出番の短さについて直接文句を言われたというユーモラスなエピソードも残っています。
新東宝時代の知人で殺陣師の渡辺高光氏が主宰するジャパン・ファイティング・アクターズ（JFA）の顧問を務めており、自身の監督作品である『忍者部隊月光』、『マグマ大使』、『怪獣王子』ではJFAが殺陣を担当するなど、古くからの縁も大切にしていました。
歌舞伎の名門に生まれながら、戦後日本の大衆文化である映画、そしてテレビへと活動の場を移し、特に黎明期から成長期のテレビ番組において、特撮、時代劇、アニメなど幅広いジャンルでその手腕を発揮した、日本の映像史における多才なクリエイターの一人です。
彼は、歌舞伎長唄方の家元という伝統ある家庭に生まれました。太平洋戦争に出征し、終戦後に復員。実家の家業は兄である人間国宝・芳村伊十郎氏が継いだため、幼い頃から映画に惹かれていた土屋氏は「好きなことをやろう」と決意します。昭和20年代の半ば頃、映画界への第一歩として新東宝の助監督募集広告に応募し、映画製作の道へと足を踏み入れました。
新東宝時代には、『戦艦大和』、『アツカマ氏とオヤカマ氏』、『女真珠王の復讐』、『金語楼のお巡りさん』など、多くの作品で助監督として経験を積みます。そして1958年には『天下の副将軍 水戸漫遊記』で脚本を、1960年には『肉体の野獣』で脚本と監督を兼任し、監督デビューを果たしました。また、同年にはカルト的な人気を誇る中川信夫監督の『地獄』で助監督を務めています。
1961年に新東宝が倒産すると、土屋氏は東映テレビ部へ招かれて移籍します。ここでは、テレビドラマ『新諸国物語 紅孔雀』や『特別機動捜査隊』（NET）などを監督し、映画とは異なるテレビ番組の制作進行にも柔軟に対応しました。新東宝で鍛えられた経験が、テレビのタイトなスケジュールをこなす上で役立ったといいます。
1963年には、かつて新東宝系だった国際放映から熱心な誘いを受け、同社へ移ります。TBSのスポーツドラマ『チャンピオン太』などを監督。翌1964年には、国際放映制作の特撮番組『忍者部隊月光』（フジテレビ）で監督を務め、同年には東映で製作された映画版も監督しました。
土屋氏のキャリアにおいて、ピー・プロダクションとの関係は特筆すべきものです。1966年、ピープロのうしおそうじ氏からの依頼で、『マグマ大使』のパイロットフィルムの手直しを担当したことがその始まりでした。本来演出予定だった監督が降板したため、急遽手塚治虫の原作漫画を元に脚本執筆から参加し、テレビシリーズ第1話以降、前半クール（26話）のほとんどを手がけました。特に『マグマ大使』は、30分番組でありながら複数話をまとめて撮影するという過密スケジュールでしたが、土屋氏は東映テレビ部時代に経験したさらに過酷な撮影に比べれば「鍛えられたから平気だった」と語っています。うしおそうじ氏は、土屋氏を「決まった予算で何でも作れる、とても器用でありがたい監督だった」と高く評価しています。一方、土屋氏自身は「新東宝自体がそういう会社だった」「低予算には慣れている」「だから皆、巨匠には成れないんですよ」と苦笑交じりに語り、自らを謙遜していました。
ピープロ以外でも、1967年には東急エージェンシーに招かれて京都に赴任し、TV特撮『怪獣王子』（フジテレビ）の本編全26話を監督しました。この作品では主題歌の作詞も担当し、一部戦闘機パイロット役でエキストラ出演もこなしています。大戦経験を持つ土屋氏のセンスが、劇中に登場するレインジャー部隊に活かされたといい、本人も米国テレビ番組『コンバット！』の影響を語っています。1968年には円谷特技プロで『戦え! マイティジャック』（フジテレビ）を監督しました。
1971年には再びピープロでTV特撮『宇宙猿人ゴリ』（後に『スペクトルマン』と改題）を監督。メイン監督として最終回までこの人気シリーズを牽引しました。翌1972年にはピープロの特撮時代劇『快傑ライオン丸』や、C.A.L制作のテレビ時代劇『木枯し紋次郎』にも参加するなど、特撮と時代劇の間を股にかけて活躍します。
1973年にはユニオン映画の時代劇『伝七捕物帳』（日本テレビ）や、国際放映の特撮『魔人ハンター ミツルギ』（フジテレビ）を手がけました。1976年以降も、ダックスインターナショナルのアニメ『まんが世界昔ばなし』（TBS）や『金髪のジェニー』、『さすらいの少女ネル』（東京12チャンネル）、東洋エージェンシー・ナックの特撮『バトルホーク』（東京12チャンネル）、和光プロの切り絵アニメ『妖怪伝 猫目小僧』（東京12チャンネル、総監督）など、アニメ、特撮、時代劇といった子供向けから一般向けまで、実に多様なジャンルの作品を精力的に監督しました。
土屋氏は子供番組の制作について、「色々な事が出来なければいけない」「アイディアが勝負」「無駄な予算を使わないため」と語り、常に新しい工夫を凝らすことの重要性を説いています。ロケ地探しを自ら行うほどドライブが好きで、プロデューサーのうしお氏からは「地震のシーンを撮るのが芸術的に上手い人だった」と評されています。
『忍者部隊月光』の撮影中には火薬を使ったシーンで爆発事故に遭い、火傷を負うというアクシデントに見舞われました。また、同作にゲスト出演した声優の広川太一郎氏から、出番の短さについて直接文句を言われたというユーモラスなエピソードも残っています。
新東宝時代の知人で殺陣師の渡辺高光氏が主宰するジャパン・ファイティング・アクターズ（JFA）の顧問を務めており、自身の監督作品である『忍者部隊月光』、『マグマ大使』、『怪獣王子』ではJFAが殺陣を担当するなど、古くからの縁も大切にしていました。
歌舞伎の名門に生まれながら、戦後日本の大衆文化である映画、そしてテレビへと活動の場を移し、特に黎明期から成長期のテレビ番組において、特撮、時代劇、アニメなど幅広いジャンルでその手腕を発揮した、日本の映像史における多才なクリエイターの一人です。
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