堅昆

堅昆：中央ユーラシア北部の遊牧民族

堅昆（けんこん、拼音: Jiānkūn）は、中央ユーラシア北部に存在したテュルク系遊牧民族です。歴史書においては、キルギズ（Qïrqïz）の転写と見なされ、時代や記録によって「鬲昆」「契骨」「居勿」「結骨」「紇骨」「紇扢斯」「黠戛斯」「戛戛斯」「吉利吉思」など、様々な表記で登場します。現代のキルギス人（天山キルギズ）と区別するため、「イェニセイ・キルギズ」と呼ばれることもあります。現在のハカス人の祖先にあたるとされています。

起源と初期の歴史

堅昆の起源は定かではありませんが、『周書』異域伝下には、突厥の起源と合わせて堅昆（契骨）の起源にも触れられています。中国の歴史書によると、紀元前1世紀頃、匈奴の郅支単于は内紛を避けるため西へ移動し、堅昆を征服、その地に都を遷したと記されています。この時代、堅昆は匈奴の支配下にありました。

漢代から突厥時代

漢代には匈奴の支配下にあった堅昆ですが、その後、突厥の台頭とともにその勢力圏に組み込まれ、服属と離反を繰り返しました。突厥の第三代木汗可汗の時代には、堅昆は突厥によって征服され、中央ユーラシア支配の一翼を担いました。

唐代

唐代には、堅昆は唐に朝貢を行い、太宗は堅昆府を設け、酋長である俟利発（イルテベル）とその子である失鉢屈阿棧を要職に任命しました。その後も、唐との関係は続き、何度か朝貢が行われました。しかし、8世紀後半には回紇（ウイグル）に敗れ、唐との交流は途絶えました。この頃からは黠戛斯（かつかつし）と呼ばれるようになり、回紇、大食（イスラーム帝国）、吐蕃、葛邏禄（カルルク）といった勢力と複雑な関係を築きながら、独自の勢力を維持しました。

回鶻の崩壊と黠戛斯可汗国の成立

回鶻可汗国が衰えると、黠戛斯（キルギス）の阿熱は可汗を称し、独立国家を樹立しました。840年頃には、回鶻の有力者である句録莫賀（キュリュグ・バガ）が黠戛スと結んで回鶻可汗国を滅ぼし、黠戛ス可汗国が成立しました。その後、唐との関係も続き、唐は黠戛スの君長を冊立しました。

モンゴル帝国時代

13世紀にはモンゴル帝国の支配下に入りますが、抵抗や反乱も起こしました。チンギス・カンは、キルギス族の服従を確実にするために軍事行動に出ました。また、モンゴル帝国の後継者争いにおいては、敗れた勢力がキルギスの地を退却地として利用しました。

堅昆・黠戛スの文化

堅昆・黠戛スの文化は遊牧民特有の様相を呈していました。服装は、君主や貴族は毛皮などを用いた豪華な衣服をまとい、一般民衆は皮やフェルト製の衣服を着用していました。食生活は肉や馬乳が中心で、君主のみが餅餌を食べたという記述もあります。結婚は、新郎が家畜を贈って嫁をもらう形で行われ、葬儀は火葬が行われていました。楽器や芸能も発達し、独自の暦も使用していたと考えられています。言語はテュルク系言語で、文字は突厥文字を使用していたようです。宗教はアニミズム的な信仰が中心で、「甘」（カム）と呼ばれる巫がいたとされます。人種的にはコーカソイド系が中心でしたが、モンゴロイド系の人々も存在し、彼らは漢の降将李陵の末裔であるとされていました。

地理的分布

堅昆の居住地は、バイカル湖周辺からジュンガル盆地、カザフ草原にまで広がっていたと推測されています。サヤン山脈を中心とした地域に分布していたという説もあります。

まとめ

堅昆は、中央ユーラシアの歴史において重要な役割を果たした遊牧民族でした。匈奴、突厥、唐、回鶻、モンゴル帝国など、様々な勢力と関わり合い、独自の文化を形成しながら、歴史の舞台に登場し続けました。彼らの歴史は、中央ユーラシアの複雑な民族移動と政治状況を理解する上で重要な鍵となります。 今後の研究によって、彼らの歴史や文化に関する理解はさらに深まるでしょう。

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