大天使ラファエルとトビアス (ティツィアーノ)

『大天使ラファエルとトビアス』：ティツィアーノ初期の傑作

ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1512年から1514年頃に制作された油彩画『大天使ラファエルとトビアス』は、旧約聖書外典の「トビト書」に記された物語を題材としています。ヴェネツィア派の巨匠であるティツィアーノの初期の作品として知られ、現在はヴェネツィアのアカデミア美術館に所蔵されています。

物語の背景

舞台はアッシリアのニネヴェ。信仰心の厚いユダヤ人トビトが盲目になった時、彼は息子トビアスに、遠方のメディアに貸したお金を回収するよう命じます。トビアスは旅の道案内人を探し、犬を連れて出発しますが、この案内人こそが神が遣わした大天使ラファエルでした。

旅の途中、彼らはティグリス川で野宿をしますが、ラファエルの助言に従い、トビアスは魚を捕まえます。魚の内臓を取り出すと、ラファエルは心臓、肝臓、胆嚢を保管するよう指示します。

その後、トビアスはエクバタナでサラという女性と出会いますが、彼女は悪魔アスモデウスに取り憑かれていました。ラファエルの助言により、トビアスは魚の心臓と肝臓を燃やして悪魔を追い払い、サラと結婚します。帰国後、トビアスは魚の胆汁で父の目を癒し、トビトは視力を回復しました。

絵画の詳細

絵画では、天使ラファエルが翼を広げ、トビアスを導く姿が描かれています。ラファエルは目的地の方角を指し示し、幼いトビアスの手を引いています。トビアスは捕まえた魚を手に持ち、ラファエルを見上げながら彼の後を歩いています。魚はトビアスにとっては大きすぎるため、地面を引きずるように斜めに傾き、尾鰭が地面を擦っています。

画面左下にはトビアスの白い犬が座っており、そのすぐそばには、絵画の発注者とされるベンボ家の紋章が岩に描かれています。背景には、ティツィアーノの初期作品『キリストの洗礼』にも見られる建築モチーフが描かれています。

ベンボ家の紋章が存在することから、この絵画が人文主義者ピエトロ・ベンボの一族によって依頼された可能性が示唆されています。ピエトロ・ベンボの姪がサンタ・カテリーナ教会の修道院で教育を受けていたことも、この説を裏付ける根拠となっています。ただし、この仮説を証明する史料は発見されていません。

17世紀の画家マルコ・ボスキーニは、この絵画がサンタ・カテリーナ教会の、大天使ラファエルに捧げられた祭壇の上に設置されていたと証言しています。この作品は、ティツィアーノが後に制作した『トビアスと天使』と関連付けられることもありますが、ヴァザーリによる記述は混乱が見られます。

この作品はティツィアーノの初期の作品とみなされており、制作時期は彼がドイツ人商館フォンダコ・デイ・テデスキにフレスコ画を描いた1510年代初頭以降とされています。

来歴

17世紀にマルコ・ボスキーニが言及しましたが、彼はこの絵画を無名の画家サント・ザゴの作品と誤って認識していました。しかし、17世紀のフランドル出身の画家ヴァレンティン・ルフェーブルは、ティツィアーノの作品としてエッチングによる複製画を制作しました。この複製画は、ルフェーブルの死後、1682年に出版されたエッチング集に収録されています。

1807年、ナポレオンによってサンタ・カテリーナ教会が廃絶されると、1815年にこの絵画はアカデミア美術館に収蔵されました。

まとめ

『大天使ラファエルとトビアス』は、ティツィアーノの初期の才能を示す傑作であり、「トビト書」の物語を鮮やかに描いた作品です。ヴェネツィアのアカデミア美術館で、その美しい姿を鑑賞することができます。

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