大奥 (漫画)

大奥

よしながふみによる漫画作品『大奥』は、江戸時代をモチーフにした架空の世界で、赤面疱瘡という疫病により男性人口が激減した社会を描いています。この世界では、女性が社会の中核を担い、徳川将軍家も女性が継承しています。

作品の特徴

本作は、歴史上の人物の性別を入れ替えるという大胆な設定が特徴です。例えば、徳川家光は女性として描かれ、春日局は男性として登場します。また、オランダ商館長の日記など史実に基づいた描写も盛り込まれており、フィクションと史実が巧みに融合したストーリーが展開されます。

掲載誌である『MELODY』の扉絵や柱には、「男女逆転！パラレル時代劇」「これは日本の江戸時代とは似て非なる物語」と明記されており、SF作品（歴史改変SF）として位置づけられています。

あらすじ

物語は、赤面疱瘡という奇病が蔓延し、男性人口が激減した世界が舞台です。この病は若い男性にのみ感染し、致死率が80%と非常に高いものでした。その結果、社会では女性が労働を担い、家業を継ぐようになり、将軍職も女性が引き継ぐことになります。大奥は、将軍が囲う美男3000人が暮らす女人禁制の場所として描かれています。

物語は、八代将軍・吉宗の時代を起点として、それ以前の出来事は、彼女が読む『没日録』という記録を通じて語られます。以下に、各将軍の時代ごとの簡単なあらすじをまとめます。

八代将軍・吉宗編

旗本の水野祐之進が、大奥入りし、吉宗のご内証の方に選ばれます。水野は藤波の策略で死罪となりますが、吉宗の計らいで町人の進吉として生きることになります。吉宗は、水野の一件などを機に、大奥の歴史を記した『没日録』を読み始め、旧弊に疑問を持ち始めます。

三代将軍・家光編

赤面疱瘡により急死した家光（男）の死を隠蔽し、春日局は家光の御落胤・千恵を身代わりに立てます。千恵は、世継ぎを産むために公家出身の美僧・有功を大奥入りさせますが、二人は互いに愛を育みます。春日局の死後、千恵は男名の家光を名乗り、男子不足に悩む大名家もこれに追随し、男名の女大名が誕生します。

四代将軍・家綱編

家綱は、政治を老中らに任せていましたが、ある夜、義父である有功への想いを告白します。有功はこれを拒絶し、出家します。

五代将軍・綱吉編

綱吉は、世継ぎの急死により再度の子作りを求められます。綱吉の父・桂昌院と大奥総取締・右衛門佐の権力争いも激化しますが、右衛門佐と結ばれ、父の呪縛を断ち切ります。その後、右衛門佐は死去し、綱吉も麻疹で亡くなります。

六代将軍・家宣編

家宣は、側用人の間部詮房に拾われた勝田左京を側室にします。家宣の死後、詮房と左京が関係を持ってしまい、江島生島事件の序章となります。

七代将軍・家継編

幼く病弱な家継の時代には、世継ぎを巡って権力争いが起こります。紀州派と尾州派の対立が激化し、江島生島事件が発生します。家継は病没し、八代将軍には吉宗が就任します。

九代将軍・家重編

吉宗の長女・家重は、言語障害などがありましたが、吉宗は彼女の能力を見抜き将軍に指名します。家重を支える田沼意次は赤面疱瘡根絶に向け動き出しますが、成果を上げるものの失脚します。

十代将軍・家治編

田沼意次は、十代将軍・家治の下で政を司り成果を挙げますが、松平定信に批判されます。大奥では、蘭学による赤面疱瘡の研究が進みますが、人痘法の副作用により田沼一派が失脚します。その裏には、治済の暗躍がありました。

十一代将軍・家斉編

家斉は、母・治済に実権を握られていましたが、密かに黒木に赤面疱瘡対策を再開させ、熊痘に辿り着きます。治済は家斉を殺そうとしますが、逆に毒を盛られ寝たきりになります。家斉は熊痘接種を徹底させ、男子人口は急速に回復します。

十二代将軍・家慶編

男子家督相続が復活する中、阿部正弘が女性寺社奉行として活躍し、老中に就任します。家慶の娘・祥子が性的虐待を受けていることを知り、瀧山を奥入りさせます。家慶は急死し、祥子は家定と名を改め、十三代将軍となります。

十三代将軍・家定編

家定と正弘は鎖国を終え、開国します。薩摩藩は、一橋慶喜擁立のため、近衛胤篤を家定の御台所として大奥へ送り込みますが、やがて家定も心を開きます。懐妊した家定は、出産前に亡くなり、胤篤は天璋院として大奥に残ります。

十四代将軍・家茂編

家茂が十四代将軍に就任し、公武合体の一環として和宮が降嫁してきます。現れたのは男装した姉の親子で、家茂は彼女らと絆を育みます。長州征討中、家茂は勝海舟に大政奉還を指示して亡くなります。

大奥の終焉

王政復古の大号令で、勝海舟は西郷隆盛と談判し、無血開城が約束されます。大奥が男の園であった証は処分され、『没日録』も焼却されます。大奥の歴史は闇に葬られますが、その代わりに江戸の町は守られました。

登場人物

物語には、多くの魅力的な登場人物が登場します。それぞれの時代ごとに、中心となる人物が異なり、複雑な人間関係が描かれています。

主要人物

徳川吉宗：八代将軍。質素倹約を旨とし、大奥改革を行う。
水野祐之進：貧乏旗本の部屋住み。吉宗のご内証の方に選ばれる。
徳川家光：三代将軍。赤面疱瘡で急死する（作中では女性）。
春日局：家光の乳母。大奥を作り替える。
万里小路有功：京公家出身の美僧。家光（千恵）の側室となる。
徳川綱吉：五代将軍。美貌と賢さを持ち、人々から愛される。
右衛門佐：大奥総取締。綱吉の理解者であり、愛人となる。

メディアミックス

『大奥』は、漫画の他にも、実写映画、テレビドラマ、アニメなど、様々なメディアで展開されています。

実写映画：2010年に第1弾、2012年に第2弾が公開されました。
テレビドラマ：2012年にTBSで連続ドラマ化、2023年1月からNHKでドラマ化。
アニメ：2023年6月からNetflixで配信。

受賞歴

本作は、多くの賞を受賞しています。

第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞
第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞
2009年度ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞
第56回小学館[[漫画賞]]少女向け部門
第42回日本SF大賞

書誌情報

コミックス：全19巻
英語訳：全19巻
中国語訳：既刊15巻